アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

608 咆哮のゴリラ

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  「痛え、痛え、痛えーー!おいガキ、早く治せよ!早く、早くしろよ!聞いてんのかよーー!」

 バリーさんの大きな叫び声にダンジョンが反応したんだよね。これまでとはうって変わって探知に引っかかる魔獣たち。バリーさんの叫び声が呼び水になったのは間違いない。

 「グオオオォォォーーーッッッ!」

 「グオオオォォォーーーッッッ!」

 「グオオオォォォォーーーッッッ!」

 「グオオオォォォォーーーッッッ!」

 「メイズ!なんと愚かな者を連れてきた!?」

 メイズさんも顔を顰めてる。ルシウスのおっさんが顔を真っ赤にしてメイズさんに怒鳴ってるけど、こうなった以上仕方ないよ。

 「おっさん!今はそんなことどうでもいい。おっさんの高出力の魔法だけが頼りなんだからな!」

 「お、おお」

 「メイズさん、うちの団員たちをお願いします!俺はゴブリンソルジャーを先に倒してきます」

 「わかったアレク君」

 ダッッ!



 『ゴブリンソルジャーだけは先に倒す』

 これは俺にとって最優先課題、絶対にやらなきゃいけないことなんだ。

 「痛い痛い痛い!早く俺を‥‥おい!どこ行くんだよクソガキーー!俺を置いてくなーー!」

 肩を押さえて叫び続けるバリーさんをガン無視して前に出る。

 「メンディー君、ケント君はバリーさんを連れて本隊に合流!」

 「「了解です団長!」」

 タッタッタッタ‥‥

 このまま正面を走ると、向かってくる魔獣ともろにぶつかるな。そしたら奴はその間に逃げるに違いない。じゃあここは壁伝いだ‥‥

 ダダダダダダッ!

 そのままダンジョンの壁面を走る。これなら向かってくる魔獣は届かないよ。

 「ウウーーギャッッギャッッ!」

 「ゴフゴフゴフゴフッッ!」

 「キキキィィィーーッッ!」


 俺を見上げて吼えてるのはオランウータン、チンパンジー、日本猿などサル系魔獣。サル系のボス、ゴリラはいないな。うん、よかったよ。
 
 今最優先に倒しとかなきゃいけないのは、気配を隠して潜むゴブリンソルジャーだけ。

 そんなゴブリンソルジャーに狙いをつけて。
 ぱっと見は他と変わらない、光苔が茂るだけの壁に瞬足で近づき全力で貫く。

 「ここだ!」

 斬スッッ!

 「グギャギャギャァァーーッッ!」

壁に同化するように光苔を身体中につけたゴブリンソルジャーが床に倒れた。肩から貧相な弓を背負い、腰には剣をぶら下げてるからコイツに違いない。
 俺は奴が確実に倒れたのを視認。
 それでも。

 「火炎放射器!」

 ゴオオオォォォッッ!

 さらに念入りにゴブリンソルジャーと隠れてた光苔の周囲を高火力の火で炙る。
 見落とすなんてことは2度と、絶対にしない。ゴブリンソルジャーは確実に仕留めることこそが大事なんだ。

 「よし。戻るよシルフィ」

 「ええ」

 ダッダッダッダッダッダッ‥‥

 そのままUターンして本体に合流。

 「ゴブリンソルジャーは倒しました。あとはサルだけです」

 「ありがとうアレク君!」

 本隊では数人ずつがまとまって魔獣サルに対応している。

 メイズさん、ジャックさんは斬撃、ルシウスのおっさんは火魔法で。
 それぞれが単独で遠距離攻撃を放っている。

 「どうじゃ小童!」

 ルシウスのおっさんが高火力のファイアボールを連射して近づいてくるサルを一撃で屠っている。

 「ルシウスのおっさん、さすがだよ!全体見てそのまま闘ってくれ!」

 「おお!」
 (おおっ小童め、わしの名をちゃんと呼びおったわい!)」

 騎士団員のみんなもサルなんかものともせずに闘っている。いいぞ、いいぞ!
 ヨシ。俺も。

 シュッッッ!

 ザスッッッ!

 「グギャーーーッッ!!」

 矢尻がミスリルの矢をサルの急所に放つ。
 問題なし!
 なのに。そんなところで。

 「アレク関、小さなサルばかりでごわす。
これではおもしろくないでごわすな。
 おいどんみたいに大きなガタイのサルが出て来るといいでごわすなあ」

 がははははは

 がははじゃねーわ!

 「あーあ、この子フラグ立てたわね」

 シルフィが言っちゃいけないことを言ったんだ。

 あーやっぱり‥‥

 ボコボコボコボコ‥‥
 ボコボコボコボコ‥‥
 ボコボコボコボコボコボコボコボコ‥‥

 10体余り。銀毛のオランウータンを引き連れて。ドラミングで威嚇しながら登場したのは同じような銀毛を生やしたゴリラだった。


 ◯  ゴリラ

 体長3~5m超の巨人サイズのゴリラ。
 通称森の番人。
 その体躯に似ず俊敏である。単独の鉄級冒険者では危険。鉄級冒険者3人以上を推奨する魔獣。魔法耐性は弱い。
 危機が迫ると、大音量の咆哮を放つ。


 学園ダンジョンの階層主ゴリラは4メルクラスの巨体だったけど、コイツはひと回り小さい3メルクラスだ
な。といってもキザエモンより余裕で大きいけど。

 「がははははは。
 ようやく楽しくなってきたでごわす!千秋楽でごわす!」

 千秋楽?なんだよ!それ!?

