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第一章 くんか、くんか SWEET
10 交流
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彼はモールのごみ集積場で顔を合わせたらさり気なく重たいゴミ箱の蓋を開け押さえて持っていてくれたり、帰りの時刻が近かったら「お疲れ様。今日も混んでいて大変そうだったね?」なんて労いながら挨拶してくれたりと、さりげなく優しい。
誰にでも優しいのかもしれないが、それでも自分に真っすぐに向けられたら、好意を持ってしまうのは当たり前だ。
もちろん、青葉だって彼がカフェの看板のチョークアートを描いていたら『やっぱりイラストも字も貴方だったんですね。メッセージと同じだと思ってた。すごく上手だあ』と褒めるし、帰る時間が一緒になったら『今日もお互いお疲れさまでした』と明るく声をかける。
それで小野寺とはなんとなく顔見知りになっていた。
ついこの間、青葉が平日の昼から夕方まで一人勤務を任され、汗ばむ陽気のせいかかなり混んだ日があった。
休憩も思うように取れずに立ちっぱなし、前腕がパンパンになるほどアイスをまいていたからすぐに家に帰る元気が出なかった。
気分転換も兼ねて仕事帰りに一息つこうとコーヒーショップに立ち寄ったら、この日も小野寺がにこやかに対応してくれた。
手渡されたカップに『今日はワンオペ、お疲れ様。すごくがんばったね』と例アイスクリームのイラストと共に描いてくれた
お向かいの店から自分の姿を激励してくれていたのだと知り、無理なシフトで青葉ばかりを頼ってくる店長に見せてやりたいと思った。その暖かなメッセージに青葉は凄く癒されたのだった。
青葉は高校生からあの店でバイトしていることもあり、よく言えば店長の信頼も厚く、悪く言えば頼られ過ぎて誰も入れない日のシフトがワンオペになる日も多い。
それが周りにとっても当たり前みたいな雰囲気になっていたが、十人ぐらい並ばれた上に宅配の人まで来て、持ち帰り用のアイスを二十四個巻いたりするのが幾つも続くと結構精神的にも身体的にも疲れるのだ。
それに日ごろは抑制剤が良く効くタイプなのでベータと遜色ないのかもしれないが、もしも一人の時に急なヒートが始まったらと思うと気が気ではない。いつ破裂するか分からない風船を常に手に持っているような、緊張とはらはら感はどうしても付きまとうのだ。
周りにぼやきはしないけれど、小野寺に労ってもらったのは何だかとても嬉しくて、その日は気分よく家路についた。
数日後今度は彼の方がこちらのアイスクリームショップに来てくれた。
爽やかな見た目から彼にアイスクリームは良く似合っていると言えたが、どうやらそんなに食べつけていないようだ。
「お勧めのフレーバーはどれですか?」と尋ねられた。
店員は皆こういう質問には慣れているので、大抵その時の新作おすすめフレーバーに応えるものだ。しかし青葉は親切にしてくれた小野寺に、素直に自分の好きなフレーバーをつい教えてしまった。
「コットンキャンディーはいかがですか? 復活した人気フレーバーなんです。いろはちょっと派手だけど柔らかく甘い綿あめ味なんです。俺は結局、一番これが好きです」と勧めたら、
「君の髪の色みたいだね? 綺麗な色」
なんて女子なら一目で落ちそうな甘い目元で微笑まれ、ちょっぴり揶揄われた。嬉しさと恥ずかしさとで胸がきゅうっと絞られる。
仕事中は制服の帽子を被っているから目立たないが、逆に私服で知り合いに会うとすごい髪色で意外だ、ちょっとやりすぎじゃない? とかいわれることも多いので彼からは好意的に取られていたのはありがたく、ちょっとくすぐったかった。
そんな風に青葉的には近所で共に働く同志みたいな気分で互いのことを認識しあっていたものの、彼の名前まで知ったのはつい最近のことだ。
