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天使のホワイトデー 後編
後日談
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♢26♢
今日は3月15日。これは現実での日付である。
昨日の水族館デートを最後に、長かった受験のための休みも終わり、今日から普通に学校です。
あー、行きたくないー。もっと休みたいー。
そんな本音を隠し学校へと来ました。
しかし、本当のところはもう帰りたいです。
本当に帰ろうかな。帰っちゃおうかなー。
「おはよう。今日は珍しく早いね。どうかしたの?」
下駄箱で帰ろうかと真剣に考えていると、マスクヤンキーに絡まれた。だが、久しぶりな気がするいつものいでたちに、少しだけ安心した。
「ああ、早く来すぎたせいか前に足が進まなくて。もう帰ろうかと思ってたところだ。どうだ、一緒に帰らないか? 1人では不安だが2人で帰るなら安心だ」
「安心って何が? 前にも言ったけど、下駄箱まで来て帰らないよ。それに明日からテストだよ」
……そういえばそうだった気もする。今日が木曜だから、金曜と月火水はテストらしい。
マコちゃんにはテスト期間はバイト休むって言ってあるし、土日の入るテストなんぞに慌てるようなこともない。
「テストなのは分かったが、ヤンキーが何言ってんだよ。お前、テストとか関係あんの? そんなん分からないなら、白紙で出せよ」
「なんだと思ってんだよ……」
なんだってヤンキーだけど? ヤンキーたちはテストなんて適当に乗り切るんじゃないの? 白紙上等だろ。
テスト前だろうとテスト期間だろうと、気にせず遊ぶのがヤンキーではないのか。
「いいよね、零斗は。授業を大して聞いてないのに赤点ないし。テストでは上の方だし」
「ハハハ、授業はちゃんと聞いてるよ? じゃなかったらいい点は取れないだろ」
「点、取れてんじゃん。零斗が真面目に授業聞いてる姿なんて、悪いけど見たことないよ。素行不良は進級に関係ないの?」
授業は聞いてる時は聞いてるし、きっと見えないところでも努力してんのよ。知らないけど。
それになにより赤点で補習なんて草も生えないし、ヤンキーたちと同じくくりになってしまう。それはない。マジでない。
「なんだ。進級に関わるほど成績やばいのか?」
「赤点が3つあるとヤバい……」
「ふむ。まあ頑張って勉強してくれ!」
「そこは勉強を教えてくれるところじゃないの!?」
何を言い出すのか。そんなことをするくらいなら帰りたい。何が楽しくて勉強を教えたりしないといけないのか。
たとえヤンキーがダブったとしても関係な……待てよ。比較的真面目なこいつが、進級あやしいとなると他の奴らは?
「なあ、機械科はバカばっかなのか? ウチのクラスはヤンキーしかいないよな。お前が進級あやしいなら、他の奴らはもっとあやしいわけだろ?」
「そうだね。だからみんな最近は早く来て勉強してるよ」
「俺、自分1人だけ2年生になるとか嫌だぞ。なんとかしろよ!」
「なら勉強教えてくれよ!」
割と偏差値はあったと思った学校だったが、入ってみればヤンキーばっか。
工業高校なんてそんなもんなのかもしれないが、ウチのクラスは特にひどい。
一応共学なのに女子の数も0だしな。電子科とか土木科は女子がいるのに!
