1 / 71
第一章 くんか、くんか SWEET
1 あの人の香り
しおりを挟む
柿沼青葉は彼には不釣り合いなほどゆったり大きめのパーカーの袖口に、つんっと形良い鼻先を擦りつけた。
ふわりと鼻をくすぐるのは爽やかでいて、そのくせ心惹かれる洋梨に似た甘い香り。以前心地よいと感じた海を思わせる青いボトルの香水にも似ているが、こちらのほうがより魅力的で堪らない気分になる。
香りの奥に青葉にだけ訴えかける、複雑な何かが混じっているようにも感じるのだ。
(もっともっと)
より強く薫る部分を続けて探りながら、鼻先を仔犬のように身ごろのそこここに擦り付けた。
端から見たら不審極まりない仕草をみせるがどうにも止められない。ついには被っていた大きめのフード中に埋まりながら襟元を摘まんで持ち上げた。
そこに鼻を埋め、路上だというのに人目をはばからず、くんか、くんかと残り香を吸い込む。
青葉は「はあ、いい匂い」と艶めかしい吐息を柔らかな唇を震わせて漏らした。
青葉のぱっちり大きく吊り上がり気味の目元が、今はとろんと垂れ下がる。夢見心地の視線の揺らめきは、まるでマタタビを嗅いだ猫のようだ。
普段はしっかりものでアルバイト先の評判も上々なのに、こんなだらしない顔を見られたら周囲に何と思われるか。頭の隅ではそう分かっているのに、どうにも狂おしい衝動を理性で打ち消せない。
(気持ちいい)
再び大きくその香りを吸い込んだら、ずくり、と下腹部の奥に欲を感じ、青葉はびりりっと甘い電流でも通り抜けたように小さく身震いした。
(あの人の、香りだ)
ふわりと鼻をくすぐるのは爽やかでいて、そのくせ心惹かれる洋梨に似た甘い香り。以前心地よいと感じた海を思わせる青いボトルの香水にも似ているが、こちらのほうがより魅力的で堪らない気分になる。
香りの奥に青葉にだけ訴えかける、複雑な何かが混じっているようにも感じるのだ。
(もっともっと)
より強く薫る部分を続けて探りながら、鼻先を仔犬のように身ごろのそこここに擦り付けた。
端から見たら不審極まりない仕草をみせるがどうにも止められない。ついには被っていた大きめのフード中に埋まりながら襟元を摘まんで持ち上げた。
そこに鼻を埋め、路上だというのに人目をはばからず、くんか、くんかと残り香を吸い込む。
青葉は「はあ、いい匂い」と艶めかしい吐息を柔らかな唇を震わせて漏らした。
青葉のぱっちり大きく吊り上がり気味の目元が、今はとろんと垂れ下がる。夢見心地の視線の揺らめきは、まるでマタタビを嗅いだ猫のようだ。
普段はしっかりものでアルバイト先の評判も上々なのに、こんなだらしない顔を見られたら周囲に何と思われるか。頭の隅ではそう分かっているのに、どうにも狂おしい衝動を理性で打ち消せない。
(気持ちいい)
再び大きくその香りを吸い込んだら、ずくり、と下腹部の奥に欲を感じ、青葉はびりりっと甘い電流でも通り抜けたように小さく身震いした。
(あの人の、香りだ)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
273
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる