アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

485 一蹴

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【  北区教会神父side  】

 (ヨシ。ここまで来れば大丈夫じゃ。帝国の地はもうその稜線しか見えないからの。
 逃げ切ったわい。ワシの勝ちじゃ。もう捕まることもないわ。
 次の派遣先でまたしっかりとため込むか。ワシの老後は安泰じゃわい。
 せめて今はのんびり船旅を楽しむかの)


 「おいそこの女。酒をもってこっちに来い」

 「ん?いいのかい。船上とはいえ聖職者が昼間っから酒なんぞ呑んで」

 「構わん。女神様は酒くらいで怒らんわ。ましてこの船は盗賊船。誰を気にする必要がある」

 「ハッキリ言うねえこの生臭神父は」

 「お前はなかなか器量の良い女だな。ヨシ気に入った。わしの横で酒を注げ。今宵も含めてわしを満足させてくれたら褒美も十二分に弾むぞ」

 「そいつはいいね。
 だが酒は誰だろうと前金でいただくのがこの船のルールさ。
 だから神父のダンナも金を用意しといてくれよ」

 「ヨシわかった。この船で1番いい酒をもってこい」

 「わかったよ」







 それは洋上での1コマ。中原の各国にいる神父は法国から派遣されている体となる。そのため、その人物の国籍もまた法国に所属するものとなる。

 故に。たとえ神父が大罪を犯したとしても帝国法で処罰されることはない。せいぜいが国外退去のみとなるのが関の山なのである。



ーーーーーーーーーーーー



 「ほら持ってきたよ。帝国では入らない北国のブード酒だよ」

 「北国のブード酒か。それはいい。よしよこせ」

 「旦那その前に金だ。これは年代ものだからね10万Gするよ。そんな大金神父なんかに出せないだろ?
 もっと安いのにしとくかい?もちろんアタシはそんな安い女じゃないからダンナは手酌で1人で楽しみな」

 「気の強い女だな。ますます気に入った。金ならいくらでもある。今夜はお前を肴にめいいっぱい愉しませてもらうぞ」

 「神父のダンナ。先銭だよ。金は?」

 「ワシの荷物。鎖で縛った箱があるだろう。あれを持ってこい。」

 「話が早いダンナは好きだよ。おーいダンナの箱持っておいで」

 
 
ーーーーーーーーーーー



 場面は再び帝都冒険者ギルドの訓練所に戻る。

 「コーンのおっさん。先に言っとくぞ。卑怯な手使うなよ。使ったら俺も手加減しないからな。手足の1本くらいはマジでもらうからな」
 
 狡猾そうなコーンの鋭い瞳が泳いだ。

 「な、な、なにを言ってるコーン。大人がそんな卑怯な手は使わないコーン」

 「そうか。ならいいんだよ」

 ざわざわざわざわ
 ザワザワザワザワ


 「ついでに言っとくけどそこにいる仲間が手を出してもカウントに入れさせてもらうからな。なんなら手下入れて中で闘ってもいいぞ」

 俺から向かって右側にいるコーンの仲間を見ながら。そう周りに聞こえるような大声で言った俺。
 もちろん左手側、前、後ろにも1人ずつ配してるのは知ってるよ。

 右側。コーンの仲間の狐が両手を挙げて何もしないアピールをした。

 「手だしたらお前らの頭の手足狩るからな」

 周囲に聞こえるように。再度念を押す俺。ここまでやっとけば少しは抑止力になるかな。手を出してくる奴は減るよな、きっと。


 「早くやれコーン!そんなガキなど問題じゃないところを見せてやれ!」

 「だってよコーンのおっさん」

 そう言いながら魔力の抑制を止めてコーンのおっさんにだけわかるように明確な敵意を向けた俺。

 「お、お前、ま、ま、マジか‥‥」

 「へぇーさすが若手の有望株って言われるだけはあるじゃん。ようやくわかったのかよ。
 そりゃそうだよな。魔獣でも闘る前にある程度の実力差知らないと死ぬもんな」

 そんなことを話をきているのを副ギルド長が知る由もなく……。

 「よし。始め!」
 「お前らやめ‥」

 開始の声とコーンの仲間への声が被った。

 (俺のそっくりさんいらっしゃい!)

