連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。

KZ

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始まりのバレンタイン

雪のバレンタイン

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 明るくなってきた外を見て、廊下から見える外の景色全部が、真っ白であることで改めて感じた。
 夜は暗くて分かりにくかったが、ものの見事に積もったな。本当に久しぶりに雪が積もったのを見た。

 5センチ。いや、その倍くらいはあるような気がするな。
 しかし、まだ誰も踏んでいない雪の上とはなんとも魅力的だ。

「ずいぶん早いわね。それと、昨夜はお楽しみでしたね」

 外を眺めていると、おばちゃんに声をかけられた。
 起こすことなく帰ろうと思ってたのに……。概ね予想どおりな、明らかに悪意のある台詞。

「俺は何か答えないといけないのかな」

「答えなくてもいいけど、顔を赤くして視線を逸らすくらいはして欲しかったわね。その様子じゃ、なにもなかったのね……」

 おばちゃんは俺をなんだと、そしてどう思っているのだろう。チョコレートを食べさせにいって、なにがあると思っているのか。

 ここは普通、娘を心配するところではないのか?
 どうしてそんなに残念そうなのか……。

「帰るの? どうせ学校なんて休みでしょ。これじゃ、電車なんて動かないわよ。裏はともかく表は雪どけなくちゃならないから、雪かき手伝いなさいよ」

「学校から連絡もくるかもしれないし、それならそれでやる事がある。だから帰る。あと、雪かきは手伝えない。おっちゃんとウチのパパンに頼ってくれ。俺はとても忙しい」

「2人が聞いたら怒るわね」

「その前に逃げるから大丈夫だ。それじゃ、おじゃましました。ルイには……別にいいか。さっきまで一緒だったんだから」

 ついさっきまで話をしていた。
 時間も忘れてずっとだ。
 いろんなことを話した。
 前とは違う。だけど、昔のようだった。

「本当にお楽しみだった……だと? そんなっ──、いやらしい!」

「…………。」

 もう、いいや。めんどくさい。
 どうせ分かってるくせに、こんなことしか言いやしない。帰ろう!

「冗談よ。スタスタ歩いていかないで!」

「いや、本当に帰るから」

 忙しいのは本当だ。何故ならバレンタインの用意があるし、学校がないならそっちに時間を使える。
 どうせ学校には行かなかったというのはナイショだよ? 徹夜して学校とか無理だったからね。

「そう、またいらっしゃい」

 昔のようにおばちゃんに見送られる。歩いて1分かかるのかどうかという距離なのに。
 思い出せば、ずっとそうだった。

「また来ます。今度はチョコレート作り抜きにして」

◇◇◇

 学校は休みだろうとたかを括り、あのままの状態で異世界に来ている。
 朝帰りをバレることなく部屋に戻り、お姫様の部屋に来たというわけだ。
 そしてクローゼットは開いているから、ここにいても電波は入るのだ!

 今しがた、『今日は休みだよ!』という連絡網が回ってきた。この連絡網に対する気持ちはみんな同じだ。代弁すると『やったぜ!』だ。

「おはよう。本当に朝早く来たわね」

「おはようございます。本日はお日柄もよく、実にバレンタイン日和ですね」

 向こうに雪が降っていたからといって、異世界まで雪は降らなかったらしい。
 ただ、いつもより気温は低い気がするな。早朝だからかな? この時期はこんなもんかな?

「……はっ? ああ、バレンタインには天気も関係あるのね。それで、朝から機嫌がいいのね」

「そうだ。雪降って学校が休みになったんだ。今日はバレンタインだし、ちょうど良かったというわけだ」

「で、本音は?」

「やったーーーーっ!! 雪降って学校が休みだ。明日も休みだし、やっふーーっ! もっと雪降って、ずっと休みにしてくれーーっ。だ」

 俺はこのくらいには思ってる。
 みんなも同じ状況なら、絶対にそう思うだろ?

「そう。救えないわね」

「ひどくないかい?」

 お姫様いわく俺は救えないらしい。
 何気に酷いと思ったりしてはいけないんだろうか……。
 朝からひどいよ。このお姫様。

「そんなことないわ。普通よ。それより、みんな待ってるわよ。とっととチョコレート作りにいくわよ」

「えっ、流石にまだ早くないか? ちょっと寝てから活動したいんだけど……」

 昨日は寝てないのだ。仮眠なり熟睡なりしたい。
 その辺も考えて朝早く来たんだから、少しは寝てから活動しても間に合うと思う。いいと思う。

「カカオ豆からチョコレートを作ってから寝なさい。それなら誰も邪魔しないから」

「それ、起きたらバレンタイン終わってたりしない? チョコレート食べる会であっても俺は参加するよ。来年のために」

「なら、行くわよ」

 今年が上手くいけばバレンタインが定着し、俺は来年からはジャンジャンとチョコレートが貰えるはず。
 そのためには今日の功績を残して、来年を迎えなくてはいけない。

「わかった。着替えてくるから待ってて」

「支度はしなくていいからいくわよ。あの格好は調理には向いてない」

 そう言うお姫様も今日はドレスではなく、町娘のような格好にエプロンをつけている。
 なんだろう。斬新な感じだ。いつもより庶民的というか、家庭的というか。

「なによ、ジロジロ見て」

「いや、その服はどうされたのかと思いまして」

「ミルクに頼んでいた服が出来上がってきたのよ。ついさっきね」

 ははーん……これはアレだな。
 服を褒めなくてはならないヤツだ。
 そういうの言うやつがモテるんでしょ? しってる、しってる。

「大変お似合いです。まさに町娘のよう。もうどっから見てもそうとしか見えない! よっ、町娘!」

 お姫様を褒めちぎっていたら『──ゲシッ!』っと、そんな音がした。スネの辺りからだ。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ──」

