三ヶ月間の両思い

ろむこ

文字の大きさ
7 / 21

第六話

しおりを挟む
  ファーレンハウト領までの道のりは穏やかなものであったが、エルノワの心は穏やかとは言えなかった。


何故、ヴァイン様からのお呼び出しなのか。
お父様は一体何をご存知なのか。


  そして、この旅路は、なんて美しいもので溢れているのだろうか。


「なんて美しい山々!お願い、ちょっとだけ!ほんのちょっとだけスケッチをさせて!」


「いけません、お嬢様。旦那様にも出来るだけ旅路を急ぐように言われております」


「一時間でいいから!」


「いけません」


「三十分!」


「ダメです」


「十分!お願い!」


「ダメなものはダメです!」


道中は始終こんな有様で、

「お願い!一分でいいわ!目に焼き付けて馬車の中でスケッチするの!お願いお願いお願いー!」

とのしつこいお願い攻撃に侍女が折れた。


馬車で一日半の行程の中でエルノワのスケッチの為の停車時間が数回発生したが、旅路は順調であったと言えるだろう。

「五十九、六十!はい出発です!エルノワお嬢様!」

と、きっかり六十秒だけで済ませた侍女はさすがとしか言いようがない。

ちなみに敏腕侍女の彼女は、エルノワお嬢様の扱いのプロとして、フロスティ家の使用人達から密かに尊敬されている。



  長いようで短い、エルノワにとってはあっという間(スケッチに夢中だったので)の馬車の旅は、側仕えと使用人達の努力もあり無事に終了を向かえる。


先触れを送り、もうそろそろですよと言われ馬車から外を眺めると、立派な街並みが現れていた。


「まあ、なんて賑やかで活気のある街でしょう」

隣国と我が国との国境にある辺境伯領。
街を歩く人々は他国の民も多いようで、見たこともない肌の色の者や不思議な服を着ている者もいる。
はっきりとわかる旅装束で、自分の身長の倍はあるであろう荷を担ぐ者は行商だろうか。
行き交う馬車の数も多いが、とにかく人が多い。
雑多で、騒がしいが、我が国は栄えているのだと強く印象を受ける。
なるほど、この街は他国から入る者からすればこの国の顔なのだろう。
きっちりと整備された石畳の道、その両脇に揃えて建てられている頑丈そうな家々、そしてこの活気。国力を感じさせるに十分だ。


「本当に賑やかでございますね。あ、ご覧下さいお嬢様、あの大きなお屋敷がファーレンハウト家のお屋敷ではございませんか?」


栄えた街並みの最奥、まだかなり距離があるにも関わらずそれでも大きく見えるお屋敷は、まさに雄大豪壮と呼ぶにふさわしい姿であった。


「……あそこには、何が待っているのかしら」


立派な街、立派なお屋敷。

エルノワは、ちっぽけでなにも出来ない自分が、さらに小さくなったように感じていた。

逃げ帰りたい……。でももう、逃げる事は許されないのである。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中

白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。 思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。 愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ 向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。 アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。 そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___ 異世界恋愛 《完結しました》

処理中です...