アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

177 マリー先輩とデート

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訓練と並行して、先輩たちの講義も続いた。
今日はビリー先輩のレクチャーだ。

「何か解らない点があれば適宜質問してくれよ」

そう言いつつビリー先輩が話し始めた。


「学園ダンジョンを探索する目的は、未だ見ぬ階層、未階層を攻略することと、いずれは最終的な階層にまで辿り着くことにあるんだ」

うんうん。

「学園ダンジョンの構造は、各地にある他のダンジョンとほぼ同じ構造だよ。
地下へ地下へと続く階層。各階層の終わりには階層主の部屋があるんだ。
この階層主を倒すと、次の階層への扉が開かれる。
もちろん階層主に会うまでもさまざまな魔獣がその進路を塞ぐけどね。ここまでで質問は?」

「「「ありません」」」

5年のシャンク先輩、1年のセーラと俺、誰もが頷いた。

「50数年間、諸先輩方が費やした凡そ半世紀ほどのアタックから判明しているのが、チームの定員なんだ。
1人から最大で5人の人数が遭遇する魔獣の能力や数は一緒。これ以上の人数での探索は、遭遇する魔獣の能力も上がり数も増え、格段に難易度も跳ねあがるんだ。
だから、チーム定員は5人が理想的だということなんだよ」

あーこれは俺も知ってるよ。なぜか難易度は人数に比例してるってことを。

「各階層主を攻略すると、次の階層へと至る扉が現れる。扉の先にはセーフティエリアと呼ばれる休憩室があるよ。
倒した階層主はその1日後に再び蘇るから、学園ダンジョンパーティーの編成が2チーム各5人なんだ。先行するチームが階層主を倒し、セーフティエリアにて待機。後行のチームと入れ替わり、今度は後行となって次なる扉を目指すんだ。後行のチームは階層主と戦わずに次へ進めるからね。
効率と安全性で生み出されたのが、現在の1パーティー2チームの構成なんだ。ここまではいいかい?」

全員が頷く。

「不幸にしてチームの誰かが魔獣との戦闘中に負傷。もしくはなんらかのアクシデントにより探索が続けられなくなれば、そこよりはチームは合流。10人のパーティーとなって撤退することになるよ」

あっ、あのビーっとなる遺物のことだな。

「ビリー先輩、10人になったら魔獣は増えるんですよね?」

「そうだよアレク君。でもね5人で満足に戦えないわけだから、ここは隊からパーティーに戻って撤退の一択なんだ。だからここからはパーティーが全員一丸となって撤退あるのみとなるんだよ」

「わかりました」


「チーム編成もね‥」

うーん。さすがビリー先輩だよな。説明もわかりやすいよ。
たぶん俺やゲージ先輩だったら、感覚的な説明に終始するだろうなあ‥。



探索するチームの理想型も諸先輩方の経験から明らかになっている。

斥候。足の速い者が索敵をしつつ先頭を進む。
その後ろを戦士や格闘家が前衛となり、弓士や魔法使いの遠距離攻撃に適正を持つ者がその支援。さらに後方では治癒魔法や聖魔法を発現できる魔法使いが回復役を担うというのが役割分担。
最後列の者が、食糧等荷物を運ぶポーターを務めるんだよな。

俺、あの髭を生やしてお腹の出たおっさんみたいなポーターに憧れる。

「今回のこのチームが有利なのは、聖魔法を発現できる者が2名、遠距離攻撃ができる者が2人いることなんだ。
そして学園ダンジョン攻略上の最大のキモは2チームが平均した戦力であることなんだ。ダンジョンには魔法しか効かない魔獣も、魔法がまったく効かない魔獣もいるからね」

