北野坂パレット

うにおいくら

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クリスマスの頃の物語

酔った仁美さんは可愛いか?

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「今日は楽しかったわ。本当に家族で食事をした気分になったわ」
食事も終盤になって仁美さんはオヤジの顔を見て言った。

「まあ、元々こいつらは仁美の家族みたいなもんだろう?」
とオヤジは応えた。

「うん。そう。本当にとってもいい息子と娘だわ」
仁美さんは僕達二人の顔を交互に見比べてからそう呟いた。

 そして仁美さんはワイングラスを持つとそれをしばらく眺めてから一気に飲んだ。
既にオヤジと仁美さんでワインのボトルをニ本注文していたというのに飲むペースが全然落ない。
本当にこのニ人はワインを水のように飲む。

 多少は酔いも回ているんだろうか? 少し溶けそうな目をした仁美さんが僕に振り向いて言った。
「今日は付き合ってくれてありがとうね。お陰で楽しいご飯になったわ」

「いいえ、こちらこそ楽しいディナーでした」
と僕は慌てて応えた。
仁美さんは軽く笑うと
「宏美ちゃんもね。デートの邪魔してごめんね」
と今度は宏美に声を掛けた。

「いえいえ。本当に楽しい食事でした。仁美さん凄くカッコよかったので憧れてしまいました」
と宏美は満面の笑みで返していた。

「え?そう? ありがとう」
仁美さんは嬉しそうに笑った。

オヤジはテーブルに肘をつき顔の前で手を合わせて、鼻を覆うようにして黙って聞いていた。

「私はね。本当は欲張りな女だから仕事も家庭も家族もみんな欲しかったのよ。でも、手に入れたのは仕事だけやったなぁ。後悔はしていないけど、たまに憧れるわね。こういうのに……」

 これはもしかして仁美さんの本音か? と僕が思っていると、仁美さんは空いたグラスを「ふん!」と鼻を鳴らしてオヤジに突き出した。
 オヤジは笑いながらそこへワインを注いだ。グラスの半分は赤いワインが占めた。オヤジはそれを確かめてから自分のグラスに残りのワインを注いでボトルを空にした。

 仁美さんはグラスのワインを揺らしながら暫く何かを考えているようだった。
ワインがグラスの中でワルツを踊っているようだ。仁美さんはそのワインの舞を暫く堪能したあとこう言った。

「でも、一平ちゃんや安ちゃんとか一緒にいてくれるから寂しいと思ったことはないわ。それに君たち。ホンマに良い子やわ。ありがとうね」
と言って仁美さんはワイングラスを空けた。


 呂律はまだ回っているが、少し怪しい……結構酔っているのだろうか?

「ふぅ……」
仁美さんはため息をついた……ちょっと切ない風がテーブルの上を通り過ぎた。

「まあ、君の老後は亮平と宏美ちゃんと冴子が看てくれるから大丈夫や」
オヤジは軽い調子で仁美さんに声を掛けた。

「ホンマにぃ?」
そう言って仁美さんは僕と宏美を見た……と言うか睨んだというか、ただ単に酔っ払いが絡みかけている構図というか……そんな感じだった。

「大丈夫です。母も居ますから」
僕は少し顔が引きつりながら応えた。宏美は何故か激しく頷いている。そんなに頷く場面か? 意味が分からない。

「そうだぁ。ユノがおるんやった。そうよ、老後はユノと一緒に暮らすって言うてたんやったわ!!忘れとったわ。そうよ! そもそもあなた達は家族同然よね」
仁美さんは満面の笑みを浮かべて僕たちを見た。

「だからさっきからそう言うてるやん。ま、こんなもんで良ければいつでも持って行ってくれ」
とオヤジは余計な一言をこのタイミングで言った。

「こら一平! お前もいずれはこの二人に世話になるんやぞ。今の内によ~くお願いしとけ!」
と仁美さんはオヤジに毒づいた。

「ふ、そうやったな」
とオヤジは軽く笑った。オヤジにしては珍しい軽い受け流しだった。
僕は何故かオヤジの後ろにお嬢の姿が一瞬見えたような気がした。

 急に我に返ったように仁美さんは
「あぁ、ゴメンゴメン。なんか湿っぽい話をしてしまったわ。本当に今日楽しかっん。それが言いたかっただけやのにね。ちょっと酔ぅたかな?」
と声を出して酔いを吹き飛ばそうとするかのように声を上げた。

さっき見えた溶けそうな表情はもうなくなって、いつもの仁美さんの表情に戻っていた。

 オフクロと同い年の仁美さんだが、なんだかかわいく見えた。大人の女性って本当に魅力的だなぁ……と仁美さんを見てそう思った。

 ――こんなかわいい人なのに何故一人なのか? やっぱりそう思ってしまう。そんな事はまだ高校生のお子ちゃまには分からないんだろうな。大人同士だと違うように見えるのだろうか?――

なんて事をこの時思っていた。

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