「──褒めるならもっとマシなことを言いなさい! ひっぱたくわよ!」

「──ぁぁ、すでに足が出てんじゃん!」

「いくわよ! まったく、少しは気の利いた台詞が言えないのかしら……」

 スネを蹴られのたうちまわる俺は、ぶつぶつ呟くお姫様に引きづられていく。
 このお姫様は、バレンタインから最も縁遠い気がする。そう思いました。

◇◇◇

 カカオ豆からチョコレートを作る。
 その作業において、最もめんどくさ……重要な作業は、ローストされたカカオ豆の皮をむき、胚芽を取る作業だと思った。

「大人数でやれば1人の持ち回りも減る。しかし、手は抜くな! 美味しいチョコレートにするためだ」

 なので、投入できるだけの戦力をここに投入しました。ここは皮をむく班。兵士たち多め。

「この細かい作業がチョコレートを美味しくするんだ。手は抜くな。頑張れ!」

 こっちは皮剥いたやつの胚芽を取り除く班。兵士たち多め。
 作業は分担して行い、効率よくチョコレートを作成する。昨日はなかったマンパワーが今日はあるからだ。

「で、ここが一番重要であり諸君の見せ場である。ひたすらにすり潰せ! 混ぜるだけチョコレートは美味しいくなる!」

 花形とも言える、かなりの力仕事である混ぜる班。
 ここには、おっさんたち脳筋組をフル投入し、機械との差を埋める。
 おっさんたちなら機械に勝てる。脳筋半端ないって!

「そういうプロデューサーさんは、さっきから何をしているんですか?」

 そう、ネコミミ少女のミルクちゃんが、純粋な瞳を俺に向けてくる。
 その様子は疑いなど知らぬ無垢な子供のようだ。

「何をか……。そんなの決まってるだろ。俺はみんなを指揮し、導くのが仕事なんだ!(キリッ!)」

「カッコいい……」

「ウソ、──本当に!?」

 それならミルクちゃんは、お、お、俺にチョコレートくれたりするだろうか。
 これは期待ありか? ありなんでしょうか!?

「ミルク、騙されちゃダメよ。そいつはね。ただ眠くてダルくて、何も手伝いたくないだけなのよ。仕事なんていくらでもあるのに、全く必要ないことをして、ただただサボってるだけよ」

「──本当のことを言うな! 純粋なミルクちゃんを惑わせないで。あわよくばチョコレート貰えたかもしれないのに!」

 キラキラした目で俺を見ていたミルクちゃんの前に、俺のしていたことを100パーセント理解していたお姫様が割り込んできた。

「ね? この男はこんなやつよ。信用してはダメ。あたしたちは、飾り付けを手伝いに行きましょう」

「……見損ないました。頑張ってる人を尻目に自分はサボってるなんて……クズ……」

 お姫様のいらない説明により、見損なわれた! きっと取り返しはつかない!
 ……どうしてくれんだよ。あとクズって……。

「でもさ、俺のやることは終わってんだろ? 誰がチョコレートのレシピと、カカオ豆からのチョコレートの生成法を伝えたと思ってるんだ。おいっ、2人とも。一瞬くらい振りかえろう? 俺だって頑張ってるんだって!」

 必死の呼びかけにもガン無視で去っていく2人。
 そんなに、そんなになのか? そんなにダメかい。

白夜はくやさん。良いところを見せるチャンスを持ってきました。少し手伝っていただけませんか?」

 女子たちと入れ違えに、イケメンと悪魔がやってきた。いや、ニクスも悪魔らしいから悪魔と悪魔がか。

「小僧。自業自得という言葉を知っているか? 意味はな……」

「セバス、説明すんなよ! 分かってるよ。俺みたいな状況だって言うんだろ。それで何!? お前ら会場にいたんじゃないの!」

「少々、困っていまして。ぜひ、白夜さんに言いくるめていただけないかと思いまして」

 問題が発生したわけか。といっても……どうせこないだのアンチたちでも騒いでいるんだろ。
 そのくらいしかトラブルなんて思いつかないしな。

「いこう、すぐ行こう! 失ったポイントを少しでも回復するために! どうせアンチたちだろ?」

「流石。その通りです。あのままにしておくと開始が遅れてしまいますから、早急に対応していただきたく」

「適材適所だ。催しを成功させるために尽力しろ」

 セバスに言われるまでもない。
 ここまで来て失敗とかムリだから!
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