この間まで季節の変わり目のせいか帰り際になると急な雨に合う時期があった。従業員用の通用口から出ようとしたら、急に降り始めた雨脚が強くて傘のない青葉が立ち往生していた。
すると後ろから同じくバイトを終えてた私服姿の小野寺がやってきたのだ。
誰にでも優しいのかもしれないが、それでも自分に真っすぐに向けられたら、好意を持ってしまうのは当たり前だ。
もちろん、青葉だって彼がカフェの看板のチョークアートを描いていたら『やっぱりイラストも字も貴方だったんですね。メッセージと同じだと思ってた。すごく上手だあ』と褒めるし、帰る時間が一緒になったら『今日もお互いお疲れさまでした』と明るく声をかける。
それで小野寺とはなんとなく顔見知りになっていた。
ついこの間、青葉が平日の昼から夕方まで一人勤務を任され、汗ばむ陽気のせいかかなり混んだ日があった。
休憩も思うように取れずに立ちっぱなし、前腕がパンパンになるほどアイスをまいていたからすぐに家に帰る元気が出なかった。
気分転換も兼ねて仕事帰りに一息つこうとコーヒーショップに立ち寄ったら、この日も小野寺がにこやかに対応してくれた。
手渡されたカップに『今日はワンオペ、お疲れ様。すごくがんばったね』と例アイスクリームのイラストと共に描いてくれた
お向かいの店から自分の姿を激励してくれていたのだと知り、無理なシフトで青葉ばかりを頼ってくる店長に見せてやりたいと思った。その暖かなメッセージに青葉は凄く癒されたのだった。
青葉は高校生からあの店でバイトしていることもあり、よく言えば店長の信頼も厚く、悪く言えば頼られ過ぎて誰も入れない日のシフトがワンオペになる日も多い。
それが周りにとっても当たり前みたいな雰囲気になっていたが、十人ぐらい並ばれた上に宅配の人まで来て、持ち帰り用のアイスを二十四個巻いたりするのが幾つも続くと結構精神的にも身体的にも疲れるのだ。
それに日ごろは抑制剤が良く効くタイプなのでベータと遜色ないのかもしれないが、もしも一人の時に急なヒートが始まったらと思うと気が気ではない。いつ破裂するか分からない風船を常に手に持っているような、緊張とはらはら感はどうしても付きまとうのだ。
周りにぼやきはしないけれど、小野寺に労ってもらったのは何だかとても嬉しくて、その日は気分よく家路についた。
数日後今度は彼の方がこちらのアイスクリームショップに来てくれた。
爽やかな見た目から彼にアイスクリームは良く似合っていると言えたが、どうやらそんなに食べつけていないようだ。
「お勧めのフレーバーはどれですか?」と尋ねられた。
店員は皆こういう質問には慣れているので、大抵その時の新作おすすめフレーバーに応えるものだ。しかし青葉は親切にしてくれた小野寺に、素直に自分の好きなフレーバーをつい教えてしまった。
「コットンキャンディーはいかがですか? 復活した人気フレーバーなんです。いろはちょっと派手だけど柔らかく甘い綿あめ味なんです。俺は結局、一番これが好きです」と勧めたら、
「君の髪の色みたいだね? 綺麗な色」
なんて女子なら一目で落ちそうな甘い目元で微笑まれ、ちょっぴり揶揄われた。嬉しさと恥ずかしさとで胸がきゅうっと絞られる。
仕事中は制服の帽子を被っているから目立たないが、逆に私服で知り合いに会うとすごい髪色で意外だ、ちょっとやりすぎじゃない? とかいわれることも多いので彼からは好意的に取られていたのはありがたく、ちょっとくすぐったかった。
そんな風に青葉的には近所で共に働く同志みたいな気分で互いのことを認識しあっていたものの、彼の名前まで知ったのはつい最近のことだ。
この間まで季節の変わり目のせいか帰り際になると急な雨に合う時期があった。従業員用の通用口から出ようとしたら、急に降り始めた雨脚が強くて傘のない青葉が立ち往生していた。
すると後ろから同じくバイトを終えてた私服姿の小野寺がやってきたのだ。
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