アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

197 13・14階層

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サーイエスサー!
絶対に怒らしたらいけないのはシャンク先輩だった。

「気をつけような」

「え、ええ!」

学園ダンジョンが終わったあとも俺とセーラは深く心に刻むのだった。


――――――――


13階層に来た。
青々とした丘が長く続く草原みたいだ。

「じゃあまたアレク君が前衛でシャンク君がポーターね」

「「はい」」

なんかホッとしたのは内緒である…。







草原。
ここは索敵も容易だけど、魔獣からも丸見えなんだよな。


ダッダダダッ…ダッダダダッ…ダッダダダッ…

丘いっぱいに拡がってゴブリンライダーの大群が押し寄せてくる。
なんかね、モンゴルの騎馬軍団が頭に浮かんだ。
疾風怒濤。速さを武器に、あっという間に中央アジアの1国からユーラシア大陸の覇者となったチンギスハーンだ。
規模こそ違え、武田騎馬軍団もそうだった。
風林火山。疾きこと風の如し。


昔の記憶。

最近は特に中学の頃の記憶が甦る。
あの寝てばかりいた辛いばかりの病床生活。その頃に読んだ本や遊んだゲームの世界観に通じるこの世界。
あの頃の記憶が、今の俺の手助けをしてくれている。


ダッダダダッ…ダッダダダッ…ダッダダダッ…

丘いっぱいに拡がってゴブリンライダーの大群が押し寄せてくる。
凡そ100組か。
ダンジョンでなければ、間違いなく冒険者ギルドのレイド案件だ。


「アレク君手伝おうか?」

「マリー先輩大丈夫です」

「マリー先輩はシンディと2人で後方だけ注意していてください」

「わかったわ」



ヨシ、やるか!
草原の中。
攻めくる騎馬軍団に1人立ち向かう忍者の俺。かっけー!

「どとん、ばぼーさくの術!」

「あー、またアレク訳の分かんない馬鹿なこと言ってるわね!」

「すいません…シルフィさん…」


だってね、中2病ゴコロがくすぐられるんだよ。こんなシチュエーションは。

俺は無詠唱で魔法を発現できるけど、できるだけ口にするようにしている。何をやるのかを周りの人に知らせられるし、何より自分自身が発現することを明確にできるから。


ズズズズズーーーーーーッ!

発現したのは高さ2メルほど、斜めに棘が出た拒馬、馬房柵だ。
直撃すれば、串刺し必至の強固なディフェンスとなる。
しかも土塀よりも密度も少なく間隔を空けて発現できるから、広範囲にしかも魔力も少なくて済む。
魔力が途中で無くなるなんてことはない。
こんなところで魔力欠乏なんかしてたら、ホーク師匠にまたカエルの巣窟に放り込まれるよ。


ズズズズズーーーーーーッ!

土魔法で発現させた馬房柵(拒馬)を逆三角形に設置。だんだんと狭めた進路は最終的に、2、3組のゴブリンライダーしか通れなくなる仕様だ。

イメージは砂時計。
砂が落ちる箇所。狭めていけば砂が落ちる速度はゆっくり一定になる。
ゴブリンライダーもそう。出口では押し合いへし合いになる。

ダッダダダ…ダッダッ…ダッダッ…ダッ…タッ…タッ…タッ…タッ…タッ

想定通り。
砂時計の砂状態のゴブリンライダーだ。

ゆっくり落ちる砂みたいに。出口に俺が立って刀を振りまくる。

ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!

溜まるゴミはときどきシルフィが風魔法で左右に散らしてくれるから、ひたすら刈るのみだ。

ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!ザンッ!

ハーハー、ハーハーハー…。

さすがにちょっぴり疲れたわ。

魔獣肉も魔石も、ゴブリンライダーに利用価値はなし。

「考えたね、アレク君」

「アレクのアイデア、すごいね!」

「僕もびっくりだよ!」

「あはは。よかったです。先行きましょう!」

「「「はい!」」」







見渡す限りの広い草原。
場所柄なのか、流石に視認できる魔獣は向こうからも見えるわけで。
これでは『魔獣除けバケツ』の効果も今ひとつである。
何度も何度も襲いくる魔獣たち。
さすがに索敵もかなりの確率で良くなってきたよ。7割くらい?
でも10割じゃないからシルフィには怒られるけど。



ん?

微かな気があるけど…。ゴブリンには違いないんだけど、ちょっと違うな。
コイツは一体?

「シルフィ?」

「ええ、アレク。ゴブリンはゴブリンだけど、これは初のタイプじゃないかしら」

「アレク、注意したほうがいいわ」

知ってるゴブリンなのか、シンディは顔に警戒の色をハッキリと現した。

「「怪しいね」」

珍しくシルフィとシンディの意見が合った。しかも2人とも学園ダンジョンで初めて見る真剣な表情だ。
この2人が警戒をするゴブリンって…。



草原に伏せているゴブリン。
これ弱いやつ?
いや、なんか違うな…。

俺がこれまで会ったゴブリンは、普通のゴブリン、矢を放つゴブリンアーチャー、魔法を発現できるゴブリンメイジ、ワーウルフやブッシュウルフに乗るゴブリンライダーだ。

今、探知の網に引っかかったゴブリン。こいつはこれまでのやつら達とは明らかに違う。
これまでの索敵では初めて感じる気を持ったゴブリンだ。
擬態で姿を隠すだけとは違うんだよなぁ。
気、気配を、その存在自体を明らかに意識して隠すゴブリンだ。