「仕方ない。俺だけ2年生になるわけにもいかない。今回だけ面倒を見てやろう。今日の時間割は?」
「もう1年終わるのに、時間割すら把握してないのか……。テスト前だから機械以外は自習だよ。最初の2限だけ授業で後は自習だよ」
「えっ、なら本当に帰ろうぜ。自習なんて授業ないのと同じじゃん」
「──帰らない! 教室に行くよ!」
真面目なマスクヤンキーに引きずられて教室に行くと、まるで普通の学校のように机に向かう生徒たちの姿があった。
普段は絶対にないそのヤンキーたちの姿に、爆笑したのは言うまでもない。
※
「──以上で明日のテスト対策を終わりにする。先生方の顔色から察するに、山を張る作戦はかなり効果が期待できる。赤点だけ回避するのは簡単だ。これまで書いたところを覚えろ、暗記だ! できなければ来年も1年生だと思え? 俺はダブった奴は容赦なくイジる! 嫌なら暗記しろ。ひたすら書け! 書いて覚えろ!」
自習とはいえ各教科の先生は、サボらないように見張りをかねて教室にいた。
俺はその状況で教壇に立ち、先生にも聞こえるようにテスト対策を行った。
問題を作るのも先生なのだから、ズバリなところは顔にでる。人間とはそういうものだ。
あとは確実に出ると思ったところを重点的に教えた。
「大半が苦手とする明日の数学だが、あの先生は式の途中まででも点数をくれる。先生は努力は評価する人だからだ! 間違っても白紙で出すな。適当にではなく精一杯に数字を書け! 数字が違うだけで解き方は変わらない。1点だろうと積み重ねれば30点になるはずだ」
流石に全問不正解で赤点回避は無理だが、1点でもプラスされれば赤点回避できる可能性は増える。
こんなふうに俺の思う先生毎の傾向と対策も、教えられるだけは教えた。
明日の数学さえなんとかなれば、後は土日の頑張り次第だろう。
「先生! もう少し教えてください!」
「ダメだ! 山田くんには申し訳ないがダメなんだ」
「山田じゃねーってずっと言ってるよな!? 鈴木だよ!」
「そんなことはどうでもいい。先生は放課後は大事な予定がある。もう出ないと待ち合わせに遅れるので帰ります。キミたちは居残って勉強するように、ではまた明日」
結局、放課後になってしまった……。
何故、俺はヤンキーたちの面倒を最後まで見ていたのか。
ルイとの約束があるから、帰りたくても帰るわけにもいかなかったというのもあるか。いや、それしか帰らなかった理由はないな!
「先生、まさかデートですか!」
「そうだとも。新しくできた店にタピオカのやつを飲みに行く予定だ。羨ましかろう? なら、それを糧に頑張ることだ。そうすれば明日のテストはいい点取れると思うよ」
ヤンキーたちを煽っ……鼓舞して帰る。
少しでもヤル気を出されるのも先生としてのやるべきことだと思うから。決して煽っているとかではない。
「──零斗を行かせんな! 出入り口を塞いで教室に閉じ込めろ!」
「バカめ、教室に閉じ込められるのは経験済みだ! 同じ轍は踏まない。さらばだ!」
ガブリエルさんの地獄の授業でそれは体験済み。
脱出経路は考えてあるし、カバンは足元に置いておいた。これで俺が捕まるはずがない! ザマぁ!
なんなくヤンキーたちを振り切り、待ち合わせ場所である駅前に向かいます。
ルイより先に着いて待っていたいし。
※
「──悪い、遅くなった!」
先に待ち合わせ場所に到着し、ルイが来るのを20分くらい待った。
田舎なんで電車の数も少ないし、時間の関係もあるのでこれくらいはしょうがない。
「ふっ、俺も今来たところさ」
「……それ言いたかっただけだろ」
そうだけど……それを言われてしまうと、後のセリフが言えないじゃん。待った甲斐がない。
「じゃあ早速行くか。んっ、それ──」
「ああ、せっかく貰ったし……今日は朝寒かったからな」
ルイの首に巻かれているのは俺がホワイトデーのお返しにと渡した(渡してはないけど)マフラーだ。
寒かったのは本当かもしれないけど、ワザと巻いてきたと考えられる。
しかし、それを言うことなどできない!
「──そっか! 使ってくれるなら良かった!」
「ありがとうな……」
「お、おう!」
照れた方が負けだ。これはそういうやつだ!
選んだ甲斐があったとか、普段使いできるものをと考えたりした甲斐もあった。だが、なんかムズムズする!