たしかに、今回の俺たちには聖魔法を発現できるリズ先輩とセーラ。弓を使えるビリー先輩と俺がいる。

もちろん、他にも格闘に秀でたタイガー先輩、ゲージ先輩。

体力にも優れたオニール先輩とシャンク先輩。

探索行動には絶対的にすごいキム先輩に精霊魔法を使えるマリー先輩もいる。


「いかに階層主にあたるまで体力や魔力を温存するか。
そのためには、いろんな方面で攻撃ができる平均点な2チームは記録にも大きなアドバンテージになるんだよ」

なるほどな。
まるでア勉ジャーズだな、俺たちは。




ーーーーーーーーーーーー



「アレク君、明日の昼から時間とれる?」

「はい?(こっこれは!)も、ももももちろん大丈夫です!」

いよいよ学園ダンジョンの探索が迫るなか、マリー先輩からお誘いがあった。

そうマリー先輩とおデートである。

2回めの人生にして、人生初のおデートなのである。

一説には、学園ダンジョンに入る前にマリー隊長が1人1人の隊員のメンタルを確認するなんて言う輩がいたが、それは嘘八百、真っ赤な嘘なのである。

誰がなんと言おうとおデートなのである。


俺は森の熊亭にマリー先輩をお誘いした。
森の熊亭で2人で1つのパンケーキを食べるのである。



「マリー待ったかい?」

「うううん、今着いたとこ」

「そうかい」

「このパンケーキ、とっても美味しい!」

「ん?マリー、口の端にシロップが付いてるじゃないか。ほらこっち向いて」

ぺろぺろ

「アレクありがとっ!」

「マリーは慌てん坊さんだなあ。はっはっは。はっはっは。はーっはっはー‥」






「ア、アレクちゃん?」

「母さん、そっとしておいてやれ‥」

「父ちゃんの言うとおりだよ、母ちゃん」

「「アレク兄ちゃん‥」」

「ほらステファンもステファニーもこっちにおいで」

「「「・・・」」」





「‥レク君。アレク君?」

「!(ハッ!危ない危ない。またどっか逝ってたよ)
は、はいマリー先輩!ま、まままま待ってません。いいい今着いたばかりです!」

「フフフ。そうなの。
ここ人気の食堂なんですってね。私、初めて来たわ」

「はい。『森の熊亭』はシャンク先輩の従兄弟の、トールのお父さんたちがやってるお店なんです」

「あら、そうなの」

「お勧めはパンケーキです!」







「このパンケーキ?とっても美味しいわ。このメイプルシロップ?も蜂蜜に似てるね。甘くて美味しいわ!」

「よかったです!俺、ダンジョンにも持っていきますから」

「あーやっぱりアレク君の作ったものなのね!本当にあれこれやってるわねーフフフ」





「リズの契約魔法で精霊魔法も使えるでしょ。どうするの?」

「はい、必要であれば俺も使いますね」

「そう。よかったわ」

「あとね、私と同じでアレク君はこれから6年間、学園ダンジョンの探索が続くわ」

「はい」

「たぶんね、下級生でいる内は意見も通らない可能性があるわ」

「今年、こんなにいい先輩たちばかりなのにですか?」

「ええ。残念ながら人って考え方をなかなか変えられないものなのよ」

「はい‥‥」

「だからね、セーラさんと2人でしっかりメモをとっておいてね。自分たちが6年になるときのために」

「はい‥」




このときの俺は、マリー先輩のこんな話なんて俺には関係ないだろうと思ってたんだ。だってそのくらい、今の6年1組の先輩たちが良い先輩ばかりだったから。

俺たち1年の意見も正面から聞いてくれてたし。


ところが翌年の学園ダンジョンからは、マリー先輩の言う通りだった‥。



マリー先輩からは過去のダンジョンの話をいろいろ聞いた。

「マリー先輩、俺マジックバックが欲しいなあ。出ないかなあ」

マジックバック。

これぞ未来の猫型ロボットのお腹だよな。夢のような鞄だ。
何せバックの中は時間が止まってるんだから、温かいものも冷たいものも入れまままで保存できる。ラーメンだって麺がのびないだろうし。

「前も言ったけど、残念だけどたぶん無理よ。だって50年探索して1度も出ないんだから」

「マジ?やっぱりそうなんだ‥」


「じゃあアレク君、そろそろ帰ろうか」

「はい」

「えっ!?」

「どうかした?」

「いえ、なんでもないです‥」

あっれー!
もしかしてー!

森の熊亭の奥のほうで、楽しそうに語らいながらパンケーキを食べていたのは、ロジャー顧問と商業ギルド受付のミランダさんだった。

「マジか?」
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