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伴奏
カラーパレット
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――人との出会いかぁ……――
オヤジの言葉を反芻しながら僕は高校に入学してからの出会いを思い返してみた。
哲也に拓哉に瑞穂。千龍さん、石橋さん、彩音さん。千恵蔵に琴葉。渚さんにダニー……色々な人の顔が浮かんできた。
オヤジの言う通り僕のピアノの音はお嬢に出遭ってから変わった。宏美との演奏は文字通り景色が変わって見えた。そして誰かと演奏するたびに考える事が沢山できた。気が付くことが沢山あった。そして最後は冴子か……
本当にオヤジの言う通りだった。それを今実感した。
「ホンマにそうかもしれん……」
と僕が呟くとそれを聞き留めてオヤジは
「自覚はあるんやな」
とまだ肘をついて顎を支えたまま、さっきと同じように横目で僕を見ながら言った。
「うん。その通りやと思う」
オヤジは僕の言葉を聞くと座り直して
「ホンマにお前のオヤジの言う通りやな」
と安藤さんに向かって言った。
「え? 何がや?」
と唐突に話を振られた安藤さんは、理解できずオヤジに聞き返した。
オヤジはそれには応えず
「亮平、この店の名前はなんや?」
と僕に聞いてきた。
「え~と『カラーパレット』やったけ?」
と店名を告げた。常連からは略して『カラパレ』と呼ばれていた。
初めてこの店の名前を聞いた時、BARにしてはどちらかと言えば似つかわしくない華やかな名前だと僕は感じていた。なので僕の中ではこの店は『安藤さんの店』と呼ぶ方がしっくりきていた。
「そうや。安藤のオヤジがこの店を開いた時に名付けたんがその店名や。それはな『人にはそれぞれ個性がある。そんな人と人が出会って各々の個性が入り混じって影響を与え合うと、人は成長するし何かを生み出す』ちゅう意味なんや。そうやったよな安ちゃん」
「ああ、そうや。それがオヤジがこの店を開いた理由やったからなぁ。そんな個性的な人が集まるような店になるようにって『カラーパレット』ていう名前にしたらしいで」
と安藤さんが言った。
この店の名前の由来は初めて聞いた。そんな願いが込められているとは思ってもいなかった。
「ホンマにな……亮平を見とったら音楽の神様ミューズの采配としか思えんわ」
とオヤジは呟くと空いたグラスを安藤さんに差し出しだした。
「同じもんでええんか?」
と安藤さんが確認すると
「いや、そろそろリベットにするわ」
オヤジのビールの時間が終わったようだった。今日はグレンフィディックではなくリベットの気分らしい。
――オヤジは『自分がミューズには愛されてはいなかった』と思っているのだろうか?――
オヤジが差し出した空のビアグラスを見つめながら僕はそんな事を思った。それをオヤジに確認する勇気は勿論無かった。
「……でも、まだ俺は自分の音を掴めてへん」
と思わず言葉が漏れた。
これはオヤジへの問いかけでもあったかもしれないし、自分に向けて言った台詞でもあったかもしれないが、誰かを意識して出た台詞では無かった。
なぜ今この台詞が僕の口から洩れたのか、僕自身も全く分からなかった。でも、その言葉を頭の中で反芻するとその通りだと納得してしまった。
そう。僕には自分の弾くピアノの音色が、自分の音だという自覚も自信もまだ無かった。
――確かにここで弾くべき音色を出しているとは思うんだけど――
今ここにあるべき音、音色はお嬢に出遭ってから分かるようになっていたが、それが本当に正しい音とは思えなくなってきていた。ひとことで言うと自分の音色のような気がしない。誰かのコピーのような気さえしていた。でも、もう少しで何か見えそうな掴めそうな気もしていた。
「お前の音ねえ……あるようでないな」
とオヤジは僕の方を向きもせずに言った。オヤジにも僕のつぶやきが聞こえていた。
「うん」
オヤジの言葉に何の反論も無かった。自分自身でもそう思っていた。
「それでええんやないか?」
とオヤジはひとこと言った。
そして
「技術的にどうのと言う話やないんやろ?」
と聞いてきた。
「うん」
オヤジの言う通り演奏技術に関しては、それほど僕は意識していなかった。どちらかと言えば表現力に関しての捉え方に悩んでいたと言える。
「あるとしたら今のお前やから出せる音色やな」
とオヤジは言った。
「そうなん?」
