香りの献身 Ωの香水

鳩愛

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略奪編

愛するということ2

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「教えて欲しい。頼む。病院に婚約者が向かいに来たと言っていた。多分従兄弟のカイ君じゃないかと思ってるんだ」
「それは本当。ヴィオは自分がベータだったと嘘をついて、バース検査をした後に逃げ出したようだ。こっちで勉強をしたいからなのか、カイと番うのが嫌だったからかは分からない。あるいはさ……」

 車を追いかけてきた幼いヴィオの姿はジルも目にしていたし、その後もこちらが恥ずかしくなるほど幼く穏やかで拙いながらも親密な手紙のやり取りをしてきていたことも知っている。
 前にこっそりヴィオからの手紙を読んだことがあるが、セラフィンへの変わらぬ敬愛と憧れに満ち溢れていた。あの頃はまだヴィオのバース性は決まっていなかったし、こりゃあ、こっちに出てきたら最大のライバルだろうななどと気軽に思っていたのがこうもあっさり具現化すると笑えるぐらいだ。

「あるいは、あんたを追いかけてきたんじゃないか?」
「俺を……。追いかけて?」
「だってさ、あの子の入りたい学校って医療に通じる学校ばかりなんだろ?」
「それは……。里の近くの街の診療所は小さくて、しかも医者が通いでしか来てくれないから大きな病気になると発見が遅れるし、叔母さんみたいに苦しむ人をなくしたいってヴィオが言ってたから……」
「まあ建前はそうだろ」

 以前のセラフィン宛とジブリール宛、双方の手紙に書いてあったヴィオの希望は医療に通じる仕事に就くことだった。それをジルに話したのだってセラフィンなのだ。てっきり叔母のことがあったからその道を志しているとばかり思っていたセラに、(この鈍感野郎、俺にそれを言わすのか)とジルは内心罵った。

「先生、あんたが医者だから傍にいられる仕事に就きたかったんじゃないか? いつか中央に来たいってヴィオは言ってただろ? あんたの傍に来たかった。ただそれだけで理由を一生懸命考えたんじゃないのか」

「俺の傍に来たくて……。そんな理由なんていらないのに。ただ来たければくればいいのに」

 そう言いながら山里に暮らすヴィオが理由もなく中央に出てくる。そんなこと確かにできるはずもないとセラフィンも考え直し、健気なヴィオの気持ちに打たれていた。
「もっと早く俺が会いに行ってあげればよかったんだ。俺もヴィオと同じだ。理由がなければ会いに行けないと思っていた」

「不器用な似た者同士だな、あんたたちは……。案外……」

 ぎゅっと強くセラフィンの背を包み抱きしめながらジルは眉を下げて、半分は本音、半分は言いたくないことを意地を張って呟いた。

「お似合いなんじゃないのか」
「ジル……。あの子に会いたいんだ。頼む」

 今でも一番に愛する男のなりふり構わぬ懇願に、ジルが逆らえるはずもない。

「カイにあの子の居場所を教えたのは俺だ。里にそのまま帰らずにこっちでヴィオを番にするといってた」

 身を起こしてすぐさま飛び出そうとするセラフィンの腕を掴むと、ジルはなおも続けた。

「落ち着けって。まだ発情期が来ていないオメガをすぐに発情させられるかどうかは分からないだろ? 抑制剤が切れるのはいいとこ夜中だろうし、今はカイと軍の寮にいるはずだ。あんなところでオメガが発情したら大騒ぎになるだろう。流石にやらないだろ?」

 セラフィンは腕を振り払い、再び扉に向かった。

「普通の状態ならな。ヴィオはプレ発情の兆候があって、あの晩の翌日から微熱を出してた。あのまま屋敷で休ませる予定だったのに、でていってしまったから。あのフェロモンが漏れだしたらアルファなら正気でいられるはずがない。ヴィオと会うためにカイが抑制剤を飲んでいなければ、互いに発情を誘発する恐れもある。フェル族は同族のフェロモンに一番強く反応するんだ」

 寮の場所はどこだったか頭の中に思い浮かべながら床に落ちた鞄を拾上げると部屋の中からジルに呼ばれた。

「セラ!」

 振り返ると直後に飛んてきた鍵をセラフィンは左手で受け止める。

「鍵、俺のバイク使ってくれ。裏手に停めてある。1分で支度するから俺もつれていけ。道案内するから。セラがフェル族のアルファと交戦することがあったら骨を拾ってやるし、ヴィオは俺が保護する。服用させる抑制剤持ってきてるだろ?」
「鞄の中に、瓶に入っている。経口型では一番強い奴だ」

 冗談めかしながらも、実際カイとヴィオを奪い合うことになったら本当に半端のない大けがを負うかもしれないとジルはそれを恐れていた。誇り高く戦闘能力の高いフェル族の男から婚約者を略奪するなど文字通り命がけ、正気の沙汰ではない。しかしセラフィンもここで引くわけにはいかないのだ。
 アルファ同士の番をかけた一騎打ちには、流石にジルも手助けするわけにはいかなかった。

 現役警官で中央の街を知り尽くしているジルは話しながらも床に転がっていたブーツを履き、自分は素肌に硬めの上着を羽織ってセラに着せるライダージャケットとヘルメットを掴むとをすぐさま追いかけてくる。

 戦争時に使われた軍の払い下げのバイクは大型で、身体の大きな男二人でも乗ることが容易い。結局なさけなくもジルの世話になるが、なりふり構ってはいられなかった。ヴィオの家族が迎えに来たのであれば渡してやるのは当然のことだし、そこにどんな私情が絡んでいたとしてもそもそもヴィオとしっかり話もせずに外に飛び出させてしまったすべての責任はセラフィン自身にあると思っていた。

(ヴィオ、待っていてくれ。俺はお前の素直な気持ちを聞きたいんだ)



 ☆どうぞ皆さま、ジルのスピンオフでも一生懸命考えますので、どんな子があうか一緒に考えてください。不憫な奴です……。このままずっとセラを好きなままで行くのもありかとちょっとは思いますが。












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