"推したい"婚約者

烏賊

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2章「vs後輩」_22話:エピローグ

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アンジュとアルフレードが本当の意味でお互いの想いが通じ合い、夜を過ごしている頃。

アルフレードが所属している班の長エゼリオが、自班の副班長の家のリビングテーブルで項垂れていた。テーブルに突っ伏したエゼリオは黙ったまま。マーギットの4歳になる娘におもちゃを乗せられても微動だにしない。
高く高く積み上がるおもちゃに機嫌よく笑う愛娘に、マーギットは目を細める。物言わない男に早く帰って欲しいと思いながら。

「聞いた?」

「主語なしで話さないでください」

ようやくエゼリオが単語を発すると、マーギットの妻は娘を抱っこし、寝室へ移動する。バイバイと手を振る娘にマーギットは手を振りかえす。エゼリオもテーブルの下で手を振っている動きが気配があり、「おやすみねー」などと言っている。
扉が閉まる音が聞こえてから、マーギットは遮断魔術をリビングにかけた。魔術がかかったのを確認してから、エゼリオは頭に積み上がったおもちゃを1つずつ机の上に置きながらつい先ほどまで参加していた長い長い会議、最も頭が痛くなったことについて話し始める。
それは今回の騒動の発端について。

「『アルフレードがアンジュと一緒に登庁したから』だって」

「…つまり朝帰りがショックで?」

「『恥をかかせたくなった』『相応しい女性が見極めたくなった』だってよ。アホみたいな話に泣きたくなったわ」

エゼリオは愚痴をこぼす。おもちゃを指でいじりながら天井を見上げている。
マーギットも大きなため息をついた。アルフレードの人気は知っていたが、ここまでの騒動に発展する動機にしてはあまりに幼稚。いっそ国家転覆が目的だと語られた方がマシだと思ってしまう。
マーギットも付き纏いから無理矢理関係を迫れ、一時期病院に行くほど精神を崩した経験がある。あの時の気持ち悪さは今でも震えるほど悍ましく気持ちが悪い。アルフレードたちも自分の生活が監視されていれば心地悪いだろうに。

「それで、後始末はどう片付ける決定になったのです?」

マーギットが1番気になっているのは訓練首謀者や参加者たちの処罰だ。もちろん新人を指導する立場にいながら正しく導けなかった自身も含まれる。5年前のような甘い処罰であるならば、嘆願書をしかるべきところに提出しようと準備をしている。

「訓練首謀者は全員除隊。巻き込まれたウィリアム班員と、1名除き他訓練参加者は全員軍学校戻り。そして新人の指導員、仮配属されていた班の上官は全員最長1年間減俸」

「それは…また大きな決定をしましたね」

不祥事を大いに嫌う上司たちからは考えられない厳罰だ。心を入れ替えたのかと感心する副班長の心が読めたエゼリオは「違う違う」と手を振った。

「ローランド代表の決定だよ」

マーギットは目を見開く。

ファラデウス国代表兼中央区長、ローランド公。厳格な政治とお茶目な性格で国民から愛されている人物だ。
先代までは周辺諸国と争いを繰り返し、上流階級者と軍に利益をもたらす政治や制度のせいで国民が苦しんでいたのを、彼は改革を推し進め、正してきた。
美しい自然は傷つくことなく、国民の貧富のさも縮まりつつある。ファラデウスは少しずつ豊かになっているが、利益を独占できなくなった者から恨みを買い、14年前にテロ事件を起こされてしまった。
デュドネのおかげで最愛の妻子は助かり、多くの反抗者は捕まったものの未だ反発は強い。ローランドは粘り強く改革を進めている。
軍ももれなく改革対象だ。一般兵士として前線で戦ったこともある彼は、軍が最も腐敗していた時期を身をもって経験している。5年前の圧力の件もあり、ローランドは軍に対してより厳しい目を向けるのだ。

「アルフレード退出後にひょこりと現れてさ。『ところで処罰どうする?今回は甘い事言わないよね?』って」

『いらないなぁ。残すならいっそ国が潰れた方が良くない?ねぇどう思う?』

問われた中央総監は冷や汗を流しながら、歯切れの悪そうに口をもごもご動かしていた

「除隊から免れた1名とは?」

「ダンケだ」

「ダンケ?」

「ダンケの参加は代表命令なんだと」

「まさか!」

エゼリオは肩をすくませた。話を聞いた時ほとんどの者が、マーギットと同じ反応を示した。
以前からアンジュの話を聞いていたダンケは、いつか指導して欲しいと強く願っていた。今日の特別訓練を聞きつけた彼は、純粋にアンジュの指導だと信じ、後日レポート提出する約束で参加を教官らに願い出た。
教官らは異様な内容に慌てて訓練を止めようとしたが、教官の1人が、抜き打ちで視察に来ていたローランドに特別訓練の話を通し、ダンケと引き合わせた。そしてアンジュ・ブルナーとの対戦を命令した、と言うのだ。ダンケであれば、アンジュから正しい学びを得ることができるだろうと期待をしてとのことであった。
事実確認に呼び出されたダンケは、ローランドの姿を見るなり破顔した。『お陰で貴重な経験を得られました!』と頭を下げていた姿に嘘はない。ローランドもダンケには優しい笑顔を向けていた。

