アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

560 魅惑の醤油

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 「お兄ちゃん‥‥すーっ  すーっっ‥‥」

 安心したのか背中からすぐにアリサの寝息が聞こえてきたよ。






 「(ただいま)」

 「お帰り」

 アリサをおぶって帰る俺を見て、なぜか苦笑いをして迎えるオヤジがいたよ。







 「で、どうだった?  
 (まぁ聞くまでもねぇか)」

 「ああオヤジ、アリサにはいい目標ができたよ」

 「そんだけか?フリージアとなにかなかったのか?」

 「ん?最初はちょっと距離感あったけど、結局フリージアとアリサも仲良くなってたぞ?
 ああ、それからローズ婆ちゃん家にも地下修練場を発現しといたから、近々またアリサ連れて行ってくるわ。
 そうそう3女のサクラはクロエの友だちなんだってよ。だから今度はクロエも連れて行ってくるよ」

 「アレク‥‥お前は本当に‥‥」

 なんであの顔で見られるんだよ!?わけわかんねぇわ。

 「そうだ!デーツ、今度はクロエも連れてくからな、お前マリアンヌ先輩に来てもらえよ。夜ご飯作ってもらえ」

 「あ、ああ。そうだな‥‥」

 バブ婆ちゃんは干し肉のスープしかできねぇし、デーツは温めるくらいしかできないからな。
 ましてオヤジに任せたら‥‥デーツとバブ婆ちゃんとオヤジの3人が死んでたら洒落にならねぇからな。

 「オヤジ、俺を殺すなよ?」

 「旦那様、生い先短いとはいえバブーシュカもまだ死にたくないさね。ヒッヒッヒッヒッ」

 「クッ。どいつもこいつもこのくそガキみたいになりやがって!」

 わははははは
 ヒッヒッヒッ
 ワハハハハハ

 

――――――――――

 
 「ヴァン様よろしくお願いいたします」

 「あいよ。任せとけ。武闘祭とやらに間に合うよう、しっかりみておいてやるからなフリージアのお嬢ちゃん」

 レイピアの調整、研ぎを依頼したローズ。フリージアも緊張気味にヴァンに頭を下げる。

 「帝国1の鍛治師ヴァンのお手にかかればもう武器の心配は要らないからねフリージア」

 「うんローズお婆ちゃん」

 「ローズ嬢ちゃんの頼みとあっちゃな。俺も気合い入れて見なきゃな」

 「ローズ嬢ちゃん?」

 「ガハハハ。フリージアの嬢ちゃん、わしらドワーフは人族よりも長生きじゃからな。
 わしはローズ嬢ちゃんの昔も知っておるのよ。あの頃のローズ嬢ちゃんは恐ろしく強くての。チューラットでさえ殺せんようなかわいい顔をしておったが、いざ戦闘となるとの。
 戦姫とはよう言ったもんよの。まあ半世紀も前のことかの。ガハハハハ」

