アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

240 デュラハン(後)

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 ザクッ!


 いきなり炙られたような鋭角的な痛みが俺を襲う。

 「うっ……」

 左太腿をランスでザックリ貫かれた。動脈も貫かれた。ランスにもべったりとつく赤い鮮血。
 余りの痛さに声も出ない。


 ドクドクドクドク…


 半端なく流れる血液……。

 (ヤバい、ヤバい、ヤバい!もう1撃食らったら次は避けられない!ダメだ、ダメだ、ダメだ)

 なんとか回避しなきゃという切羽詰まった思い。

 「アレク!」

 キム先輩がすかさずデュラハンを急襲。

 ザンーーッ!

 デュラハンのランスを持つ右腕を切り落とす。

 「キム先輩…ありがとうございます…」

 助かった。
 キム先輩の助けがなければ、次の一手で詰むところだった。

 「シャンク!」

 「はい!」

 ガッッ!

 すかさずシャンク先輩が尻餅をついている俺の首元を掴んでセーラの障壁の中へ引き寄せてくれた。

 「シャ、シャンク先輩ありがとうございます‥」

 「セーラさん!」

 「はい!ヒール!」


 ドクドクドクドク……


 セーラが手を翳す。太腿の上から眩しい光が放たれる。

 ああ、温かいなぁ……。

 流れる血も止まり、ズボンは穴が空いたままだけど、穿った太腿の穴もみるみる塞がれていく。激痛もどんどん引いていく……。

 すげぇなぁ。部位欠損に近いくらいだよ、今の俺……。
 またセーラに助けてもらったな……。



 「シャンク、アレクの代わりにいけ!」

 「はいキム先輩!」


 セーラの障壁を離れ、即座にデュラハンに対峙するシャンク先輩。
 片手に盾、片手に鉄爪のスタイルで。

 よし、俺もすぐに復帰しなきゃ……。

 「セ、セーラありがとうな…」

 「アレク!ダメ!まだ無理よ!」

 「へへっ。だ、大丈夫……」


 ガクガクガクガクガクガクガク……

 あれ?まともに立てないや。

 「血を流し過ぎなの!傷は治っても体力はすぐに戻らないのよ!」

 「それでも……」

 ガクガクガクガクガクガクガク……

 動け、動け、動け!俺の足!

 震える足腰をガンガン叩く。




 「アレク君!」

 ぶるんぶるん。

 マリー先輩が俺を見て笑顔で首を左右に振った。

 「えっ?」


 「アレク!」

 ぶるんぶるん。

 マリー先輩に憑く風の精霊シンディも笑顔で首を左右に振る。

 「えっ?」



 「「アレク(君)!」」

 ぶるんぶるん。

 キム先輩もシャンク先輩も笑顔で首を左右に振る。

 


 「アレク…」

 ぶるんぶるん。

 最後に、俺に憑いてくれている風の精霊シルフィが笑顔で首を左右に振った。


 「アレク、今出来ることをするんだよ。仲間を信じなさい」

シルフィが俺に語りかける。


 「アレク、大丈夫だよ。みんなに任せよう」

 最後にセーラが俺の手を両手で包んでこう言った。




 「‥‥!!」



 そうだ。

 チームの仲間を信じ、そのときできる最善のことをする。

 そうだった。



 俺はガクガクする足を抑えながらセーラの横に座る。

 「セーラごめんな。守ってくれよ」

 「ええアレク。もちろんです!」

 セーラの発現する障壁の中にどっかりと座る俺。

 今出来ることをするんだ。




 デュラハンと対峙するシャンク先輩。
 盾を掲げ、掌の鉄爪を構えて立ち向かう。

 ダンダンッ!

 シャンク先輩に向けて黒馬が駆け出す。
 デュラハンがシャンク先輩にランスを放つその動線上で俺は魔法を発現する。

 「槍衾!」

 ズズズズンッッ

 斜め2mほどの高さで槍衾を発現させる。
 突如現れる槍衾。
 シャンク先輩を狙ったランスは軌道を崩され宙を貫く。シャンク先輩を蹴散らさんばかりの黒馬も直進出来ずに槍衾の横を避けていく。

 対して。

 ザンンンッッッ!

 すれ違い様にシャンク先輩の右の掌からの鉄爪牙がデュラハンの身体を切り裂く。

 ギギギヤヤャャャンンンンッッッ!

 金属鎧を切り裂くほどの振り下ろし。



 「アレク君!」

 「シャンク先輩援護します。盾も要りません。ランスは絶対近づけませんから気にせずガンガンいってください!」

 「わかった」


 たとえ俺が剣で立ち向かえなくても、仲間を掩護する魔法なら発現できる。
 足腰はダメだけど、魔力量はまだまだぜんぜん大丈夫だ。


 俺は座ったまま、両手を前に伸ばして次々に土魔法を発現する。



 デュラハンが黒馬の腹をトンと蹴った。

 ダダダダダッ!

