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第十五話
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例えばエルノワの目の前で咳混んで呼吸が覚束無くなっても、決してエルノワに自分の世話はさせなかった。触れる事だけは許さなかった。
例えばいくら体調がすぐれない日であっても、意識がある時は左手にキスの挨拶は欠かさない。
自分の意識があまりない時でも、絵を描きながらでいいから側にいて欲しい、など。
エルノワもヴァインの側から離れなかった。
朝夜とも問わず眠ってしまうヴァインは、目を覚ます時間も疎らだ。
彼が目を覚ました時に一番最初に顔を見せてあげたかった。
ヴァインの部屋は広かったので、エルノワのベッドなどを持ち込み、本当に常に一緒にいるようにした。
だんだん、水を飲ませたりぐらいは許してくれるようになった。
目覚めた時間が昼間であれば、カーテンを開けて青空を見せたり、夜であるならば美しい月夜には共に月と星を眺めたり。
ヴァインは自分が咳をしたり吐いてしまう姿を見せたくないと、最初難色を示していたが、
「夫婦が別々の寝室だなんて。不仲のようで嫌ですわ。わたくし達はこんなに仲良しですのに。ねぇ、旦那様?」
としつこく言い聞かせ、許可を取る前にさっさとベッドを部屋に持ち込んでしまった。
「私の奥さんは、随分と大胆だ」
と言われれば、
「わたくしの旦那様はちょっと頑固な所がおありですの。ですからわたくしも負けてられませんのよ」
と返す。
「困ったなぁ。……でも、君が近くにいてくれるのは、心強いよ」
「わたくしも、いつもヴァインが近くにいてくれて、心強いですわ」
「……私はもう、動く事もままならない。何かあっても君を守れないのに……?」
「動く事が必要ならわたくしがしますわ。守るとはどうすればいいのかわかりませんけれど、頑張ってわたくしがヴァインをお守りしますわ。わたくしの旦那様がこうしてわたくしの側にいてくださる、これ以上に心強い事などありませんわよ?」
心から思っている事を、伝える。
貴方は貴方として、ただ存在してくれているだけでいいのだ。
それ以上など、何も望まない。
「エル……。エル。私の奥さん。私は君に逢えた事を神に感謝するよ」
震える声がこんなにも愛おしい。
「なら、わたくしはヴァイン、貴方に感謝します。貴方がわたくしと貴方を出逢わせてくれた」
「……なんだか、ややこしいね」
「ふふふ、そうですわね。ややこしいですわね」
「でも、楽しい」
「ええ、楽しいですわね。とても」
意味があるかと問われれば、少し考えて、特にはないかなと答えるような、何気ない会話。
それがこんなにも楽しくて幸せだ。
幸せだからこそ、恐ろしい。
おやすみなさいと目を閉じたら、あの瞳はもう二度と開かないのではないか。
もう二度と声が聞けなくなるのではないだろうか。
彼が、消えて居なくなってしまうのではないだろうか。
……死んでしまうのではないだろうか、と。
例えばいくら体調がすぐれない日であっても、意識がある時は左手にキスの挨拶は欠かさない。
自分の意識があまりない時でも、絵を描きながらでいいから側にいて欲しい、など。
エルノワもヴァインの側から離れなかった。
朝夜とも問わず眠ってしまうヴァインは、目を覚ます時間も疎らだ。
彼が目を覚ました時に一番最初に顔を見せてあげたかった。
ヴァインの部屋は広かったので、エルノワのベッドなどを持ち込み、本当に常に一緒にいるようにした。
だんだん、水を飲ませたりぐらいは許してくれるようになった。
目覚めた時間が昼間であれば、カーテンを開けて青空を見せたり、夜であるならば美しい月夜には共に月と星を眺めたり。
ヴァインは自分が咳をしたり吐いてしまう姿を見せたくないと、最初難色を示していたが、
「夫婦が別々の寝室だなんて。不仲のようで嫌ですわ。わたくし達はこんなに仲良しですのに。ねぇ、旦那様?」
としつこく言い聞かせ、許可を取る前にさっさとベッドを部屋に持ち込んでしまった。
「私の奥さんは、随分と大胆だ」
と言われれば、
「わたくしの旦那様はちょっと頑固な所がおありですの。ですからわたくしも負けてられませんのよ」
と返す。
「困ったなぁ。……でも、君が近くにいてくれるのは、心強いよ」
「わたくしも、いつもヴァインが近くにいてくれて、心強いですわ」
「……私はもう、動く事もままならない。何かあっても君を守れないのに……?」
「動く事が必要ならわたくしがしますわ。守るとはどうすればいいのかわかりませんけれど、頑張ってわたくしがヴァインをお守りしますわ。わたくしの旦那様がこうしてわたくしの側にいてくださる、これ以上に心強い事などありませんわよ?」
心から思っている事を、伝える。
貴方は貴方として、ただ存在してくれているだけでいいのだ。
それ以上など、何も望まない。
「エル……。エル。私の奥さん。私は君に逢えた事を神に感謝するよ」
震える声がこんなにも愛おしい。
「なら、わたくしはヴァイン、貴方に感謝します。貴方がわたくしと貴方を出逢わせてくれた」
「……なんだか、ややこしいね」
「ふふふ、そうですわね。ややこしいですわね」
「でも、楽しい」
「ええ、楽しいですわね。とても」
意味があるかと問われれば、少し考えて、特にはないかなと答えるような、何気ない会話。
それがこんなにも楽しくて幸せだ。
幸せだからこそ、恐ろしい。
おやすみなさいと目を閉じたら、あの瞳はもう二度と開かないのではないか。
もう二度と声が聞けなくなるのではないだろうか。
彼が、消えて居なくなってしまうのではないだろうか。
……死んでしまうのではないだろうか、と。
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