 ドワーフのヴァルカンさんとヴァルミューレさんの従兄弟がヴァンさんなんだ。俺、3人とも大好きなんだよね。

 「しかしまあローズの嬢ちゃんの孫がなぁ。わしも歳をとるはずじゃわい」




 「ローズ婆ちゃんまた来たよー」

 「ん?お客さんじゃの。それではわしもお暇するかの」

 「じゃあよろしくねヴァン」

 そんなヴァンとアレクがローズ邸玄関先で会う。

 「なんじゃアレク!?こんなとこでお前?」

 「あれ?ヴァンさんじゃん。うんローズ婆ちゃんとこにあそびに来たんだ」

 「ちょうどいい。アレクよ、お前次の休養日明けから3、4日空いとらんか?」

 「?」

 「うちの若い衆が2人騎士団の演習に取られての。このまんまじゃ納期に間に合わんのじゃ」

 「いいよヴァンさん。学校があるからお昼からになるけど」

 「来てくれるか!助かるぞアレク」

 「ヴァン様、アレク坊はなにを手伝うんですか?まさか鍛治を?」

 「ガハハハハ。フリージアの嬢ちゃん、こいつはな、下手なドワーフの若手よりよっぽど鍛治に秀でているよ」

 「えっ?」

 「こいつの背の刀も自分で打ったやつじゃろ」

 「半分以上ヴァルカンさんに手伝ってもらったよ。あとミューレさんにも」

 「ヴァルカン?ミューレ?」

 「ああヴァンさんの従兄妹だよ」

 「フリージア。ヴァンが帝国1の刀鍛冶であるようにヴァルカンは王国ヴィンサンダー領で、ミューレはヴィヨルドで共に領国の鍛治の宝と呼ばれているわ」

 「すごい‥‥」









 「じゃあねヴァンさん」
 
 「じゃあ頼むぞアレク」

 「わかったよ」

 「(ローズお婆ちゃんどうして?)」

 「(フフフ。1流は1流を知るわ。歳なんか関係ないのよ)」


 「じゃあ先に修練やろうか。フリージア、アリサ行くぞ」








 アリサがかかりフリージアが受ける剣術稽古のとき。フリージアの動きが散漫にみえたアレクはすかさずフリージアに注意を促す。

 「フリージアそこはもっとまじめにやれよ!」

 「なによアレク坊」

 「いいかフリージア。いい加減にやる1,000回よりもまじめにやる10回のほうがいいぞ。さらに真剣にやる1,000回はもっと自分を強くしてくれるんだぞ」

 「言ってる意味はわかるけど‥‥ちょっとだけじゃない気が散ったのは」

 「フリージア、いざというとき自分を守るのは自分しかいないんだぞ!」

 「(フリージアさん、ちゃんとやらないとお兄ちゃん怒るよ。ビリビリさせられるよ)」

 「(ビリビリ?)」

 「(うん。お兄ちゃんの雷魔法)」

 「(えっ?なにそれ?だってアレク坊は土魔法でしょ)」

 「(うううん。私からは言えないからお兄ちゃんに聞いて)」

 「(だって雷魔法って伝説上の話じゃない)」

 「(うううん。伝説じゃないわ。中原で雷魔法を発現できるのはお兄ちゃんだけよ)」

 「(そんなの武闘祭で発現したら無敵じゃない!)」

 「(でもお兄ちゃんは使わないよ。相手のどひょうで闘うんだって)」

 「(どひょう?)」

 「(うん。なにか知らないけど‥‥お兄ちゃんは雷を使わないわ)」

 「なぜ‥‥」







 
 「いいかフリージア。お前足から腕、レイピアまで魔力を纏っているだろ?」

 「ええもちろんよ。魔力を纏ってるのは身体全体よ。強いて言えば足からレイピアまでだけど」

 「魔力を移動させる意識はしてるか?」

 「移動?意識?」

 「それと目にも魔力を注いでるか?」

 「目?なぜ?」

 「フリージア、常に意識だ。慣れるまでは常に意識しろ。そのうち意識しなくても自然にできる。できたらお前はもっと強くなる。いいか。見てろよ」

 と言ってアリサの身体で説明をしていくアレク。べたべたとアリサの身体を触りながら説明をしていくアレクに照れや躊躇いはまったくない。

 「おへその下あたりに魔力を貯める。そこから身体を通って肩から腕に魔力が移動するだろ。
 大きなところから、だんだん細くなっていくよな?」

 「ええ」

 「水も大河より細い渓流のほうが流れは速いだろ?」

 「そうね」

 「最後は手からレイピアの先へ魔力を放出するんだ。
 それができたらもっと速く、もっと威力のある攻撃ができる。
 それと目に魔力を注いだら動体視力がさらに良くなるぞ」

 「すっごくよくわかるわ。ねぇアレク坊。私の身体にも触って教えてよ」

 「そ、そ、そ、そんなことできるわけねぇだろ。はずいわ!」

 真っ赤な顔をして下を向くアレク。

 フリージアみたいなきれいな子の身体なんかに触れるかっちゅーの。(触ってみたいけど)

 「じゃあなんでアリサちゃんはいいのよ?アリサちゃん、すごくかわいいじゃない!?」

 「妹だからにいいに決まってるだろ!」

 「チッ!」

 アリサの舌打ちが聞こえた気がするけど……。

 「わかったなフリージア、アリサ」

 「「うん」」

 「ねぇアレク坊。なぜそこまで私に教えてくれるの?ひょっとしてアレク坊は私のことが好きなの?」

 「「えっ?」」

 「ちげーよ!ぜんぜん。フリージアはローズ婆ちゃんの孫だろ。俺はローズ婆ちゃんが好きだから、孫のお前にも強くなってほしいから知ってることは教えてるんだよ」

 「そうなのね」

 「実際どんどん強くなれば俺も嬉しいしな」

 「じゃあこのへんでやめるか」

 「そういやさアレク坊」

 「なんだフリージア」

 「この認識票って、これもアレク坊が作ったの?」

 そう言ったフリージアが胸の谷間から認識票を取り出した。

 「ウッ!」

 「アレクぜったいダメだぞ!鼻血出したらテメー終わるぞ?!」

 「あ、あ、ありがとうシルフィ‥‥」






 (わかった!絶対お兄ちゃんは歳上の女の人が好きなんだ。なによあのだらしない顔!)


