連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ② 

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天使のホワイトデー 後編

俺の2月15日

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♢27♢

 ここで突然で申し訳ないが、必要なので話は2月15日に戻る。なお、これも現実での日付となる。
 これは天使ちゃんに、お姫様からバレンタインチョコが届いた次の日。今回の事件の発端となるアレより、1日後の俺の記録である。

「ちわーー」

 この日。俺は学校が終わりバイトへ向かう前に一度、学校から自宅のあるところの駅まで戻ってきていた。
 ここまで来たらもう帰りたいのが本当のところだが、そしたらマコちゃん殺されてしまうので、このあと電車に乗りバイトへは行った。
 そしてこんな事をするのには、するだけの理由がある。

「いらっしゃい。なんだ、本屋の倅じゃないか。珍しいな。ばあちゃんと来てた頃以来だな。 ……今日は何の用だ? 冷やかしか?」

 カランカランと音を鳴らし、店に入るなり失礼なことを言われたのを覚えている。
 確かに、同じ商店街にあるのに小学生の頃ぶりに来たところだし、この商店街のおっさんたちは、大体がこんなふうに失礼な奴らだったと記憶している。

「まあ、冷やかしだな。コーヒー1杯で5時間くらいいたいんだけどいい?」

「いいぞ。繁盛してるわけじゃないし。他の奴らと変わらないからな。そいつが1人増えるだけだ。好きな席に座れ、コーヒーはすぐ出してやるから」

 ここは商店街の外れで、駅の真ん前の喫茶店。
 隣がタバコ屋になっていて、タバコを吸ってたばあちゃんと昔はよく来た。
 ばあちゃんがタバコを買った帰りにここに寄って、ジュースを飲んだりしたんだ。

「本当はコーヒーも要らないんだけどいい?」

「コーヒー1杯入ります! 伝票付けてくれ!」

 正直に言ったらいいと言われたので、更に正直に言ったらダメだとなった。

「ちっ──」

 何かは頼まないとと気を利かせたのが失敗だったんだな。最初から、『ただここにいていいか?』と言うべきだった。次があったらそうするつもりだ。

「ばあちゃんよりタチが悪いな……なんだ、カウンターに座んのか? てっきりゲームでもやりに来たのかと思ったんだが違うのか?」

「えっ、アレ未だに動くのか?」

 この喫茶店はカウンターの席と奥のガラステーブルの席とになっている。で、ガラステーブルの席はガラスの下がゲームになっているやつなんだ。
 テーブルゲームというらしいな。それが6台くらいあり、昔はよくやった思い出がある。

「動くぞ。しかし、違うとなると……待ち合わせか? そこなら外がよく見えるもんな」

「そうなんだ。ここがいいって言われてさ。俺は嫌だってちゃんと言ったんだぜ? だけど押し切られてしまったんだ。悪いけどそういうわけなんで、しばらくぬくぬくと待たせてもらいます」

「まあ、そんなとこだろうな。理由があっただけ良かったぜ。ほら、コーヒーだ」

 おっさんはコーヒーを出したら黙った。
 俺も特に話すこともそんな気もないので、駅の方に注意しつつ喫茶店内にあった漫画を読んで過ごした。

 そんなことをして1時間が過ぎた頃、駅の前の駐車スペースに車が停まり、その後部座席から待ち合わせの人物が降りてきた。
 喫茶店の正面は道路を挟んで駅なので、こっちに来るには道路を渡らなくてはならない。
 何台か車が通り、それを早く通れとばかりに足踏みする姿を見て、『変わらないなー』って思った。

「なんだ、女が来たのか?」

「決めつけんなよ。そうだけど! 腰抜かすなよ?」

 俺の様子の変化に気づいたらしいおっさんは、しばらくぶりに口を開いた。
 このおっさん。女と待ち合わせだと分かっていて、それを言わないのがロクでもないと思ったね。
 だって、どうせ後でべらべらと誰彼構わず喋るんだぜ。ロクでもないだろ?

「おかしなことを言うな。誰が来たら腰抜かすんだよ。まさか、あのババアと付き合ってんのか?!」

「──どこみてんだよ! 違げぇよ!」

 おっさんには駅前にいるどっかのババアが視界に入ったらしく、変な勘違いをされた。
 もしそうなら違う意味でビックリだろうが、このおっさんも俺をなんだと思っているのか!


 ※


 そいつは正面がガラス張りの喫茶店の入り口。
 唯一曇りガラスのドアの前に立ち、パンパンと顔を叩き気合いを入れて、深呼吸して息を整え、勢いよくドアを開けた。
 自分に注目が集まりカランカランが鳴り止んでから、おきまりの口上を述べ店内へと足を踏み入れる。
 最後は可愛く回ってポーズまで決めるサービスぶりだ。

「ズズッ……」

 その全てにおっさんは呆気にとられ、店の中にいた近くのジジババも思わず立ち上がって見てしまう。
 思った反応と違ったのか、やった本人は顔を真っ赤にしている。最初から見てた俺以外はまあまあヒドイ反応だ。

「……お前、人前で恥ずかしくないのか?」

 久しぶりに直接会った幼馴染の渾身の頑張りに、心からの正直な言葉が出た。

「──恥ずかしいよ! なんでリアクションしないでコーヒー飲んでんだよ! ずっと気づいてただろ!」

「ズズッ──」

「待たせちゃったからサービスしたのに……。こんなことなら普通に入るんだった……」

 俺は特にリアクションもせずに、残ったぬるいコーヒーを飲み干し、店内からはパチパチと拍手が起こる。
 1人でやって1人でダメージを受けている幼馴染は、拍手に顔を上げ照れた顔をする。

