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第一章 くんか、くんか SWEET

5 噂の彼

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「え……。俺、か。ないないない! 今までベータの女の子としか付き合ったことないし。それだってだいぶ前だし。俺に番いないの知ってるだろ?」

 さすっと思わず手をやるうなじはもちろん滑らかで傷一つない。

「番じゃなくても巣作りする人もいるんだって~。相手のことがすごく好きだったら。でも意外! 先輩すんごく美人だから、経験豊富そうだと思ってたぁ。髪の毛ピンク紫だし」
「耳、ピアスばちくそ開いてるし、派手だし」
「派手かもしれんけど、ピアスと髪色、関係ないから。好きでこういう格好してるの」
「え! 青葉君はてっきり彼氏いるのかと思ってた。ほら、こないだ、あっちの店のお兄さんといい感じだったし、あの人絶対アルファでしょ?」

 ぴくっと肩を震わせて、青葉は急な突っこみに何と答えていいか分からなくなってしまった。

「アルファかどうかは……。わからないけど、まあ。それっぽいかな」
 
 そんな風に誤魔化しては見たが、その話題の彼のことを青葉も直感的に『アルファだよなあ、この人』とは思っていた。長身で遠目に見ても明らかに存在感がすごいし、何しろとんでもなく男前なのだ。そのくせ物腰は柔らかいから、話していて嫌な圧迫感はない。
 
「先輩があの人と、こないだあっちのお店の前で二人で話してた時、ただ事でない雰囲気でてましたよねぇ」
「違うって、あれは借りた傘を返しただけだって……」
「それでデートに誘われたんでしょ?」
「っ! 誰から聞いた?」

 この間からバイト先の女性陣に詮索され続けていた話題をまた蒸し返された。青葉はピンク色の唇をふるっとわななかせ、長い睫毛をしきりにぱちぱちとさせる。
 そのイケイケな見かけに反して初心なさまをみて、女子二人は『意外とピュアピュア、可愛くてたまらない』と思われているなど当の青葉は知る由もない。
 
「もうグラッチェのみんなが知ってるんだからね。アヤに相談してたでしょ? なんかイイ感じのお店教えて欲しいって聞いてたの。週末に行くんでしょ? 森の隠れ家グランピングカフェ」
 店まで言い当てられて、もはやすべてつつぬけであることは明白だった。

「あーもう、相談しにくいなあ! みんな口軽すぎなんだけど」

 青葉は二人の勢いに押されて益々困った顔になり、綺麗に整えた眉をへにょっと下げた。

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