アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

239 デュラハン(前)

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過去の記録通り、30階階層主はデュラハンだった。


騎乗の騎士。
人馬一体とはまさにこのことだろう。


大型の黒鹿毛(くろかげ)馬。
その頭部から前脚に至るまでをすっぽりと鎧兜で覆われている。
凶々しさはひしひしと感じるけど生気はまるで感じない。

騎乗している騎士も同様。
凶々しいオーラは黒馬以上だ。全身から煙が上がっているようなオーラを発しているんだけど……首から上が無いんだよね。
黒馬同様に真っ黒な鎧に身を包み、やっぱり生気のかけらも感じない。


首無し。
デュラハン。
ゲームに出てくる中盤の主役級存在感。
こいつを倒さなければ先にいけないんだよね。


◯デュラハン
黒馬に騎乗した首無しの騎士。
首無しの容姿からアンデットと思われているが聖魔法の効果がほぼみられないため、アンデットではないと考えられている。
「オートマタ(自動人形)」の一種と思われるがこれも定かではない。
中原での出現例はヴィヨルド領の学園ダンジョンのみである。
聖魔法を含む各属性の攻撃魔法は無効化される。
魔石はない。



 「・・・」

人馬ともに無言。
じっと俺たち侵入者の挙動を窺っているようだ。
ていうか、首のない騎士はどこ見てるんだろう。ひょっとして馬の目と連動してるの?




マリー先輩が指示を出す。

 「セーラさんは聖壁の中にいて。誰か傷ついたら回復治癒魔法をお願いね。聖壁もデュラハンに破られるかもって用心してよ」

 「はい、マリー先輩」

 「みんな、あとは予定通りでいくわよ」

 「「「はい(了解)!」」」


階層主の対デュラハン戦は体力勝負だっていう。
その点は15階の階層主ヨルムンガーと同じだ。
違うのは、騎馬対歩行の対人戦。
一歩間違えると、限りなく生死に関わる勝負になる。
その上、すぐに再生するのもヨルムンガーと同じに厄介だっていう。

ヨルムンガーよりさらに厄介なのは、魔法攻撃が効きにくいということなんだ。首無しの見た目からはアンデットに見えるんだけどね、聖魔法は一切効かないらしいんだ。
だから、こちらが傷つかずに少しずつ相手を削っていくのがその正攻法。


 「アレク君、また何かいい考えがあればお願いね」

 「はい」

うん、何か突破口やいいアイデアがあるはずだ。


 「さぁいくわよ。みんないい?」

 「「「はい(了解)」」」


デュラハンに対峙する陣形。

先陣は俺とキム先輩。
作戦通り、いざ開戦したらキム先輩はすぐにデュラハンの背後につくはずだ。
タンク(盾)のシャンク先輩は盾と鉄爪を構えて陣の中央でセーラを守る。
弓を片手のマリー先輩が中距離攻撃。



対して。
馬上。
首無しの騎士のデュラハンが右手に握るのが騎槍(ランス)。
先が尖ったランスは刺突に特化した武器だ。


カッカッ  カッカッ カッカッ…

足踏みをするように黒鹿毛馬が前脚を踏みしめる。突撃態勢にある黒馬の前動作だ。


 「来るよ!」

首無し騎士が黒馬の腹をトンと蹴った。

ダッ!

黒馬が駆けだす。
それとほぼ同時に。

シュッ!

マリー先輩が矢を放った。

フッ!

いきなりキム先輩も消え去った。

マリー先輩が放った矢尻がデュラハンの胸元の鎧に当たる。

カーーーンッッッ!

金属同士が接触する甲高い金属音を響かせた。
一気にトップスピードとなったデュラハンのランスが前衛の俺の胸元めがけて、突きだされる。

サッ!

ザンンンンッッッッ!

さっと刀を前に合わせて避けた俺はランスの槍先をパリィ。

ギギギギギーーーー!
パチパチパチパチ!

そのまま刀身の腹の上をデュラハンのランスが滑り落ちていく。
パチパチと火花をたてながら滑り落ちるランス。

 「くっ……」

俺は腰を落として踏ん張りつつ、両手でしっかりと刀を握りしめる。

ギギギギギーーー!