「では、本当にタピオカの店に行こうぜ」
「そ、そうだな。売り切れとかだったらショックだしな」
今日は3月15日。これは現実での日付である。
昨日の水族館デートを最後に、長かった受験のための休みも終わり、今日から普通に学校です。
あー、行きたくないー。もっと休みたいー。
そんな本音を隠し学校へと来ました。
しかし、本当のところはもう帰りたいです。
本当に帰ろうかな。帰っちゃおうかなー。
「おはよう。今日は珍しく早いね。どうかしたの?」
下駄箱で帰ろうかと真剣に考えていると、マスクヤンキーに絡まれた。だが、久しぶりな気がするいつものいでたちに、少しだけ安心した。
「ああ、早く来すぎたせいか前に足が進まなくて。もう帰ろうかと思ってたところだ。どうだ、一緒に帰らないか? 1人では不安だが2人で帰るなら安心だ」
「安心って何が? 前にも言ったけど、下駄箱まで来て帰らないよ。それに明日からテストだよ」
……そういえばそうだった気もする。今日が木曜だから、金曜と月火水はテストらしい。
マコちゃんにはテスト期間はバイト休むって言ってあるし、土日の入るテストなんぞに慌てるようなこともない。
「テストなのは分かったが、ヤンキーが何言ってんだよ。お前、テストとか関係あんの? そんなん分からないなら、白紙で出せよ」
「なんだと思ってんだよ……」
なんだってヤンキーだけど? ヤンキーたちはテストなんて適当に乗り切るんじゃないの? 白紙上等だろ。
テスト前だろうとテスト期間だろうと、気にせず遊ぶのがヤンキーではないのか。
「いいよね、零斗は。授業を大して聞いてないのに赤点ないし。テストでは上の方だし」
「ハハハ、授業はちゃんと聞いてるよ? じゃなかったらいい点は取れないだろ」
「点、取れてんじゃん。零斗が真面目に授業聞いてる姿なんて、悪いけど見たことないよ。素行不良は進級に関係ないの?」
授業は聞いてる時は聞いてるし、きっと見えないところでも努力してんのよ。知らないけど。
それになにより赤点で補習なんて草も生えないし、ヤンキーたちと同じくくりになってしまう。それはない。マジでない。
「なんだ。進級に関わるほど成績やばいのか?」
「赤点が3つあるとヤバい……」
「ふむ。まあ頑張って勉強してくれ!」
「そこは勉強を教えてくれるところじゃないの!?」
何を言い出すのか。そんなことをするくらいなら帰りたい。何が楽しくて勉強を教えたりしないといけないのか。
たとえヤンキーがダブったとしても関係な……待てよ。比較的真面目なこいつが、進級あやしいとなると他の奴らは?
「なあ、機械科はバカばっかなのか? ウチのクラスはヤンキーしかいないよな。お前が進級あやしいなら、他の奴らはもっとあやしいわけだろ?」
「そうだね。だからみんな最近は早く来て勉強してるよ」
「俺、自分1人だけ2年生になるとか嫌だぞ。なんとかしろよ!」
「なら勉強教えてくれよ!」
割と偏差値はあったと思った学校だったが、入ってみればヤンキーばっか。
工業高校なんてそんなもんなのかもしれないが、ウチのクラスは特にひどい。
一応共学なのに女子の数も0だしな。電子科とか土木科は女子がいるのに!
