連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。

KZ

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始まりのバレンタイン

後日談にはラスボスが潜んでいる……。

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 俺は妹に、少なくとも『変態』と思われている。
 確かに、そんなやつに連絡先は教えたくない。ただ、──弁明できない!

『実は異世界があってー、そこのお姫様に一愛いちかの服を着せたんだー』

 何1つ嘘ではないが、口にしたらヤベェやつ認定される。番号を教えてくれないどころか、口も聞いてくれなくなりそう。そして通報される。
 ルイには悪いが、一愛の服は特殊なプレイに使ったとさせてもらおう。それで妹は納得してくれるんだし、いいよね。

「お姉ちゃんがボコったらしいから、一愛からはとくにない。あとは本人たちの問題だと思います。ただ、清い交際をしたほうがいいと思います」

「……はい」

「よろしい。バレンタインにチョコレートを貰ったからには、お返しはきちんとすること。妹の手をわずらわせないよーに」

「……はい」

「よろしい。それから、これは可愛い妹からです」

 もはや完全に立場は逆転し、妹に説教された兄である俺。もう立場とかはない。最初からなかったのかもしれないが、無い。
 俺はそんな妹様から、何かを手に握らされた。

「チ○ルチョコ。一愛ちゃん、これは?」

「バレンタインはすぎたけど、バレンタインのチョコレートだよ。お返しはちょーだいね」

「チ○ルチョコ1個で!? 別に用意したとかじゃないよねこれ。絶対にたまたま持ってただけだよね!?」

「ふーん、バレンタインが解禁されて、やっと妹からチョコレートを貰えたのに。そんなこと言っちゃうんだ」

 バレンタインが解禁とはいったい……。
 俺のバレンタインは禁止されていたとでも、この妹は言うつもりなのか。
 そんなわけないとは思うが、今の発言はとても気になる。

「どういう意味?」

「お姉ちゃんが、れーとにバレンタインチョコをあげない以上は、誰もれーとにチョコをくれないということだよ。知らなかったの?」

「そんなバカな──」

「バカはおまえだ。お姉ちゃんの変化にも気づかず、アホづらをさらして今年まできた。お姉ちゃんがとめなければ貴様は、お姉ちゃんをからかったヤツらのようになっていたところだ」

 なんだろう。雲行きが怪しくなってきた。こう、ゲリラ豪雨的な感じになってきた感じ。
 これ以上は聞いてはいけない気がします……。

「ずいぶん詳しいみたいだけど、一愛ちゃんは何を知ってるのかな?」

 しかし、好奇心には勝てなかったよ。
 何より一愛は何かを知っているようだし。

「れーとが小5のバレンタインのときね。アホなれーとは気づかなくても、一愛とお姉ちゃんの周りの友達は、バレンタインの次の日には何かあったと気づいた。だから──」

「──だから?」

 怖い怖いと思っても、聞いてしまうのが人の性。
 まして俺の最大級のやらかしに関する、俺の知らないこと。聞くなと言うのは無理だ。

「からかったヤツらのクラスと名前を特定して、体育館裏に呼び出して──」

「──し、シメたのか!? 当時、小4のお前が!? 嘘だろ……」

 なんてこった。ここにも物理キャラがいたのか。知りたくなかった。
 のほほんとしてる妹だとばかり思ってたら、裏ではヤンキーさながらの悪事を働いていたというのか……。
 そんなこと、お兄ちゃんは知りたくなかったよ。

「違う! 問いただしただけだよ」

 あ、焦ったーーっ。妹がそんな、どこぞのヤンキーみたいなことをしていたらどうしようかと思った。
 そうだよな。我が妹に限ってそんなわけないよな。早とちりでした。

「よく1人でそんなことしたなー。はっはっはっ──」

「1人じゃないよ。クラスの女子全員と、お姉ちゃんの友達全員と、一愛が集められるだけの女子全員でだよ」

「こえーーーーっ! 想像だにしなかった! そんな体験トラウマだよ!」

 そ、想像してみようか……。呼び出された体育館裏に、大量の女子が待ち構えている状況を。
 きっと、呼び出された方は勘違いしていたことだろう。それが小学生男子であっても男は男。都合のいい勘違いをしていたことだろう。