『彼は今後も成長する。だがまだまだ甘い。他の新人たちもだ。軍はいかなる存在であるべきか、今後一層意識を改めて欲しい。そうでなければ今後またこの国は誤った道へ歩みを進めてしまう。今回の一件は君たちだけでなく、私にも責任がある』

大人の嘘を正せず、若者が道を外れてしまった。国の代表として、子供に正しい在り方を示す大人を果たせなかったと、ローランドも自らの責任を取る中庭の修繕費の全額負担、1年の給料減額することで会議は締めくくられた。

「なるほど。わかりました」

給料が減ってしまうのは妻子には申し訳ないが、ゆるい罰が下ってはローランドが言う通り、国を守る軍としてあってはならない。マーギットは改めて身を引き締めることにした。

「しかし報告は明日でも良かったと思いますが。他の班員にも共有するのでしょう?」

「まぁ、そうなんだけどさ。ちょっと気持ち悪い締めになっちゃって…早いうちに消化したくてな」

「どう言う意味です?」

会議でも明らかにならなかったことが1つある。新人に訓練を提案したものの存在だ。

『訓練を提案したのは教官の1人』との事だったが、詳細を確認すれば当てはまる人物はいない。記憶を思い出そうも、新人たちは首を捻るばかりで、誰もが『よくわからない…』と虚に呟いた。

結局、誰が訓練を提案したのか。

その話の時、ウィリアムは今まで見たことがないぐらい厳しく、真面目な顔になっていたのをエゼリオは確認した。重鎮たちが悲壮感増している中、1人ほくそ笑んでいたくせに。真犯人がわからない以上、彼の部下に再び危険が及ぶ可能性があるということだ。ウィリアムは睨むように前を見据えていた。
嫌見たらしい態度の裏腹に、忠誠心と仲間思いの評価の噂は耳にしていたエゼリオ。
警戒心の強いアンジュたちに信頼を置かれ”西の壁”と誇られるだけの働きをしている、ウィリアム・スミスという人物を、エゼリオはようやく理解した。

「あの人も長だなって思ったよ」

彼はアンジュを、他の班員を守るに違いない。

では、自分たちは?

アルフレードが入隊する前。エゼリオとマーギットは彼を指導していた教官からその優秀さと人気ぶりを語って聞かされた。
生来呑気に考えるエゼリオは((仕事さえできればどうにかなるだろう))と考え、マーギットは過去の出来事から((何かあれば支えになろう))と決めていた。

実際はどれも想像以上であった。

本人が断っても追いかけられるので逃げるほどの人気ぶり。上官たちが人材確保の宣伝にアルフレードを前面に出そうと広報関連の仕事が増えた。一緒に仕事に向かう気丈な班員たちも、文句を垂れる量である。
だがなにより想定外だったのはアルフレードという人物。仕事は手を抜けず、冗談も鵜呑みにする素直な性格、時に悩み戸惑い、思ったよりも気が弱く、他の子と同じように1人に想いを寄せるただ普通な青年であった。
優秀な能力と人気ぶりが浮いて見えるほどに。
広報の仕事で表立つことで益々人目を引いている。配属されてからずっと気難しい面持ちで過ごしていた。

そんなアルフレードの表情が初めて緩んだのは、想い人の話になった時。紆余曲折ありながらも、恋が叶った日はとても嬉しそうであった。
若者が未来に希望を持ち、笑顔になる。それこそ国が示す国民の在り方だろう。
国民の存命が、国家の永存。それは軍人であっても戦地で死ぬことは許されていない。国民と家族を、そして自分を守り抜く。故に"強固な壁として軍は存在すべし"とされている。脆くなっていた壁も、ここ数十年で回復しつつある。

「さーて。これから耐え時だな」

「そうですね」

軍も一枚岩でないことは痛いほどわかっていたが、今後より複雑な展開を迎えるのは目に見えている。それでもすべきことは変わらない。
2人の上官は新たな覚悟を胸に、未来へ想いを馳せるのであった。
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