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第一章 くんか、くんか SWEET

23 即答yes

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 耳元で囁かれた誘い文句に青葉は潤んだ瞳をゆらゆら泳がせるが、小野寺は反らすことなく愛おし気に青葉を見つめたままだ。

「え……」

 今まで大人のアルファ男性に出会ったことも何度かある。その人たちがたまたまそうだったのかもしれないが彼らは一様に、驕慢な態度が鼻についた。
 しかし小野寺はどこまでも穏やかで、こちらの事を立ててくれようとする。すごく優しい男、いいやつだと思う。

(でも……。頼ってしまって、いいんだろうか。俺たち、これからもっと相手を知っていく段階だろ。ベータならともかく、アルファは番になれる相手なんだ。何か間違いがあったら、傷つくのは俺だけじゃない。小野寺さんだって……)

「俺はさっきかなり強い抑制剤を飲んだから安心して。って……。そんなこと言う説得力ないよな。だって俺……アルファだし。だけど……」

 小野寺の言葉を、今度は食い気味に青葉が遮った。

「いく。……小野寺さんち、いく」

 青葉は即答してしまった。だってそこはきっと、この幸せの香りに満たされた場所。青葉にとっての天国に違いないのだ。

(番もちじゃないオメガが、アルファの住処に行くなんてどうかしてる。頭おかしくなっちゃってる。俺、小野寺さんの香りに狂わされてる。わかってる、分かってるんだ。けどっ!)

 目の前の信号が点滅して、また赤になる。青葉の頭の中にも同じようにちっかちっかと、理性が即答するなと危険を知らせてくる。
 だけど青葉は小野寺の首に回した腕を、さらにぎゅっと齧りつくように力を込めた。

「いいのか?」
「連れてって」
 また小野寺は無言で再び青葉を背中に背負う。青葉も必死で筋肉がしっかりついた首に腕を回してしがみつく。
「……っ!」

首を締め付けられただけではなく、青葉の言葉を受けて小野寺が喉元でぐっと呻いた。信号が再び青に変わる。青葉が振り落とされるのではないかというぐらいに、トップギアにはった俊足が水しぶきを上げ、アスファルトを蹴り上げた。

「ひっ! 早い!」

 雨脚が強くなり、びたんびたんと横から青葉の頬にもあたるほど。タダものではない走る速度に驚いて必死で齧りつく。

「中高、陸上部だったんだ! 部活と、勉強ばっかやってた」

 どこか浮かれたような、朗々とした声で小野寺が答えてくれる。

「体育会系に見えない……。お洒落なお兄さんって感じで」
「俺、地元では全然目立たない方で、アルファだって思われたこともなかったと思うよ。大学デビューってやつ。こっちにきて、最初に気になった子が、その……。凄くお洒落で可愛かったから、触発されたんだ」
「そうなんだ……」

(気になった子……。どんな子なんだろう)

 それは誰なのだろうと、ちょっぴり気になる。しかしいつものようには回らなくなってきた頭で青葉は眠たげにあくびをして、ぽやぽやと考える。

(急に気が抜けた……。あったかい背中。ドキドキするのに、すごく気持ちいい)

 そのまま青葉は少しうとうともしてしまったようだ。

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