鍔まで押し寄せるランスの上からの圧力を流し……くっ……流し……流し去る。

 (ヤバっ!転けるかと思ったよ…サスカッチと闘った疲れがまだ抜けてないのかな)


ここまでわずか1秒2秒。
凝縮された攻防だ。



ダッダッダッ  ダッダッダッ ダッダッダッ ダッ ダッ ダッ ダッ

吹き去った強風のあとの静寂のように。
ランスを片手に10メルほど後方で歩みを止めた黒馬がゆっくりと振り向いた、そのとき。

 コクン

天井で逆さに足を付いていたキム先輩が俺に頷く。


スッーーー タッ

黒馬が回転する位置がわかっていたように。真上の天井からデュラハンの背中に立つキム先輩。

 !!

首無しデュラハンの驚愕の様が見えるようだ。
首無し騎士の背中から翳されるキム先輩の両掌。

「闇魔法  アシッドガン(酸弾)!」

ユラリと浮かんだ黒霧がスーっとデュラハンの体内に入っていくように見えた。

 「アレクあとは任せた!」
 
 「はいキム先輩!」

 「キム、ナイスよ!」

黒馬の背からスッと消えるキム先輩。


かっけぇーーー!

キム先輩の闇魔法、初めて見たよ!

キム先輩曰く、闇魔法「アシッドガン(酸弾)」は強酸の毒霧が体内に入り込んで、対象の身体を侵食していくという。密室空間で効果を発揮する暗殺用の魔法。

広い空間では体内に毒霧を取り込ませ難く効果が乏しいが、デュラハンには一定の効果を上げるという。


 「いずれ動きが鈍くなるからな。それまで堪えろアレク」

 「はい、キム先輩!」

デュラハンはオートマタ(自動人形)とも考えられているから、だんだん体内が腐蝕して錆びてくんだろうな。
ヨシそれまで頑張ろう。


カッカッ  カッカッ カッカッ…

再び、足踏みをするように黒馬が前脚を踏みしめる。突撃直前だ。

ダッ!

黒馬が駆けだす。

 「マリー先輩俺の雷魔法、試させてください」

 「いいわよ」

 「ライトニング(雷鳴)!」

バチバチバチバチッ!

 俺の指先から発現された高圧の雷魔法がデュラハンに向けて一直線に放たれる。

ヒュッ!

デュラハンは手にしたランスでヒュッとライトニングを払うように動いた。

 ヒュッ!

 シュパーーンッッ

ランスの先で跡形もなく霧散する俺のライトニング。

 「えーっ?!」

避雷針の上位互換かよ。雷そのものが消えてなくなってるじゃん!

 「本当に無効化するのかよ!
じゃあこれならどうだ!サンダーバレット!」

雷をフルオートの銃弾に見立てた雷魔法だ。

バンバンバンバンバンバンバンバンバンッ!

銃弾のように降り注ぐサンダーバレット。


だけどこれもまた……。

ヒュッとランスの先だけを動かして相殺していくデュラハン。

ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!

シュッパーンッ!
シュッパーンッ!
シュッパーンッ!
シュッパーンッ!
シュッパーンッ!


ランスの先に触れるか触れないか。あっという間に霧散するサンダーバレット。

 「マジかよ……」


 「どうアレク君?」

 「本当に効かないんですね!」

 「そうよ。僅かに効くのはキムの闇魔法。あと魔法は水魔法くらいね。効いてくるのをひたすら待つのが今のところ唯一の対応策ね」


カッカッ カッカッ カッカッ カッカッ…


仕切り直し。

再び、突撃態勢となる黒馬。

ダッ!

一気にトップスピードとなったデュラハンから俺めがけてランスが放たれる。

ザンンンンッッッッ!

シュッ!

同時に。
マリー先輩が放った矢が俺の真横を飛んでいく。

カーンッ!

デュラハンの胸鎧に当たった矢がはね返る。

ん!?

今たしかデュラハンは少し避けたよな?
弓矢の効果はわかんないけど、嫌なのかな?

ギギギギギーーーー!
パチパチパチパチ!

再び刀身の腹の上をデュラハンのランスが滑り落ちていく。
パチパチと火花をたてながら滑り落ちるランス。

 「こいつ……強い……」

2m以上ある長い柄を手足のように十全に扱うデュラハン。
揺れる馬上でのランスの正確無比な扱いは、デュラハンの熟練した技量を窺わせた。

一瞬、双方の攻防が止んだその時だ。

スッ!(あっ、キム先輩!)

黒馬の腹の影からスッと近づいたキム先輩。

ザンッ!