 例えば、『バレンタインは過ぎたが、恥ずかしくて当日は渡せなかったシャイな子が!?』とか。『あえてバレンタインをずらしてきたか!』とか。『チョコレートが貰えなくても勝ちやんけ!』とか。

 それが、いざ行ってみれば真逆の展開。
 ちょっと多過ぎる女子たちが、自分を待っていると。いや、待ち構えていると。

 おそらく別々に呼び出され、行ったやつから確保され、きたやつから勘違いだったと後悔し、数の力で地面と同じ砂に変えられると。こ、こわい……。

「こわくて聞きたくないんだけど、その哀れな男子たちは今もちゃんと生きているのかい? 地面と同じ砂に変えられてしまったとかじゃないよね?」

「問いただして、お姉ちゃんに働いた無礼を心から謝罪させ、二度としないと誓わせただけだよ?」

「『だよ?』って最後を可愛く言っても誤魔化せないからな」

 そんなもんで誤魔化しきれない。どう想像しても怖すぎる。
 男子たちが行き着く先は、どう考えてもデスる結末だ。そうじゃなかったとしても、その後が心配すぎる。

「これ本当は、れーとがやらなくちゃいけないことだよね」

「……」

「それを、何も気づかずのほほんとしやがってー。当時は毎日、『こいつも同じようにしなくちゃいけないな』と思ってたんだよ」

「思ってたんだ……」

 俺にその刑が実行されなかったのは、ルイが止めたから。
 俺1人が大量の女子に囲まれる最悪のパターンもあったが、優しい幼馴染はそれを望まなかった。

 本当は哀れな男子たちも同様にだろう。
 一愛は無駄に行動力があるから、ルイが知ったのは男子たちがやられてしまった後のことなはずだ。

「で、結局その哀れな男子たちはどうなったんでしょうか?」

 俺には何も起きなかった。だが、犠牲者はいたのだ。
 救いようがないやつらだったが、今になったら可哀想だと思う。デスってしまったなんてさ。

「これは言ってもいいのかな?」

「やっぱり、実は全員生きてないとかってオチか」

「バカすぎる。あの男子たちが、どうしてお姉ちゃんをからかったのかわかる?」

 分からない。単に目についたからじゃないのか?
 分からないので首を横に振り、一愛の言葉を待つ。

「あの男子たちはねー、お姉ちゃんが好きだったんだよ。だから、そのお姉ちゃんがチョコを渡すのを見て魔がさした。好きな子が別の男にチョコを渡すシーンを偶然目撃してしまった。そんな気持ちもわからなくはない。だから、全員許されました」

 そうだったのか……。ルイに人気があったのも知らなかったし、そんな裏があるなんて思いもしなかった。
 俺は本当に何も分かってなかったというわけだ。しかし、そうなると疑問が残るよな?

「じゃあ、俺のバレンタイン解禁とは? 今の話に関係ある?」

「1人だけ何の罰もないのもアレなんで。お姉ちゃんがバレンタインにチョコを渡さない限り、れーとにチョコをあげてはいけないという法が出来ただけだよ」

「……えっ」

「そのかいあって誰からも貰えなかったよね。義理チョコでさえ禁止されていたからね」

 そんなバカな! しかし、実際に義理チョコすら貰えてない!
 法。法ができていた!? 俺の知らないところで! 当然、女子だけが知ってる法なわけで。野郎は知らないわけで。そうなると誰も教えてくれないわけで!

「ああ、からかった方の男子たちは、義理ですがチョコをいただいて今も幸せに暮らしています。おしまい」

 一愛がラスボスだーー! こ、こんなところにラスボスがいた……。
 バレンタインを禁止する法を制定し、何も気づかせず、のほほんとしているフリをしていた。おそるべき妹だ。

「れーとも、きっと来年からは義理チョコをいただけるでしょう。よかったね」

「ラスボスだ……。一愛、お前がラスボスだーー!」
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