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2章「vs後輩」_21話
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恋人の熱に微睡んでいたアンジュは、ふと足元のバックが目に入る。アルフレードが肩からかけていた、黒いボストンバッグをぼんやり眺める。うっすらと雪が積もり、薄い層を作っていた。
(そうだ雪!)
風が吹く音が聞こえ、途端に意識を覚醒させる。
慌てて恋人の名を呼び、身を捩る。腕の力が弱まった隙間から、見上げるように身体を起こすとアルフレードの髪や肩などに雪が少し積もっていた。髪や服は少し冷たく、湿っている。アンジュは急いでハンカチで水気を取っていく。
(このままでは風邪を引いてしまう。早く身体を温めなければ!)
先程までの甘い雰囲気が霧散し、あわあわと髪や服の雪を落としていく恋人。こういったところも可愛くてしょうがない、目を細めながらアルフレードはバッグからタオルを出しアンジュの髪を拭う。彼に抱きしめられていたためアンジュには雪があまり積もっていなかった。タオルは自分に使って欲しいと伝えたものの、アルフレードは構わずアンジュに付いた雪を落とし続ける。
「ところで…その大きな荷物はどうしたの?」
アンジュは足元にあるバッグが気になっていた。昨晩から今朝別れるまで、彼は持っていなかった荷物。ロッカーにしまっていたのかと聞けば、昼休みに寮部屋に取りに戻ったとアルフレードは説明する。
「泊まり用のを一式揃えたんだ。今夜の分もあるから少し多いだけだよ」
「……泊まる?」
「あった方がいいだろ?特に服とか」
アンジュは頷いた。今後泊まるならば、それは必要なものだ。絶対に。
しかし今、気になったのは、そこではない。
「今夜、も泊まるの?」
にっこり。
そんな効果音が似合う笑顔を浮かべると、アルフレードはアンジュの肩を抱き、彼女の借家に向かって歩き出す。
いつの間に荷物を取りに行ったのか、今夜来る気だったのか。聞きたいことは色々あるが今は後回しだ。
「ちょっと、まって!」
アンジュは慌てて足に力を込める。
昨晩は悲壮感漂わせて「大切な話がある」とアルフレードが訴えたため泊まってもらった。彼の仕事は広報も担っている。恋人の家であろうと連泊はいかがなものか。いかがわしい噂がたってしまう。
なにより部屋を整えたい。空き部屋の一つをアルフレードの部屋として、きちんと用意したいのだ。今朝アンジュの部屋で寝ていたのは、客室に何か不備があっただろうから。
「忙しい君が、しっかり休める場所を作りたい!」
朝から美顔は命に関わる、本音は心の中で叫ぶにとどまった。必死に抵抗するアンジュ。頬を膨らませ、力を入れた身体はプルプルと震えている。
恋人のいじらしい思いを聞き、アルフレードは蕩けたように目元を緩ませた。
アンジュは咄嗟に目を瞑る。彼の表情を直視したら、足の力が抜けてしまうと思ったからだ。
「ありがとうアンジュ。そう思ってくれて、本当に嬉しい。…けど」
「けど???!!!」
ちゅ。
アルフレードはリップ音を鳴らし、額にキスを送る。アンジュは目を閉じていたため、何が起こったか理解するのに動きを止めた。
その隙をつき、アルフレードは荷物ごとアンジュを抱き上げる。顔をあげた彼女は灰色の瞳に写る、自分の姿と目が合った。
「悪いが諦めてくれ。今夜、君と離れる気は全くない」
(!!!?!!!!!!!っぁ)
両手で顔を隠したアンジュと荷物を抱えながら、アルフレードは歩き出す。恋人の温もりを大事に抱きしめ、雪で滑らないように借家までの道を急ぐ。
莫大な愛を間近で受けたアンジュは、腕の中で揺られながら言葉にできない想いを己の内で叫ぶことしかできなかった。
(そうだ雪!)
風が吹く音が聞こえ、途端に意識を覚醒させる。
慌てて恋人の名を呼び、身を捩る。腕の力が弱まった隙間から、見上げるように身体を起こすとアルフレードの髪や肩などに雪が少し積もっていた。髪や服は少し冷たく、湿っている。アンジュは急いでハンカチで水気を取っていく。
(このままでは風邪を引いてしまう。早く身体を温めなければ!)
先程までの甘い雰囲気が霧散し、あわあわと髪や服の雪を落としていく恋人。こういったところも可愛くてしょうがない、目を細めながらアルフレードはバッグからタオルを出しアンジュの髪を拭う。彼に抱きしめられていたためアンジュには雪があまり積もっていなかった。タオルは自分に使って欲しいと伝えたものの、アルフレードは構わずアンジュに付いた雪を落とし続ける。
「ところで…その大きな荷物はどうしたの?」
アンジュは足元にあるバッグが気になっていた。昨晩から今朝別れるまで、彼は持っていなかった荷物。ロッカーにしまっていたのかと聞けば、昼休みに寮部屋に取りに戻ったとアルフレードは説明する。
「泊まり用のを一式揃えたんだ。今夜の分もあるから少し多いだけだよ」
「……泊まる?」
「あった方がいいだろ?特に服とか」
アンジュは頷いた。今後泊まるならば、それは必要なものだ。絶対に。
しかし今、気になったのは、そこではない。
「今夜、も泊まるの?」
にっこり。
そんな効果音が似合う笑顔を浮かべると、アルフレードはアンジュの肩を抱き、彼女の借家に向かって歩き出す。
いつの間に荷物を取りに行ったのか、今夜来る気だったのか。聞きたいことは色々あるが今は後回しだ。
「ちょっと、まって!」
アンジュは慌てて足に力を込める。
昨晩は悲壮感漂わせて「大切な話がある」とアルフレードが訴えたため泊まってもらった。彼の仕事は広報も担っている。恋人の家であろうと連泊はいかがなものか。いかがわしい噂がたってしまう。
なにより部屋を整えたい。空き部屋の一つをアルフレードの部屋として、きちんと用意したいのだ。今朝アンジュの部屋で寝ていたのは、客室に何か不備があっただろうから。
「忙しい君が、しっかり休める場所を作りたい!」
朝から美顔は命に関わる、本音は心の中で叫ぶにとどまった。必死に抵抗するアンジュ。頬を膨らませ、力を入れた身体はプルプルと震えている。
恋人のいじらしい思いを聞き、アルフレードは蕩けたように目元を緩ませた。
アンジュは咄嗟に目を瞑る。彼の表情を直視したら、足の力が抜けてしまうと思ったからだ。
「ありがとうアンジュ。そう思ってくれて、本当に嬉しい。…けど」
「けど???!!!」
ちゅ。
アルフレードはリップ音を鳴らし、額にキスを送る。アンジュは目を閉じていたため、何が起こったか理解するのに動きを止めた。
その隙をつき、アルフレードは荷物ごとアンジュを抱き上げる。顔をあげた彼女は灰色の瞳に写る、自分の姿と目が合った。
「悪いが諦めてくれ。今夜、君と離れる気は全くない」
(!!!?!!!!!!!っぁ)
両手で顔を隠したアンジュと荷物を抱えながら、アルフレードは歩き出す。恋人の温もりを大事に抱きしめ、雪で滑らないように借家までの道を急ぐ。
莫大な愛を間近で受けたアンジュは、腕の中で揺られながら言葉にできない想いを己の内で叫ぶことしかできなかった。
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