「マリー先輩?」

「ええ、本来ならもっと下。30階層前後にいるはずのゴブリンよ」

マリー先輩の表情も硬い。

「アレク、何がいるの?」

「どうしたのアレク君?」

「ああセーラ、シャンク先輩。この先、右側が少し丘になってるでしょ」

「ええ」

「うん」

「あそこに隠れてる奴がいるんだ」

「ええ?」

「うん、僕もゴブリンの匂いはするんだよね。でもそんなに強そうには思えないし。でもなんか変に思えるんだ」

熊獣人のシャンク先輩。聴覚、臭覚ともに人族の20倍はある。
だから『魔獣除けバケツ』の臭いもキツかったんだけど…。
そんなシャンク先輩にも感じる、何かの違和感。


「・・・」

「アレク?」

「ああセーラごめん。あそこに隠れているのはゴブリンソルジャーなんだ」

「ゴブリンソルジャー?」

セーラも初めて聞くんだろう。

「ああ」

俺も初めて会敵するゴブリンソルジャーだ。
でも油断はしない。最初から全力で叩く。


◯ゴブリンソルジャー
ゴブリンの上位種。二足歩行。80~100㎝前後。人族3歳程度の容姿に近い。
対人戦のみに特化した危険度の高い魔獣である。人並みの知恵がある。当初は青銅級冒険者レベルではあるが、対人戦を積む毎に能力が向上するため、出来うる限り速やかに駆除する必要がある。
永く対人戦を生き延びたゴブリンソルジャーはゴブリンサージェント(軍曹)・ゴブリンキャプテン(大尉)・ゴブリンコロネル(大佐)・ゴブリンジェネラル(将軍)へと進化をする。
食用不可。


300メル(300m)ちょっと先にいる。
コイツが強くなったら厄介なんだよな。



ここでシルフィが言った。

「アレクちょっといい?アレクは探索するのに、魔力を伸ばして探索をするでしょ」

「うん?」

「たぶんキムって子からもそのうち教えてもらうと思うけど、魔力は相手からもわかるのよ」

「えっ?それって…」

「そう。アレクが索敵で相手の強さがわかるように、相手もあんたの強さがわかるの。だから薄く薄く伸ばすし、気づかれないように風向きも考えるのが大事ってことなの」

「・・・」

相手からも索敵されてる?これは考えてもなかったな…。



【  ゴブリンソルジャーside  】

\*  +ヲノ  8☆  マ%  ??  $☆  Eィー!





どうすれば、相手に気づかれずに索敵できるんだろう。
シルフィじゃないけど、今の俺くらいダメちゃんだったら、強い奴からしたらまさしくカモだよな。
幸い、この先のゴブリンソルジャーはそんなに強くはなさそうだ。尚且つ俺が風下だから。

「ちょっと待っててください」

俺はこの場でみんなに待機をしてもらう。
そして、1人気配を消してゴブリンソルジャーに近づく。
ゆっくりゆっくり、ゆっくりゆっくり、ゆっくりゆっくり…

50メル(50m)先からはさらに慎重に、音を立てずに、匍匐前進。
ゆっくりゆっくり、ゆっくりゆっくり。


ここだ!

ヒュッ!
ザクッ!

放った矢は、シルフィの力も借りて、真っ直ぐにゴブリンの身体を射抜いた。
よし!
気配を隠したまま、ゆっくりと立ち上がる。

と!
仲間の後方からわらわらと接近するゴブリンライダーたちが。

「アレクー戻って!」

セーラの叫び声が聞こえる。

「今行く!」

ダッ!

突貫で仲間の元に戻る。

「後ろからゴブリンライダー50組来ます!併せて前からも20組!」

「マリー先輩は前をお願いします!」

「わかったわ」

ダッ!

5組のゴブリンライダーの波状攻撃。次いでまたわらわらと数十体のゴブリンが走り寄る。中にはオークも含めて。

拒馬(馬防柵)は間に合わないか。

ダッ!

ザンッ!
ギャーッ
ザンッ!ザンッ!
ギャーッ ギャーッ
ギャーッ

更に増えたな。

「エアカッター!」

ザンッ!
ザンッ!
ザンッ!
ザンッ!

ギャッギャッギャッギャッー


気づけば、四方からゴブリンライダーの波状攻撃を受けていた。
やっぱりダンジョンは進めば進むほどだんだん難しくなってくんだな。
不用意に立ち止まってたらダメなんだ。



「行きましょう」

「ええ」
「うん」
「はい」







そのとき。
俺は気づかなかったんだ。
最初のゴブリンソルジャーから矢を回収して、倒した相手を確認することをしなかった。
ゴブリンソルジャーには、最初から人並みの知能もあることを深く考えなかった。




ゴソゴソ  ゴソゴソ  ゴソゴソ

矢を受けたゴブリンの死体の下からゴブリンソルジャーが這い出てきた。
ゴブリンソルジャーは弓矢で狙撃されることを想定し、仲間のゴブリンの死体を背に隠れ潜んでいたのだ。


「アレク…殺ス!」

ゴブリンソルジャーが、ゴブリンサージェントになった瞬間だった。




13階層、14階層と踏破した。
当初よりは格段に難しくなっている。
それでもまだまだ大丈夫だ。


僅かな違和感。僅かな距離感。僅かな歪み。
 それが致命的な代償へ繋がることになるとは……この時は誰も想像できなかった。
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