 再び黒馬が駆けだす。



 シャンク先輩に向けてランスが放たれる動線上で。

 「ここっ!槍衾!」

 ズズズズンッッ

 軌道を外されたデュラハンのランスが宙に放たれる。

 対して。

 ザンンッッッ!
 ザンンッッッ!

 シャンク先輩の両掌から放たれる鉄爪がデュラハンの鎧を切り裂くように撫でていく。

 ギギギヤヤャャャンンンンンッッ!
 ギギギヤヤャャャンンンンンッッ!

 マリー先輩の弓矢も休みなく放たれ続ける。

 シュッ!

 カーーーンッッッ!

 シュッ!

 カーーーンッッッ!



 カッカッ  カッカッ カッカッ…

 再び、足踏みをするように黒馬が前脚を踏みしめる。
 突撃直前。黒馬の前動作だ。でも。

 「ここっ!土塀!」

 ズズズズッッ

 駆け出さそうとする進路上に土塀を発現させる。

 キキーーッッ

 手綱をひいて歩みを停めるデュラハン。

 スッーーー

 タッ

 その背に降り立ったキム先輩が3度めの闇魔法を発現させた。

「闇魔法  アシッドガン(酸弾)!」

 ぬるんっ

 ユラリと浮かんだ黒霧がスーっとデュラハンの体内に入っていく。



 ギギギ…ギギギ…ギギギ…


 ん?

 潤滑油が足りないような微かな異音がデュラハンから聞こえた。

 「もう一息よ!!」

 マリー先輩が声をかける。


 シュッ!

 カーーーンッッッ!

 シュッ!

 カーーーンッッッ!


 「槍衾!」
 「槍衾!」

 ザンッ!
 ザンッ!

 ギギギヤヤャャャンンンンンッッ!
 ギギギヤヤャャャンンンンンッッ!




 開戦から3点鐘。
 ようやくゴールが見えてきた。


 ギギギ……ギギギ……ギギギ……


 デュラハンから聞こえてくる異音もハッキリとみんなの耳に聞こえてきた。


 ギギギ…ギギギ…ギギギ


 デュラハンも黒馬もあきらかに動きが鈍くなってきた。

 そして、ついにそのときがきた。



 ギギギギ ギギ……ギギ ギ…………ギ…………ギ。


 電池の切れたオモチャのように。デュラハンの動きが止まった。


 「アレク君!」

 「はい!」

 デュラハンの前に立った俺は背の刀を抜いて上段に構える。
 デュラハンからはもう危険な香りはしなくなっていた。

 すっ

 背の刀を抜く。

 柄をぐっと握って踏みこむ技は師匠(ディル神父)の教え。
 金属鎧だろうと問題なし。


 トンっ


 軽くジャンプをし、正中から振り下ろす。


 ザンッ!





 パリィィィーーーーンッ



 真っ二つに割れたデュラハンはそのまま床の中に沈んでいった……。


 「終わったねアレク」

 「ああセーラ」



 強かった。
 馬上のランスとの闘いはまだまだぜんぜんダメだ。もっともっと強くならなきゃな。







  ポンッッ!


 「「おお~!」」

 「セーラ!」

 「ええアレク!」

 「「ポンって言ったよねー!」」

 デュラハンが沈んでいった跡から、ポンッという音とともに、金属製の宝箱が出現した。

 「来たよ、来たよー、ドロップしたよー!」

 「来たよ来たよ、何かな、何かなー?」

 「セーラ開けろよ!」

 「いいの?」

 「もちろんだよ!」


 わくわく  わくわく
 ワクワク  ワクワク


 楽しみなのだなあ。
 マリー先輩、キム先輩、シャンク先輩の3人は何も言わず、開ける前から生温かい眼差しを俺たち2人に向けている。なぜ?
(前は木箱だったから使い古した包帯だったんだよ。今回は金属箱だもん)

 「じゃあ開けるね」

 ギギギーーー














 「「・・・」」


 「「フッ」」

 キム先輩とシャンク先輩がハモった。

 「残念だったねー」

 マリー先輩が半笑いで言った。



 金属箱の中には、錆びたスプーンが入っていた。食べかけを入れたみたいでカビまで生えていたスプーン……。




 「チキショー!」


 セーラが箱ごと掴んで放り投げた。





 ギギギギギーーーーー


 休憩室の扉が現れた。


 「はい行くよー」


 30階層主デュラハンクリア!

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