Sランク狩人の狩り飯事情 エピソード0

KZ

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その1

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 狩を生業とする職業。そのまま狩人かりびと
 近年増加する怪物・怪獣被害の減少へと貢献する、この職業を志す若者は少なくない。
 なるのに試験があるわけでもない職業なだけに、荒くれや腕自慢などもその多くが狩人を名乗る。

 上のクラスの仕事の報酬が、とてつもなくいいというのも人気の理由だろう。当然、その分は危険が増すのは当たり前だが、それを差し引いても魅力的なのは確かだ。
 街の中にはないものが、普通では得られないものが、確かに街の外にはある。

 かく言う私自身も狩人であり、そのランクは最上位のSランク。山ほどいる狩人の中で一握りしかいない人間である。
 その私も、駆け出しの頃の理由としては被害うんぬんより、報酬と外への興味が主な理由だった……。

 13歳で狩人となりもう10年が経った。だが、決して長くはなかった10年だ。
 一度、街を離れ狩に出れば1週間。1ヶ月。下手するとそれ以上は街に戻れないのが、当たり前のような仕事だからだ。

 そんな外での仕事は生きるか死ぬかにプラスして、時間の感覚も曖昧になる。
 街に帰ってきて、『──はっ!? 年越してる』となったことが、10年の間に数回ある。
 おかげで街で毎年盛大に行われるクリスマスパーティに、参加できない年があったのを私は今だに悔やんでいる。

 そんな生活なだけに住む家も借家で十分足りる。いくら金があろうと、ろくに住まない家に金をかける必要はない。
 狩人として現役を続ける限り、家は必要ないだろう。

 協会きょうかいという狩人の仕事を斡旋、サポートする場所が家と言えなくもないか……。家も家族もない私にとってはだが。
 なに、これに大して特別な理由があるわけではない。よくあること。その結果の天涯孤独というだけだ。

 しかし、天涯孤独で家族はなくても、それに類する者たちはいる。共に戦う仲間たちだ。
 協会の人間。パーティを組む人間。彼ら彼女らは仲間であり、私の家族だと思っている。

 そうだな、私は共に戦う仲間にも恵まれた。長くパーティを組んだ彼らには感謝しかない。男ばかりだが気のいい奴らだ。それに頼りになる。
 己以外を信じない私だが彼らは別だ。長く苦楽を共にした彼らは、信用できる男たちだ。だからこそ理解して欲しかった……。快く受け入れて欲しかった……。

『悪いが、今日でパーティを抜けさせてくれ。なに、私の抜けた穴は大したことない。代わりなんていくらでも見つかる。今や、腕のいい後衛職はごまんといる』

 こう私は打ち上げの席で口にした。全員がいるところで、大きな仕事を終えたところでだ。
 このことは最近ずっと考えていた。その区切りをつけるのに、今回の仕事の終わりはちょうど良かったのだ。
 竜種を討伐し、多額の報酬を得て、近隣の被害の心配もなくなった。だから……いや本当は。ずっと以前から考えていたんだ。

『……何言ってんだよ。冗談だろ?』

『悪いな。冗談じゃない』

『お前ほどの男がパーティを抜けてどこにいくんだ。休みが欲しいって話なら、竜種もいない、金もある。1ヶ月でも2ヶ月でも──』

『それでは足りない。実はな、やりたい事があるんだ。それにはうんと時間がかかる。その間中、お前らに迷惑はかけられない。だから、』

『──納得できるか! ずっと一緒にやってきた仲間だろ、俺たちは! 大して話もせずに、理由も分からずに、納得できるわけないだろ!』

『……それは言えない。黙って送り出してくれ……』

『──できねぇって言ってんだよ! 納得のいく理由を説明してみろ!』

 こいつは私たちのパーティのリーダー。熱い男だ。
 熱苦しいくらいの男なのは分かってた。駆け出しの頃からずっと一緒だから。
 残りの2人も、こいつほどではないが熱いものを持っている。その2人が口を出さなかったのは、一番付き合いの長いリーダーが、自分たちの分も代弁していたからだろう。

『分かった。説明しろと言うなら説明してやる。その代わり、聞いても後悔するなよ? いいか。オレは、─────────、───────────! ─────────、─────────!』

『『『──!?』』』

 しかし、熱いものと言うなら私も同じだな。『オレ』なんて言ってしまうのは、親しい人間の前でだけだ。
 何かしらの熱量がなければ、狩人なんて続かない。熱量は必要なものだ。
 そして、私の熱は狩より別なことに向いている。それがパーティを抜ける理由である。

『──だからだ! 分かったか、このクソ野郎共が!』

『お、お前。ず、ずっとそんな事を思ってたのか?』

『あぁ、思ってた。逆に聞きたいが、何も思わなかったのか? 10年だぞ、10年! 我ながらよく我慢した。だが、もう限界だ。協会に直談判してもダメだった。となれば、自分でやるしかないだろうが!』

『わ、分かった。お前はそういう男だったよな。パーティは抜けてくれて構わない。お前らもいいよな? OK、全会一致だ。だが、忘れんな。何があろうと俺たちは仲間だ。戻るところは残しておくぞ』

『……いつになるか分からないぞ?』

『それでもだ』

 こうして10年という時間を過ごしたパーティを抜けた。次の日からは必要な道具を揃えたり、拠点とするべき住むところを探した。
 それだけで2ヶ月という時間がかかった。やはり、パーティを組んだままでは出来ないことなんだと、私は改めて自覚した。
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