「仕方ない。俺だけ2年生になるわけにもいかない。今回だけ面倒を見てやろう。今日の時間割は?」
「もう1年終わるのに、時間割すら把握してないのか……。テスト前だから機械以外は自習だよ。最初の2限だけ授業で後は自習だよ」
「えっ、なら本当に帰ろうぜ。自習なんて授業ないのと同じじゃん」
「──帰らない! 教室に行くよ!」
真面目なマスクヤンキーに引きずられて教室に行くと、まるで普通の学校のように机に向かう生徒たちの姿があった。
普段は絶対にないそのヤンキーたちの姿に、爆笑したのは言うまでもない。
※
「──以上で明日のテスト対策を終わりにする。先生方の顔色から察するに、山を張る作戦はかなり効果が期待できる。赤点だけ回避するのは簡単だ。これまで書いたところを覚えろ、暗記だ! できなければ来年も1年生だと思え? 俺はダブった奴は容赦なくイジる! 嫌なら暗記しろ。ひたすら書け! 書いて覚えろ!」
自習とはいえ各教科の先生は、サボらないように見張りをかねて教室にいた。
俺はその状況で教壇に立ち、先生にも聞こえるようにテスト対策を行った。
問題を作るのも先生なのだから、ズバリなところは顔にでる。人間とはそういうものだ。
あとは確実に出ると思ったところを重点的に教えた。
「大半が苦手とする明日の数学だが、あの先生は式の途中まででも点数をくれる。先生は努力は評価する人だからだ! 間違っても白紙で出すな。適当にではなく精一杯に数字を書け! 数字が違うだけで解き方は変わらない。1点だろうと積み重ねれば30点になるはずだ」
流石に全問不正解で赤点回避は無理だが、1点でもプラスされれば赤点回避できる可能性は増える。
こんなふうに俺の思う先生毎の傾向と対策も、教えられるだけは教えた。
明日の数学さえなんとかなれば、後は土日の頑張り次第だろう。
「先生! もう少し教えてください!」
「ダメだ! 山田くんには申し訳ないがダメなんだ」
「山田じゃねーってずっと言ってるよな!? 鈴木だよ!」
「そんなことはどうでもいい。先生は放課後は大事な予定がある。もう出ないと待ち合わせに遅れるので帰ります。キミたちは居残って勉強するように、ではまた明日」
結局、放課後になってしまった……。
何故、俺はヤンキーたちの面倒を最後まで見ていたのか。
ルイとの約束があるから、帰りたくても帰るわけにもいかなかったというのもあるか。いや、それしか帰らなかった理由はないな!
「先生、まさかデートですか!」
「そうだとも。新しくできた店にタピオカのやつを飲みに行く予定だ。羨ましかろう? なら、それを糧に頑張ることだ。そうすれば明日のテストはいい点取れると思うよ」
ヤンキーたちを煽っ……鼓舞して帰る。
少しでもヤル気を出されるのも先生としてのやるべきことだと思うから。決して煽っているとかではない。
「──零斗を行かせんな! 出入り口を塞いで教室に閉じ込めろ!」
「バカめ、教室に閉じ込められるのは経験済みだ! 同じ轍は踏まない。さらばだ!」
ガブリエルさんの地獄の授業でそれは体験済み。
脱出経路は考えてあるし、カバンは足元に置いておいた。これで俺が捕まるはずがない! ザマぁ!
なんなくヤンキーたちを振り切り、待ち合わせ場所である駅前に向かいます。
ルイより先に着いて待っていたいし。
※
「──悪い、遅くなった!」
先に待ち合わせ場所に到着し、ルイが来るのを20分くらい待った。
田舎なんで電車の数も少ないし、時間の関係もあるのでこれくらいはしょうがない。
「ふっ、俺も今来たところさ」
「……それ言いたかっただけだろ」
そうだけど……それを言われてしまうと、後のセリフが言えないじゃん。待った甲斐がない。
「じゃあ早速行くか。んっ、それ──」
「ああ、せっかく貰ったし……今日は朝寒かったからな」
ルイの首に巻かれているのは俺がホワイトデーのお返しにと渡した(渡してはないけど)マフラーだ。
寒かったのは本当かもしれないけど、ワザと巻いてきたと考えられる。
しかし、それを言うことなどできない!
「──そっか! 使ってくれるなら良かった!」
「ありがとうな……」
「お、おう!」
照れた方が負けだ。これはそういうやつだ!
選んだ甲斐があったとか、普段使いできるものをと考えたりした甲斐もあった。だが、なんかムズムズする!
「では、本当にタピオカの店に行こうぜ」
「そ、そうだな。売り切れとかだったらショックだしな」
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