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第2章 幼年編
332 撤退ラプソディ
しおりを挟む「じゃあみんなで帰ろう!」
「ええ、行きましょう」
「「ああ(おお/はい)」」
ゴロゴロゴロゴロ‥
ゴロゴロゴロゴロ‥
リアカーが音を立てて進む。
リアカーに乗るのはリズ先輩とセーラだ。リズ先輩はまだ目覚めない。荷物は時計と矢、少々の物品だけだ。元々僅かばかりだった食糧は置いてきたよ。とにかく荷物を軽くして。なんとしても今日中に45階休憩室にまで戻る。そして学園に帰るんだ。
ゴロゴロゴロゴロ‥
ゴロゴロゴロゴロ‥
ん?なんで?
最後列をブーリ隊のリアカーを曳いたビリー先輩が進んでいく。
「ビリー先輩?」
「ああアレク君このリアカーだろ。これはね、撤退となったら最後に使えってリズからの伝言なんだよ」
「リズ先輩の?」
「ああ。ブーリ隊のリアカーの裏板にリズが魔法陣を描いたんだよ」
「魔法陣?ビリー先輩‥それってまさか‥‥」
「ははは。さすがはこのダンジョン中でリズの弟子になっただけあるね、うん。アレク君の想像どおりだよ。しかも強かった魔物の魔石もたっぷり積んであるからね。すごいことになるのってリズが言ってたよ。それでね、リズがこれをアレク君が使えって」
ビリー先輩が俺に1本の矢を手渡した。それは鏑矢のように矢尻に丸みを持たせたものだった。おそらくは着火剤代わり。リアカーの魔法陣を起動されるスイッチみたいなものだな。
「でもビリー先輩、矢なら俺よりビリー先輩のほうがうまいじゃないですか!」
「ははは。そんなことないよ。もう僕よりアレク君のほうが上手いって。
それにね、この魔法陣を描いたリアカーの爆発の威力はとんでもないらしいよ。だからアレク君の風の精霊の力も借りて200メル離れたところから射ってほしいんだ」
「200メルですか!」
「そう200メル。どれだけすごいのか想像もできないよね、ははは」
リズ先輩、すごいのを作ったんだな。火薬を使った大型爆弾クラスだよ。この世界に火薬はまだないと思われる。リズ先輩は人知れずダンジョン限定でオーバーテクノロジーに匹敵するものを作ったんだな。
「この矢尻にも魔法陣が描かれているそうだよ。リアカーにこの矢が着弾したら、積荷の魔石を燃料にそこから一気に爆発するそうだよ。できるだけ遠く、200メルは離れて射ってくれって。音もすごいから先行のタイガーとオニールはその隙を狙えって。音がすごいから狙えって意味が僕にはよくわからなかったんだけどね。そこもアレク君ならわかるって」
「ははは。ビリー先輩もですけど、リズ先輩ってすごいですよね」
「ああ。怒らせたらこんなに怖い子はいないね。今は無邪気な顔で寝てるんだけどね。ははは」
本当だ。ちょっぴりドキッとするくらいかわいいリズ先輩の寝顔だ。でも早く目覚めてくれないかな。
「じゃあこの矢はアレク君にお願いするよ」
「はいビリー先輩」
本当に……。
リズ先輩、こんな無邪気な寝顔なのに。妹のスザンヌと変わらない見た目なのに。リズ先輩もまたすごい人なんだよな。
ダッダッダッダッダッダッ‥
ダッダッダッダッダッダッ‥
「おいでなすったぜ」
「ビリー予定どおりに行くからな」
「ああ。タイガー、オニール頼むよ」
「おおよ!俺たちに任せとけって」
オニール先輩ももう大丈夫だ。いつもどおりの平常運転だ。
ダッダッダッダッダッダッ‥
ダッダッダッダッダッダッ‥
「ビリーこっちからも来たわ」
ダッダッダッダッダッダッ‥
ダッダッダッダッダッダッ‥
「マリーこっちからもだよ」
ダッダッダッダッダッダッ‥
ダッダッダッダッダッダッ‥
「ビリー先輩後ろからも来ました」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド‥
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド‥
ドドドドドドドドドドドドドドドド‥
ドドドドドドドドドドドドドドドド‥
ドドドドドドドドドドドドドドドド‥
各方面からストームのような土埃を上げて。多数の魔物たちが接近してくる。
ああ、たしかにこれは過去最大だな。チームからパーティーになった途端にこの大歓迎。予測はしてたけどやっぱりすごいよな。
【 アレクside】
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド‥
ドドドドドドドドドドドドドドドド‥
ドドドドドドドドドドドドドドドド‥
ドドドドドドドドドドドドドドドド‥
探知するまでもないけど、やっぱりすごい数の魔物が押し寄せてきてるよ。特に殿の俺が受け持つ後ろからは数も強さもダントツな魔物ばかりだよ。
ドドドドドドドドドドドドドドドド‥
早々にビリー先輩はリアカーを手放したんだ。しかもその場でリアカーをひっくり返して魔法陣がまる見えの状態にしたんだ。
「さあ200メルは離れようか。天才リズが作った対魔物用花火のお披露目だよ」
同じくらい天才のビリー先輩がワクワク感いっぱいにこう言ったんだ。天才は天才を知るってやつだよね。でも、たしかにすごい花火が上がるよ絶対。
「フフフ。アレクどうする?」
シルフィが不敵な笑顔を見せてこう言った。
あーシルフィもやる気満々だよ。
俺ね、何気に前にいるマリー先輩とシンディを見たんだ。するとマリー先輩もシンディも同じような笑みを浮かべていたんだ。みんな本当好戦的なんだよなぁ。スーパーなんちゃら人みたいだよ。でも今はそれくらいのほうが安心できるけどね。
「みんな聞いてください!リズ先輩からの伝言です!」
俺は大声で周囲に展開している仲間に告げる。
「もうすぐ俺がブーリ隊のリアカーに向けて矢を放ちます。カウント5からいきます。そしたら耳を塞いで、大きく口を開けてあーっと言ってください。めちゃくちゃ激しい爆発音とともに魔物はその瞬間、しばらくは戦闘不能になります。タイガー先輩とオニール先輩はその機を逃さないでください」
「「「了解!」」」
ドドドドドドドドドドドドドドドド‥
ドドドドドドドドドドドドドドドド‥
ドドドドドドドドドドドドドドドド‥
ドドドドドドドドドドドドドドドド‥
ドドドドドドドドドドドドドドドド‥
ウオオオォォォーーッッ!