 こっそりと3人の姿を見ていたローズも呟いた。

 (フリージア‥‥あなたもまだまだ子どもだわ。それは2人っきりのときにやるものよ)








 「しぇふの仕事を直にお手伝いできるなんて。私は幸せ者です!」

 「あははは大袈裟です」

 食事の準備はローズ婆ちゃん家の専属料理人さんさんが手伝ってくれた。だからとっても早くできたよ。


 「じゃあ醤油を使ったご飯を食べてもらうね」

 「アレク坊、醤油ってことはあの卵かけご飯の調味料のことかしら?」

 「そうだよローズ婆ちゃん」

 「「「なに?ローズお婆ちゃん」」」

 「賢人会でアレク坊が出したお米のご飯よ」

 「「「おこめ?」」」

 (こないだローズお婆ちゃんが言ってた食べものだわ)

 「あれはびっくりするくらい美味しかったね」

 「アレク坊今日はその卵かけご飯はないの?」

 「ごめんなフリージア。来年植える分にしたいから米はもうないんだよ。
 次は来年の秋だ。でもそのときは何回か食べられるし、何年かしたら毎食食べられるからさ」



 【  フリージアside  】

 なんでだろう?アレク坊は私の2つ歳下なのに。ぜんぜんそんなふうに見えないわ。歳上みたい。
 アレク坊はアリサちゃんと同じように私に接してるし。でも‥‥嫌な気分じゃないわ……。
 
 


 「違いがわかるような簡単な調理法にしたからね。まずはグリルしたものを食べてみて」

 オーク肉、パプリカ、タマネギーを塩胡椒して、オリーブ油でグリルしたものを食べてもらう。

 「アレク君シンプルだけどいつもより美味しく感じるわ。なぜかしら?」

 「おばさん。それは塩が特製アレク塩だし、オイルも木の実から作った特製だからね」

 使う料理ごとに塩を使い分けるなんてみんなしないんだよな。
 でも俺は肉料理、魚料理と素材によって違う特製塩を使うし、オイルも使い分けてるよ。

 シンプルな料理ほど使う材料でまるで違うものになるからね。

 「で、次がグリルした最後に醤油を垂らして香り付けしたもの。今日はバター醤油にしたものだよ。食べてみて」

 「「あら!」」

 「「美味しいわ!」」

 「バター醤油?これはコク深い味わいになるわね」

 「さすがおばさん。そのとおりだよね」

 「バター?何なのアレク坊?」

 「バターはカウカウのミルクから乳脂肪分を固めたものだよ。動物性油脂の代表的なものともいえるね。あとでデザートにも使うけどね」

 「醤油もバターも料理人さんに渡しておいたからまた試してみて」

 「「ねぇアリサ(クロエ)ちゃん。アリサ(クロエ)ちゃんたちはいつもこんな美味しいものを食べてるの?」」

 「「うん」」

 「そう。家の料理は他所よりも美味しいって思ってたけど‥‥ごめんね。アレク坊のは別格ね」

 フリージアが専属料理人さんに謝ってたけど、料理人さん自身が「いいえ。シェフと比べること自体が間違ってます」となぜか恐縮していたよ。

 「しぇふ?」

 「はい。我々の世界で料理人の頂、頂点に君臨されているのがアレク君なんです」

 あーもうどうしてこうなった?最初は料理人イコールシェフだけだったはずなのに……。

 「アレク坊パンがとってもやわらかいわ。しかも白くて甘いのね」

 「今日のは丸いロールパンだよ。小麦粉が白いからパンも白いんだよ」

 毎度ながら、パンを出すとみんなとっても喜んでくれるよな。

 「「今日のデザートはなに?」」

 「今日はクレープだよ」

 「「「くれえぷ?」」」

 「そう。小麦粉を薄く焼いたもの。メイプルシロップとアイスクリームを添えてあるやつ」









 「「「うまっ!」」」

 「「「おいしーい!」」」

 みんな大喜びで食べてくれてるよ。特に甘党のフリージアの喜びようときたら!
 でも喜んでくれると嬉しいよな。

 「くれえぷとアイスクリームは毎日でもたべたいわ」

 「毎日は飽きるよ。でも作り方は料理人さんもわかったからまた作ってもらうといいよ」

 「うん!」

 「(あのねアレクお兄ちゃんのプリンもおいしいんだよ)」

 「(プリン?なにクロエちゃん?)」

 「(あのね‥‥)」



――――――――――


 そのころ。

 「セーラの聖壁はすごいな。崩せなかったよ。これをアレクは崩せるのかい?」

 「はいマルコ先輩」


ヴィヨルド領都学園では学内10傑が決まった。
 1位、首席はセーラ。2位はマルコだった。



――――――――――


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