「──真咲まさきちゃんか?!」

「ほら見ろ、ビックリしたろ!」

「ああ……──そうだ! サイン書いてくれ!」

 そう、彼女の名前は真咲。一愛いちかの言うマキちゃんだ。
 男みたいな名前だと思ったなら正しい。こいつは小学生の頃は男の子みたいなやつだった。
 ままごとよりサッカーが好きで、いつだって男子と遊んでいるやつだったのだから。

「バカめ、アイドルのサインはそんなに安くないわ! プライベートでサインを求めるなどファンに殺されるぞ。なんなら俺が殺してやろうか!」

 そんな男の子みたいなやつは、今やアイドルということになっている。
 全国的に有名なアイドルではないが、県でもだいたいの人は知ってるだろうし、地元ではジジババすら知っている有名人だ。

 しかし、通常時が分かるのは地元民だけだろう。
 真咲はアイドルしている時は、ウィッグなるものを付けているからだ。ボーイッシュすぎるのだと思う。

 あとアイドルってのもグループでやってるやつで、真咲はその中の1人。持ち前の運動神経をいかしダンス担当の元気キャラだ。
 そう、俺のハマっているやつだ! そのためにバイトしていると言っても過言ではない!

「いいよ。書くものちょうだい」

「……お前、俺にはダメだって言わなかったか?」

「ふんだ。ノーリアクションなヤツになんかサインしないよ。零斗れいとのバーカ!」

 サインどころかジジババには握手までするサービスぶりなのに、機嫌を損ねたらしい俺には本当にサインせずに、真咲は奥の席へと進んでいった。
 サービスしたからか真咲にはタダでコーヒーとケーキまで出てきた。この差! 俺だって同じ商店街で育ってきたのに。この差! ひどいよねー。


 ※


 最初に説明すると、真咲まさきも元は商店街の子だ。今はもうない商店をやってた家の子で、ルイの家の和菓子屋の隣がその店だった。
 店をやってた祖父が亡くなり、跡を継ぐ人もおらず店はなくなった。
 同じようにウチも本屋をやってたばあちゃんが亡くなったが、パパンがサラリーマンを辞めて継いだ。

 やる人がいなくなれば店がなくなるのは当たり前。
 まあ、商店街の話はいいよな。話を戻す。

「──で、何の用だ? 急に呼び出して。前に言ったイベントのチケットくれるとかか!? だったら超嬉しいんだけど!」

「違う。自分で手に入らなかったなら諦めて。だいたい、そんなことでわざわざ呼び出すわけないだろ」

「じゃあ何だよ?」

「ルイと仲直りしたんだろ。良かったなって思ってさ。あれ、ボクのせいだっただろ……。ずっと気にしてたんだ」

 俺とルイとの仲違いの原因を覚えているか?
 各自確認してくれるとありがたい。というか、そうしてくれ。
 あの過去のバレンタインの話で、モテたヤツがいて大量のチョコをもらうところがあっただろ。あのモテ男くんが真咲だ。
 男の子みたいだったこいつは、女の子からチョコを貰いまくっていたんだ。

「情報が早いな。ルイが言ったのか?」

「うん。真っ先にボクに連絡してきたみたいだ」

「そうか。なら、聞いた通りだ。痛い目をみたが何とかなった。それに、アレはどう見ても俺のせいだろ? お前が気にすんなよ」

「うん。ルイもおんなじこと言ってたよ」

 そうなんだが、そうなんだーって思ったよ。
 分かるかな……そうなんだけど、少しくらい私も悪かった的なことを言って、俺を庇ってほしかったというか。

「チョコレートも貰ったし、普通に喋るようになったし、連絡先も交換したぜ!」

「それは何よりだ。そんな零斗には渡すものがあったんだ。1日遅れになってるけど、気にしないだろ?」

 手ぶらに見えた真咲はコートのポケットから四角いリボンの付いた箱を出して、テーブルに置いた。
 昨日の今日なんですぐに察しはついた。

「チョコレートか。お前が俺に? ……毒とか入ってたりする?」

「──しないよ! 買ってきたやつだし、ふうも空いてないだろ! 今年唯一のボクからのチョコレートだからね。他には誰にもあげてないんだから!」

「それはスゴイな。たくさん、いいね~もらえそうだ。ドラゴンの写真がねつ造ってなって、いいね~付かなかったんだ。これならいける!」

 材料調達の際のリアルドラゴン討伐写真は認められなかったんだ。何も嘘はないのにだ。

「そんなどこにでも売ってるやつ、誰も信じないよ」

「なら、サイン! サインがあれば信憑性が上がる。というわけでサイン書いて!」

「しないって言ったろ。じゃあ、ボクもう行くから」

 真咲はチョコレートだけ置いて立ち上がり、スタスタ歩いていき、おっさんにお礼を言い、ドアノブに手をかけたところで振り返る。

「今度3人で会いたい。時間が作れる時に連絡するから、ルイにナイショでセッティングしてよ」

 それだけ言って真咲は本当に帰っていった。
 そしてこの1ヶ月後、3人のタイミングが合う日が訪れる。そう、本日3月15日である。
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