騎乗するデュラハンの肩からクナイを差し入れて左腕を斬り飛ばすが……。

モクモクモクモク~~

煙とともに再生していくデュラハンの腕。


俺も遅滞なく魔法を発現させる。
今度は物理的な攻撃魔法だ。

 「煉瓦バレット!」

ドドドドドドドドドドドドドドドド…

機関銃のように速射する煉瓦弾。
アンデットに効果の高かった土魔法だ。

ガンガンガンガンガンガンガンガン……。

黒馬を含めて煉瓦の塊にバラバラになるデュラハンだったが、これも……。


モクモクモクモク~~


煙とともにすべて再生してしまうデュラハン。

 「くそー。ぜんぜん効かねえ」

 「スパークライト!」

サアアァァァァーーーーーッ!

聖魔法もどきを放つ。
が、ぜんぜんダメ。
変化も一切起こらない。

 「ファイアボール!」

 「エアカッター!」

 「ウォーターボール!」


聖魔法を含む各種攻撃魔法も試すが、すべて変化なし。


モクモクモクモク~~


何度めかの再生のあと。

「闇魔法  アシッドガン(酸弾)!」

デュラハンの肩から再び闇魔法を注ぐキム先輩。今のところ、効果があるように見えるのはキム先輩の闇魔法だけ。

 「ハーハーハー、くそっ…」

 「アレク焦るな」

 「は、はい」

わかってる。わかっちゃいるんだけどね、はは。


何度めかの対峙。
デュラハンが黒馬の腹をトンと蹴った。

ダッ!

黒馬が駆けだす。

ジャンプ?!

 「まずい!セーラ!」

デュラハンが対峙する俺を飛び越えた。
目標を俺からセーラに変えたみたいだ。

ランスの鋒をセーラを見定めるように放ったデュラハン。

ザンンンンンンッッッッッッ!

デュラハンの刺突がセーラの魔法障壁を直撃する。

ガアアァァァーーーーンッッッッ!

障壁を突き破ろうと幾度も幾度も続く刺突。

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンンンンンッッッッッッ!

 「くっ……」

セーラの顔が苦痛に歪む。

何度も何度も続くデュラハンの刺突……。


ガガガガガガガガァァアアーーン!
ガガガガガガガガァァアアーーン!


唐突に。
 
パリパリパリィィーーーーンンンンッ!

まるでガラスに亀裂が入るように。
 デュラハンの放ったランスの刺突がセーラの障壁を穿った。

 堅牢な不可視の障壁、聖盾(ホーリーシールド)が爆ぜ割れた音がする。

 「「「セーラ!」」」















 「大丈夫です!」

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンンンンンッッッッッッ!

再び始まるランスの刺突。


 「あの子、障壁を重ねがけできるようになったのね」

 「そうなの?」

 「ええ」


すげえよ!セーラも学園ダンジョン内で日々進化してるんだな。

俺も負けちゃいられないよな。

ダンッ!
ザンッ!

デュラハンのランスの持つ右脇の鎧の隙間に刀を刺突。そのまま切り捨てる。


モクモクモクモク~~


何度めかの再生。

何度めかの対峙。


デュラハンが黒馬の腹をトンと蹴った。

ダッ!

黒馬が駆けだす。
デュラハンが繰り出すランスの刺突。

ザンンンンッッッッ!

槍先をパリィ。

ギギギギギーーーー!
パチパチパチパチ!

パチパチと火花をたてながら滑り落ちるランス。

 「ぐぐぐっ……」

俺は腰を落として、両手でしっかりと刀を握りしめる。


ギギギギギーーー!

鍔まで押し寄せる上からの圧力。


ガクガクガクガクガクガクガクガク…


足腰がヤバい……。
サスカッチと闘ったときの疲労感が一気に甦る。

パリィ。
流し……
ぐぐっ……
流し……
流しき……
流しきれない!

 「うぉぉぉ~」

ガクン。

 何度も続く馬上からのランスの刺突に、俺の足腰は耐えきれなかった。

 ドスンッ

尻餅をつく俺。

 (ヤバっ!)

それを見逃すはずのないデュラハンだ。
ランスをくるくるっと天に向けたかと思うと・・・。

ザンッ!

胸元に迫るランス。
片手剣でその軌道をなんとかパリィ、変えようとする。
が、思うようにいかない。

ガーーンッ!
ガーーンッ!

これまでにないランスと刀が触れ合う衝撃音。片手のみで持つ刀では防ぎきれなかった。

そして……。












 ザクッ!

ランスが俺の身体を貫いた。




――――――――――――――



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