 キザエモンが棍棒を下ろしたのと同じタイミングでゴリラも行動したんだ。

 ダンンンッッッ!









 








 「なにっ!?」

 15mほどを一気に跳躍した魔獣ゴリラがルシウスおっさんの目の前に立っていた。

 「フーッッッ  フーッッッ  フーッッッ‥‥」









 「フガアァァァッッッ!」

そのまま高速の掌底打ちをルシウスおっさんに向けて放ってきたんだ。

 「「キャーーーッ!」」

 ダアアアァァァァンンンッッッ!




















 「おおっ!鉄砲でごわすな!」

 ゴリラの掌底を防いだのはキザエモンだった。
 ゴリラに負けず劣らずの俊敏さでルシウスのおっさんの前に立ったキザエモン。

 「ルシウスさん。ここはおいが闘るでごわす」

 「‥‥」






 「あの子何部屋かしら?」

 「シルフィそこツッコむとこかよ!」

 ゴリラのつっぱりに真っ向から受けて立つキザエモン。

 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!

 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!

 「がはははは。すごい張り手でごわすな!」

 プシュッッ
 プシュッッ

 キザエモンもゴリラも。双方の顔から飛ぶ血飛沫。
 最初こそ五分で闘うキザエモンだったんだ。

 「「す、すごいわキザエモン君‥‥」」

 でも‥‥。

 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!

 「す、すごいでごわす‥‥」

 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!

 「す、す、すご‥‥」

 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!
 パンパンパンパンッッッ!

 一方的に叩かれまくったキザエモン。

 パアアアアァァァァァァンッッ!

 光苔が茂る壁に吹き飛ばされたキザエモンだ。

 ドカアアアアアァァァァァンッッッ!


 「フーッッ  フーッッ  フーッッ‥‥」

 肩で息をするゴリラは満足そうな微笑みを見せたんだ。

 「ま、まだ。まだでごわす!」

 グッ  ググググーーッッ!

 立ち上がったキザエモンの顔は隈取りも関係なく赤く腫れあがっていた。

 「退いておれキザエモン!ファイアボール!」

 ルシウスのおっさんが高火力の炎弾を発現。ゴリラに放ったんだ。

 「ゴガガガアアッ!」

 本能で火が嫌いなんだね。来たときと同じように一足飛びに戻ったゴリラ。

 それでもファイアボールはゴリラに着弾したよ。
 だけどゴリラは肩の埃を払う程度の仕草をしてみせたんだ。ファイアボールはゴリラの全身の毛を焼いた程度だったんだ。あれだけ高火力の炎弾なのに。

 「ルシウスのおっさん。コイツには火魔法は効かないぞ!」

 全身がミスリルで覆われてるゴリラには火魔法が効かないみたいなんだ。

 「ではどうするアレク?」

 「ルシウスのおっさんは他のサルを削ってくれ」

 「わかった!」

 「キザエモン!今は遊んでる暇はないぞ!」

 「そ、そうでごわすな。面目ないでごわす」

 「キザエモン、もう1回ゴリラとがっぷり4つに組んでくれ。動きさえ停めてくれたら、悪いけどあとは俺が終わらせる」

 「わかったでごわす!」

 パンパーンッッ!

 土俵があるかのように。キザエモンが柏手を打ったんだ。
そして‥‥。

 クイクイっ

 かかってこいよとゴリラに手招きをするキザエモン。
 
 俺は位置につく前に。リアカーの横でバリーさんを護る2人に注意喚起の声をかけたんだ。

 「メンディー君、ケント君、ゴリラの対処法はいいね?」

 「はい団長。音対策ですよね」

 「そのとおりだよ。耳栓持ってる?」

 「「もちろんです」」

 「さすがだね」

 「「えへへ」」

 「じゃあもう耳栓しとこうか」

 「「了解です!」」

 ゴリラの出現と同時に。騎士団員さんたちも全員が耳栓をしてるな。

 「おいガキ、早く治せよ!早く、早くしろよ!聞いてんのかよーー!」

 あー無視無視……。

 「ルシウスのおっさん。耳栓は持ってるよな?」

 「当たり前じゃ!」

 「了解!」





 待ち構えるキザエモンの前に。ゆっくりと向かい合ったゴリラがすぅーーーっと息を吸った。

 「くるよ!」

 メイズさんが言った直後。

 「ウガガガガガアアァァァァァーーーッッッ!」

 ビリビリビリビリッッッ!

 それは肌にさえ感覚が伝わるくらいの大音量のゴリラの咆哮だった。

 前にも言ったよね。飛行機のジェットエンジン音を真横で聞くと140dbとか言うんだ。鼓膜が破れるレベルの音量。ゴリラの咆哮もまったく変わらずなんだ。

 ダンジョン内で音が聴こえなくなると致命傷になるんだ。
 何より大音量に茫然自失となるのは必然。
 まさに致命傷となり得る魔獣ゴリラの咆哮なんだ。

 「みんな大丈夫かい?」


























 「耳が、耳が、耳が聞こえねぇーーー!」

 約1人こう言って叫んでたよ……。


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