 ズズズッッッ!

 ほぼ同時に。
 俺が立つ位置に現れた土人形アレク。
 と。そこに飛んでくる四方からの吹き矢。

 ヒュッッッ!
 ヒュッッッ!
 ヒュッッッ!
 ヒュッッッ!

 ブスッッ!
 ブスッッ!
 ブスッッ!
 ブスッッ!

 柔らかく発現した泥人形アレクに突き刺さった4本の矢。

 「おいなんだあれ‥‥」

 「土魔法かよ‥‥」

 「出たー団長の土魔法!」

 ひそひそひそひそ‥
 ヒソヒソヒソヒソ‥


 「ま、まさか‥‥」

 「ひょっとしてこいつ強いんじゃ‥‥」

 シーーーーーーーン


 わいわいと騒いでいた観客席が一瞬にして静寂に包まれた。


 「あーあ。結局お前もかよ。狐獣人ってのは卑怯もんばっかかよ。フン。4人総出でやったわけだから‥‥どうなるかわかるよな」

 刺さった毒矢を抜いて投げた手下に投げ返す俺とシルフィ。

 「シルフィお願い!」

 「任せて」

 シュッッ!
 
 「がはっ!」

 シュッッ!

 「ぐはっ!」

 シュッッ!

 「げはっ!」

 シュッッ!

 「ごはっ!」


 投げ返した4本の吹き矢。屈もうが人混みに紛れようが関係ない。方向以外はシルフィの正確な補正付で吹いた奴に戻っていくから。そうなんだけど誰もわかんないよね。



 「「「あばばばっっっぁぁぁぁぁ」」」

 4人がひっくり返って穴という穴から液体もそれ以外も漏らして痙攣している。

 「自分で投げたもんは自分で当たってりゃ世話ないよな。あとで後片付けしとけよ。てか毒矢使うなら毒耐性くらいつけとけよ!」

 「さて。コーンのおっさんも覚悟はいいな」

 「コココッッ!」

 ササササッッッ!

 急速に距離をとるコーンのおっさん。危機察知能力はさすがにあるな。

 ダンンンッッッ!

 「えっっ?!」

 逃げて距離をとったつもりのコーンのおっさんの目の前に現れる俺。

 ササササッッッ!

 ダンンンッッッ!

 「えっっ?!」

 ササササッッッ!

 ダンンンッッッ!

 「ええーーーっっ?!」

 「なんだよ。逃げるんならもっとまじめに逃げろよ」

 ササササッッッ!

 ダンンンッッッ!

 「なんでついてくるんだこん?!」

 「なんでってお前遅いじゃん」

 ササササッッッ!

 ダンンンッッッ!

 「土壁カモーン!」

 ズズズッッッッ!

 ドンンッッッッ!

 「えっ、えっ?!なんで壁があるんだコン?!」

 「アウッッッ!」

 後退りできなくなったおっさんに合わせてその腹を蹴り上げる。
 と、そのまま尻もちをついて転がるコーンのおっさん。

 「「またまた出たー団長の土壁だー!」」

 うおおおおおぉぉぉぉぉぉ団長ぉぉぉ!

 「俺たち20人これでやられたもんな」

 「「「ああやっぱ団長すげえよなぁ」」」

 「おいルーキー。お前らこのガキの土魔法知ってんのか?」

 「フッ。こんだけじゃねぇーぞ団長は」

 「「だよな。次火魔法来るぞ」」


 「コ、コ、コーーンッ」

 土壁の横から這いずって逃亡を企てるコーンに向けて。その進行方向に向けてさらに土壁を発現して逃亡を阻止。
 さらにその後ろから大玉転がしサイズの真っ赤な火の球を発現する。

 「火の玉でも喰らっとけ」

 「コ、コ、コーーンッ!や、や、やめてくれーーーっっ!」

 ドンンッッッッ!

