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クリスマスの頃の物語
ワイン
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「そのワインはここにあるんですか?」
どうやらオヤジはそのワインに興味を抱いたようで聞き返していた。
「残念ながら今はないです」
ミケーレさんは眉間にシワを寄せて大仰に申し訳なさそうな顔をした。
でも何故だかその表情が自然な感じがして、僕は密かに『日本人には絶対真似ができないな』と感心していた。
「ないのかぁ」
オヤジは残念そうに呟いたがそれは『普通の日本人のオッサンの素朴なリアクション』だった。
それでもミケーレさんは少し考えてから
「これは如何ですか? お勧めです」
とメニューに載っていたワインを指さした。
そして
「ファレスコ・モンティアーノ・ラツィオの99年物です。鴨料理に合いますよ」
とワインの銘柄を教えてくれた。
「じゃあ、ワインはそれでお願いします」
オヤジが答える前に仁美さんが答えた。
オヤジは黙って頷いただけだった。
本当に夫婦のような呼吸だ。これが幼馴染の空気感というものか?
僕はニ人のやり取りを見て思っていた。
仁美さんがワインを注文すると、ミケーレさんは笑顔でメニューを閉じた。
立ち去ろうとするミケーレさんにオヤジが
「L'acqua Per favore(アクア ペルファボーレ)」
と思い出したように声をかけた。
するとミケーレさんは僕と宏美の顔を見たあと、またもやお大仰にお辞儀をして
「Come vuole Lei,presidente」
と答えた。
オヤジと仁美さんはまたもや二人でうけて笑っていた。
今度は僕らに聞かれる前に仁美さんが教えてくれた。
「お父さんがあんた達の水を頂戴って言ったら、ミケーレが大袈裟に『承りました。社長様』って応えたのよ。でもイタリであんな言い方したら嫌味に取られるんじゃないのかなぁ」
と最後は笑いながら心配していた。
僕と宏美は仁美さんの恰好の良さに惚れそうになった。そして何故この歳まで仁美さんが独身だったか解ったような気がした。
こんな独特な雰囲気を持った女性に釣りあえる男性が居ないのではないだろうか。まさに大人の女性。しかしそれに普通に付き合って話を合わせているオヤジは案外凄いかもしれない。
オフクロには悪いが、このニ人が結婚していてもおかしくなかったなとさえ思ってしまった。それほどこの二人の距離感とか空気感とかが自然な感じに思えた。
――こんな事は口が裂けてもオフクロには言えんな。例え今は別れた夫婦といえども――
オヤジと仁美さんがメニューを見ながらやっていた謎かけの様な会話の中身は、料理が運ばれてきて初めて理解できた。
普通にパスタとピザと鴨料理にリゾットが出てきただけだった。
ただ単に世間知らずの僕と宏美だから分からなかっただけなのだが、大人って当たり前のようにこんな事を知っているのだろうか? ちょっと大人の処し方みたいなものを見た気になった。
僕もレストランでこれぐらいオシャレに注文ができるような大人になりたいと少し思った。
ピザを食べながらオヤジが急に気がついたように
「ピザに水はないよなぁ」
と言って宏美にオレンジジュース。僕にはコーラを注文してくれた。
それを見て仁美さんが
「本当に親子ね。よく食事にコーラーが飲めるわ」
と感心していた。
仁美さんはオヤジが子供の頃からコーラが好きで、子供の頃はオヤジの家に行くと『コーラしか出てこなかった』と言って笑った。
オヤジは
「ピザにはコーラでエエやろう?」
と反論していたが仁美さんに
「ピザだけならね」
と一蹴されていた。
更にオヤジは
「ガキの頃はご飯にコーラをかけて食っていたぐらい好きやったんやけどなぁ」
と訳の分からん反論を試みて仁美さんや宏美に
「それはない」
と顰蹙を浴びていた……が、実は僕も食えない事はないと思っていた。
余りにも女性陣の反論と引き具合が凄かったので、オヤジとは反対勢力に組することにした。オヤジには悪いがここは状況判断をさせてもらった。
しかしこんなくだらない会話が楽しい。
どうやらオヤジはそのワインに興味を抱いたようで聞き返していた。
「残念ながら今はないです」
ミケーレさんは眉間にシワを寄せて大仰に申し訳なさそうな顔をした。
でも何故だかその表情が自然な感じがして、僕は密かに『日本人には絶対真似ができないな』と感心していた。
「ないのかぁ」
オヤジは残念そうに呟いたがそれは『普通の日本人のオッサンの素朴なリアクション』だった。
それでもミケーレさんは少し考えてから
「これは如何ですか? お勧めです」
とメニューに載っていたワインを指さした。
そして
「ファレスコ・モンティアーノ・ラツィオの99年物です。鴨料理に合いますよ」
とワインの銘柄を教えてくれた。
「じゃあ、ワインはそれでお願いします」
オヤジが答える前に仁美さんが答えた。
オヤジは黙って頷いただけだった。
本当に夫婦のような呼吸だ。これが幼馴染の空気感というものか?
