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伴奏
練習後
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ヴァイオリンをケースに片付けていると大二郎が
「ひとこと指示するだけであんなに音が変わるもんなんやなぁ」
と感心したように話しかけてきた。
「うん? ああ、さっきのフルートな。あれは見事に変わったな」
「せやろ。ホンマに驚いたわ」
「うん。一気に音のイメージが変わったもんなぁ。『こういう音をダニーは求めとったんか!』というのが演奏しとって、よう分かったわ」
と僕も大二郎と同じようなことを思っていた。
流石は巨匠である。改めて僕たちは凄い人に指導されていると実感した。
それとは別に、僕は演奏に入る前にダニーが語る、作曲者や曲に関する蘊蓄をひそかな楽しみにしていた。その曲のバックグランドを知るのと知らないとでは演奏する姿勢が全く違ってくる。
「で、久しぶりの合奏はどうやった?」
と大二郎が聞いてきた。
「いや、久しぶりやと、なんか新鮮な気持ちになるわ。それよりもお前の方はどうなん? 受験勉強はどう?」
と僕は大二郎に聞き返した。彼も今は受験勉強で忙しかったはず。他人よりも先に自分の心配をしろと言ってやりたかった。
「俺か? まぁぼちぼちやな。一応この前の模試判定ではAやったけどな」
と大二郎にしては不釣り合いな自信に満ちた言葉が返って来た。
「へ? そりゃ良かったな。それなら安心できるよな」
予想外のひとことだったが、彼は彼なりに頑張って受験も部活も両立させていたようだ。
「ま、本番ならな分らんけどな」
と大二郎は言ったが、その表情にはそれなりの手ごたえと自信が浮かんでいるように見えた。
ちょうどそこへ拓哉と哲也が楽器を片付け終わってやって来た。
「久しぶりの合奏はどうや?」
と大二郎が拓哉にも同じことを聞いた。
「ええわぁ……ホンマに」
大二郎と違って母子家庭の拓哉は『何が何でも国公立に行かんとあかんねん』と言って、部活よりも受験勉強を中心にしていた。久しぶりの合奏は溜まったストレスの発散にはなったようだった。
「せやろ? 無理せんと毎日部活に参加してもええんやでぇ」
と大二郎が悪魔のささやきを呟くと
「ホンマなぁ……出来たらそうしたいわ」
と本当に残念そうに拓哉は言った。
「いつでも帰って来てええねんでぇ。亮平もそう思うやろ?」
「まぁな。でも拓哉の受験勉強の邪魔をしたらかわいそうやろ」
と僕は拓哉の気持ちもよく分かるので大二郎の言葉を適当に受け流した。
「せやなぁ……で、亮平は、あとひと月は冴子のお守りをせなあかんしな」
と大二郎は僕と拓哉の顔を見比べて言った。
「せやねん。頑張ってお守りするわ」
大二郎の言う通り全国大会が終わるまでは、僕は冴子の為に頑張ろうと心に決めていた。
「それにしても、こうやって三年が全員そろっての演奏は、あと何回出来るんやろう?……」
と大二郎は少し寂しそうに呟いた。
その大二郎の気持ちもよく分かったが
「せやなぁ……」
と言ったきり誰もこれ以上言葉を続ける事が出来なかった。
ただ僕たちはいつも現実に振り回される三年生である事を自覚した。
「ひとこと指示するだけであんなに音が変わるもんなんやなぁ」
と感心したように話しかけてきた。
「うん? ああ、さっきのフルートな。あれは見事に変わったな」
「せやろ。ホンマに驚いたわ」
「うん。一気に音のイメージが変わったもんなぁ。『こういう音をダニーは求めとったんか!』というのが演奏しとって、よう分かったわ」
と僕も大二郎と同じようなことを思っていた。
流石は巨匠である。改めて僕たちは凄い人に指導されていると実感した。
それとは別に、僕は演奏に入る前にダニーが語る、作曲者や曲に関する蘊蓄をひそかな楽しみにしていた。その曲のバックグランドを知るのと知らないとでは演奏する姿勢が全く違ってくる。
「で、久しぶりの合奏はどうやった?」
と大二郎が聞いてきた。
「いや、久しぶりやと、なんか新鮮な気持ちになるわ。それよりもお前の方はどうなん? 受験勉強はどう?」
と僕は大二郎に聞き返した。彼も今は受験勉強で忙しかったはず。他人よりも先に自分の心配をしろと言ってやりたかった。
「俺か? まぁぼちぼちやな。一応この前の模試判定ではAやったけどな」
と大二郎にしては不釣り合いな自信に満ちた言葉が返って来た。
「へ? そりゃ良かったな。それなら安心できるよな」
予想外のひとことだったが、彼は彼なりに頑張って受験も部活も両立させていたようだ。
「ま、本番ならな分らんけどな」
と大二郎は言ったが、その表情にはそれなりの手ごたえと自信が浮かんでいるように見えた。
ちょうどそこへ拓哉と哲也が楽器を片付け終わってやって来た。
「久しぶりの合奏はどうや?」
と大二郎が拓哉にも同じことを聞いた。
「ええわぁ……ホンマに」
大二郎と違って母子家庭の拓哉は『何が何でも国公立に行かんとあかんねん』と言って、部活よりも受験勉強を中心にしていた。久しぶりの合奏は溜まったストレスの発散にはなったようだった。
「せやろ? 無理せんと毎日部活に参加してもええんやでぇ」
と大二郎が悪魔のささやきを呟くと
「ホンマなぁ……出来たらそうしたいわ」
と本当に残念そうに拓哉は言った。
「いつでも帰って来てええねんでぇ。亮平もそう思うやろ?」
「まぁな。でも拓哉の受験勉強の邪魔をしたらかわいそうやろ」
と僕は拓哉の気持ちもよく分かるので大二郎の言葉を適当に受け流した。
「せやなぁ……で、亮平は、あとひと月は冴子のお守りをせなあかんしな」
と大二郎は僕と拓哉の顔を見比べて言った。
「せやねん。頑張ってお守りするわ」
大二郎の言う通り全国大会が終わるまでは、僕は冴子の為に頑張ろうと心に決めていた。
「それにしても、こうやって三年が全員そろっての演奏は、あと何回出来るんやろう?……」
と大二郎は少し寂しそうに呟いた。
その大二郎の気持ちもよく分かったが
「せやなぁ……」
と言ったきり誰もこれ以上言葉を続ける事が出来なかった。
ただ僕たちはいつも現実に振り回される三年生である事を自覚した。
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