 ブワワツツッッ!

 「ギャーーーッッ!熱い熱い熱いーーっ!」

 全身火だるまになって逃げ惑うコーン。

 「ギャーーーッッ!」

 「すぐ消してやるよ」

 そこに直ぐ水を放水。

 「今度は水浴びしてろ」

 ドシャャャャャーーッッ!

 「アアアァァ‥‥」

 全身水浸しとなって呆然と立ち尽くすコーン。

 「おら逃げてばっかいないで早くかかってこいよ!」

 「クッ、クソー!」

 その言葉のまま刀を振りあげてかかってくるコーン。

 「遅い!」

 ダンッッッ!

 斬ッッッ!

 ボトンッ

 「えっ、えっ‥‥こ、これ俺の腕?コーーーンッッ!
 ギャーーーーーッッ!」

 「うっせー!」

 ギュッッ!

 血が噴き出すコーンのおっさんの切れた根元を足で踏む。
 
 「ギャーーーッッ!」

 (本当は止血のためにやってんだよ)

 「コーンのおっさん。仲間が約束破ったよな?ってことはあと3本。両手両脚ももらっとこうか」

 スッと刀をコーンのおっさんに見せた。

 「アウアウアウアウッッ‥‥」

 ジュワワワッッッ‥

 「あーあーいいおっさんが漏らしちゃって」

 白目を剥いて気絶したコーンのおっさんだ。

 「そこの魔法士さん回復してやってくれる?」

 「「あ、ああ」」

 魔法士が2人待機してるのもわかってたからね。

 目が覚めたらコーンのおっさんの斬られた腕も元通りだよ。


 「さてヘッコキー。次はお前だよな」

 「お前はもっと斬り刻んでやるよ。ほらかかってこい」

 「うっ、うっ‥‥」

 俺の中では完全に名前と顔が一致したヘッコキーが冷汗をダラダラと流したあと。

 逃げた。

 「逃がすかよ!」

 「土壁!」

 ズズズッッッ!

 ドンッッ!

 「あわわわわわっっ‥‥」

 完全に逃亡を企てるだけのブッヒーに向けてゆっくりと歩きながら言葉をかけていく。

 「帝都で知らん者はいないんだよねヘッコキー様」

 ザクザクザクッ‥

 1歩ずつゆっくりと近づいていく。

 「当然ガキなんか眼中にないよね」

 ザクザクザクッ‥

 「両手両脚もいでも大丈夫だろ。回復魔法士もいるんだからな。あっ!そうか回復魔法士やっといてからブッヒーの手足もいだらいいかなぁ」

 ザクザクザクッ‥

 「アウアウアウアウッッ‥‥」

 ジュワワワッッッ‥

 なにもせずにお漏らしして失神しちゃったよ。

 「聴こえてないだろうけどブッヒーのおっさん。
 受付嬢さんたちの給料弁償しとけよな」

 シーーーーーーーン


 「誰かガキの俺を指導してくれる先輩はいる?」

 シーーーーーーーン


 うおおおおおぉぉぉぉぉぉ団長ぉぉぉ!

 静寂の空間の中。狂犬団の先輩たちの声しか響いていなかった。

 「アレク‥‥あんたいっつも女子の声援がないわよね」

 「言わないでシルフィさん‥‥」



 「じゃあな。あっ!依頼があったんだ!受付嬢さんお願い」

 「「「‥‥」」」

 3人の受付嬢さんたちが無言のままだった。

 えーーーっ?!やり過ぎたのか俺。どうしよう?!

 と。そこにもう1人いた受付嬢さんが超素敵な笑顔で俺に近づいてきた。

 「何かしらアレク君。なんでも聞くわよフフフ」

 なんだこのお姉さん。目がGになってるよ!

 「あなたのおかげでしっかり儲けさせてもらったからね!」

 「そりゃよかったです。あははは」

 「じゃあ行くわよ」

 「はい」



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