僕はニ人のやり取りを見て思っていた。
仁美さんがワインを注文すると、ミケーレさんは笑顔でメニューを閉じた。
立ち去ろうとするミケーレさんにオヤジが
「L'acqua Per favore(アクア ペルファボーレ)」
と思い出したように声をかけた。
するとミケーレさんは僕と宏美の顔を見たあと、またもやお大仰にお辞儀をして
「Come vuole Lei,presidente」
と答えた。
オヤジと仁美さんはまたもや二人でうけて笑っていた。
今度は僕らに聞かれる前に仁美さんが教えてくれた。
「お父さんがあんた達の水を頂戴って言ったら、ミケーレが大袈裟に『承りました。社長様』って応えたのよ。でもイタリであんな言い方したら嫌味に取られるんじゃないのかなぁ」
と最後は笑いながら心配していた。
僕と宏美は仁美さんの恰好の良さに惚れそうになった。そして何故この歳まで仁美さんが独身だったか解ったような気がした。
こんな独特な雰囲気を持った女性に釣りあえる男性が居ないのではないだろうか。まさに大人の女性。しかしそれに普通に付き合って話を合わせているオヤジは案外凄いかもしれない。
オフクロには悪いが、このニ人が結婚していてもおかしくなかったなとさえ思ってしまった。それほどこの二人の距離感とか空気感とかが自然な感じに思えた。
――こんな事は口が裂けてもオフクロには言えんな。例え今は別れた夫婦といえども――
オヤジと仁美さんがメニューを見ながらやっていた謎かけの様な会話の中身は、料理が運ばれてきて初めて理解できた。
普通にパスタとピザと鴨料理にリゾットが出てきただけだった。
ただ単に世間知らずの僕と宏美だから分からなかっただけなのだが、大人って当たり前のようにこんな事を知っているのだろうか? ちょっと大人の処し方みたいなものを見た気になった。
僕もレストランでこれぐらいオシャレに注文ができるような大人になりたいと少し思った。
ピザを食べながらオヤジが急に気がついたように
「ピザに水はないよなぁ」
と言って宏美にオレンジジュース。僕にはコーラを注文してくれた。
それを見て仁美さんが
「本当に親子ね。よく食事にコーラーが飲めるわ」
と感心していた。
仁美さんはオヤジが子供の頃からコーラが好きで、子供の頃はオヤジの家に行くと『コーラしか出てこなかった』と言って笑った。
オヤジは
「ピザにはコーラでエエやろう?」
と反論していたが仁美さんに
「ピザだけならね」
と一蹴されていた。
更にオヤジは
「ガキの頃はご飯にコーラをかけて食っていたぐらい好きやったんやけどなぁ」
と訳の分からん反論を試みて仁美さんや宏美に
「それはない」
と顰蹙を浴びていた……が、実は僕も食えない事はないと思っていた。
余りにも女性陣の反論と引き具合が凄かったので、オヤジとは反対勢力に組することにした。オヤジには悪いがここは状況判断をさせてもらった。
しかしこんなくだらない会話が楽しい。
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