『ここで今出せる最高の音』と言うのは考えた事はあるが、『今の僕に出せる音』そんな視点で自分のピアノの音を捉えた事は今まで無かったので、そのひとことは僕に思った以上に重く感じられた。
オヤジの言葉を反芻しながら僕は高校に入学してからの出会いを思い返してみた。
哲也に拓哉に瑞穂。千龍さん、石橋さん、彩音さん。千恵蔵に琴葉。渚さんにダニー……色々な人の顔が浮かんできた。
オヤジの言う通り僕のピアノの音はお嬢に出遭ってから変わった。宏美との演奏は文字通り景色が変わって見えた。そして誰かと演奏するたびに考える事が沢山できた。気が付くことが沢山あった。そして最後は冴子か……
本当にオヤジの言う通りだった。それを今実感した。
「ホンマにそうかもしれん……」
と僕が呟くとそれを聞き留めてオヤジは
「自覚はあるんやな」
とまだ肘をついて顎を支えたまま、さっきと同じように横目で僕を見ながら言った。
「うん。その通りやと思う」
オヤジは僕の言葉を聞くと座り直して
「ホンマにお前のオヤジの言う通りやな」
と安藤さんに向かって言った。
「え? 何がや?」
と唐突に話を振られた安藤さんは、理解できずオヤジに聞き返した。
オヤジはそれには応えず
「亮平、この店の名前はなんや?」
と僕に聞いてきた。
「え~と『カラーパレット』やったけ?」
と店名を告げた。常連からは略して『カラパレ』と呼ばれていた。
初めてこの店の名前を聞いた時、BARにしてはどちらかと言えば似つかわしくない華やかな名前だと僕は感じていた。なので僕の中ではこの店は『安藤さんの店』と呼ぶ方がしっくりきていた。
「そうや。安藤のオヤジがこの店を開いた時に名付けたんがその店名や。それはな『人にはそれぞれ個性がある。そんな人と人が出会って各々の個性が入り混じって影響を与え合うと、人は成長するし何かを生み出す』ちゅう意味なんや。そうやったよな安ちゃん」
「ああ、そうや。それがオヤジがこの店を開いた理由やったからなぁ。そんな個性的な人が集まるような店になるようにって『カラーパレット』ていう名前にしたらしいで」
と安藤さんが言った。
この店の名前の由来は初めて聞いた。そんな願いが込められているとは思ってもいなかった。
「ホンマにな……亮平を見とったら音楽の神様ミューズの采配としか思えんわ」
とオヤジは呟くと空いたグラスを安藤さんに差し出しだした。
「同じもんでええんか?」
と安藤さんが確認すると
「いや、そろそろリベットにするわ」
オヤジのビールの時間が終わったようだった。今日はグレンフィディックではなくリベットの気分らしい。
――オヤジは『自分がミューズには愛されてはいなかった』と思っているのだろうか?――
オヤジが差し出した空のビアグラスを見つめながら僕はそんな事を思った。それをオヤジに確認する勇気は勿論無かった。
「……でも、まだ俺は自分の音を掴めてへん」
と思わず言葉が漏れた。
これはオヤジへの問いかけでもあったかもしれないし、自分に向けて言った台詞でもあったかもしれないが、誰かを意識して出た台詞では無かった。
なぜ今この台詞が僕の口から洩れたのか、僕自身も全く分からなかった。でも、その言葉を頭の中で反芻するとその通りだと納得してしまった。
そう。僕には自分の弾くピアノの音色が、自分の音だという自覚も自信もまだ無かった。
――確かにここで弾くべき音色を出しているとは思うんだけど――
今ここにあるべき音、音色はお嬢に出遭ってから分かるようになっていたが、それが本当に正しい音とは思えなくなってきていた。ひとことで言うと自分の音色のような気がしない。誰かのコピーのような気さえしていた。でも、もう少しで何か見えそうな掴めそうな気もしていた。
「お前の音ねえ……あるようでないな」
とオヤジは僕の方を向きもせずに言った。オヤジにも僕のつぶやきが聞こえていた。
「うん」
オヤジの言葉に何の反論も無かった。自分自身でもそう思っていた。
「それでええんやないか?」
とオヤジはひとこと言った。
そして
「技術的にどうのと言う話やないんやろ?」
と聞いてきた。
「うん」
オヤジの言う通り演奏技術に関しては、それほど僕は意識していなかった。どちらかと言えば表現力に関しての捉え方に悩んでいたと言える。
「あるとしたら今のお前やから出せる音色やな」
とオヤジは言った。
「そうなん?」
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※この物語はフィクションです。
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