ウオオオォォォーーッッ!
ウオオオォォォーーッッ!
ウオオオォォォーーッッ!
ウオオオォォォーーッッ!
ウオオオォォォーーッッ!
後方から隊列を組んで迫ってくるのはオークを中心とした大型二足歩行の魔物たち。なんと200体だ。中には隊長格のオーガ、ミノタウロスも何体か混ざっている。これ学園ダンジョンのレベルをとっくに超えちゃってる……。学園ダンジョンで皆殺しかよ!
そして、これを指揮してるのは絶対にあいつだ。持てる大型兵力のすべてを投入してきたな。
こんなことするなんて、そりゃ管理者側のあおちゃんでさえ眉を顰めるはずだよ!
でもお前は知らないんだ。俺の魔法を遥かに上回る脅威のものを生み出す、かわいくて怖い存在がいることを。
ここで大型魔物を倒しておけば後の展開はかなり有利になるだろうな。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド‥
ウオオオォォォーーーーッッ!
ウオオオォォォーーーーッッ!
ウオオオォォォーーーーッッ!
ウオオオォォォーーーーッッ!
ウオオオォォォーーッッ!
1体1体、大型魔物たちの雄叫びもハッキリ聞こえてきた。
みんな浮かれたように目が血走ってるのさえ見える。コワッ……。
「開戦の狼煙はアレクだね!」
「ああ。俺とシルフィだよ!」
「フフフ。任しといてよ!」
「ああ頼んだよ」
俺はリズ先輩から託された矢を番える。
「じゃあいきます!」
「「「了解!」」」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド‥
ウオオオォォォーーーーッッ!
ウオオオォォォーーーーッッ!
ウオオオォォォーーーーッッ!
ウオオオォォォーーーーッッ!
リアカーにオークやオーガ、ミノタウロスの大型魔物が接近してくる。このままだったらたぶん踏み潰されるだろうリアカー。
そんなリアカーに向けて、ブーリ隊の先輩たちが声をかけたんだ。
「世話になったな」
「一緒に旅をして楽しかったぞギャハハ」
「ありがとう」
「またどっかで会おうな」
おいおい!先輩なんだよそれ!それじゃあ海賊船のメイメイ号じゃないか!俺、思わずうるっとしてしまったよ!
よーし。メイメイ号が沈む前に。俺がド派手な花火で送ってやるぜ。俺、鼻は長くないけど。
(またアレクがどっかにいってるわとシルフィは思った。)
「シンディ頼んだ!」
「ええ」
シュッ!
「「いっけええぇぇぇーーーーー!!」」
ビユユュュューーーーーンッッ!
風の精霊シルフィの加護を受けて200メルもの距離をものともせずに矢が飛んでいく。
そして俺はカウントを刻んだ。
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
ピカッッ!
眩いばかりの閃光がリアカーから生まれた。そして・・・
ドカドカ
ドカアアァァァァァーーーーーーーンッッ!
木っ端微塵となるリアカー。その勢いは凄まじいものだった。
ビユュュューーーンッ!
ビユュュューーーンッ
「「うわわわっ!」」
「「うぉぉぉっ!」」
リアカーの爆風は200メル離れた俺たちでさえ、飛ばされそうになるほどだった。
これがリズ先輩の本気。いや本気じゃないかもしれないけど。こんなものを生み出したしまったら、中原のパワーバランスそのものが根底から崩れるだろうな。だからこそ、ダンジョン限定の兵器なんだろうな。
シーーーーーーンッ‥‥
「「「‥‥‥‥」」」
リアカーのあったあたり。そこにいた200体を超える大型魔物たちは跡形もなかった。
数多い魔物を倒してきた俺たちでさえ言葉を失くしていた。すべてを圧倒する暴力を前に、ただただ呆然としていたんだ。
ギャッギャッ‥‥
ギャァァァァーーーッ
ギャァァァァーーーッ
ギャァァァァーーーッ
呆然としたのは俺たちだけじゃない。
後に控えていた魔物たちでさえ、恐怖に駆られて逃げ惑っていた。
「行くよ!」
「「はい」」
前には7、8体の大型魔物が倒れ伏す。タイガー先輩とキム先輩が露払いを成し遂げていたんだ。
それはオニール先輩とシャンク先輩も同じ。
左右のマリー先輩もビリー先輩も同じだ。
セーラはリズ先輩の手を握りなおす。
こくん
こくん
お互い頷き合う。
リアカーを無心になって曳くゲージ先輩が俺の顔を見て笑った。
ギャハハ
45階層休憩室まで。
撤退戦は始まったばかりだ。
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