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第一章 くんか、くんか SWEET

26 本当の出会い

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 手探りで引き寄せたのはコーヒーショップの制服と思しき黒いシャツ。
 仕事をした後の匂いの濃厚そうなそれを両手でぎゅっと掴み上げると、顔をすりすりと近づける。

「はあっ。みこと……」

 思わず悩ましい吐息を漏らしながら青葉は自らを慰めるために、再びほっそり長い指先をもじつく足の間に忍ばせた。

※※※

「推しが……! 俺の部屋にいる!」

 雨に濡れそぼった前髪をかき上げ小野寺は薬局へ向けてひた走る。
 思わず盛大な独り言を漏らしてしまうほどの一大事、先ほどまで愛する人のしどけない姿を目にして、冷静な態度をとれた自分を自分で褒めてやりたい。

(……青葉君。可愛かったなあ)

 青葉の普段はリップで薄っすら色づいた清潔感溢れる唇が、今日は熱のせいか赤く色づきふるふると小野寺を誘うように間近で揺れていた。
 靴を脱がせる時にぎゅっとしがみ付いてきた細い身体をそのまま抱きしめて、激しく唇を奪い貪ってしまいたかった。

(さっきは危なかった。危うく玄関先で手を出すところだった。青葉君、すごく怠そうだったな。あのままじゃ可哀想だ。早く薬を飲ませて、家まで送ってあげないと)

 理性を総動員して何とか彼を助けてあげようと思うが、尊の中の獣が首をもたげて牙を剥く。

(青葉くんが俺のところに来ることを選んだんだ。このまま思いを遂げて何が悪い?)

 あのまま彼を自分のテリトリーの中に閉じ込めて、思うさま愛でたい、いや掴まえたまま逃したくない。
 そんな野蛮な欲望が暴れて渦巻いて彼の傍に居てはどうしても抑えられそうもない。尊は爪の痕がつくほど拳を握りしめた。

(尊、我慢しろ。ずっと好きだった子だろ? やっと、やっと二人っきりで会えるきっかけが掴めたんだ。今大切にしてあげなかったら、一生あの子の傍にいられなくなるぞ?)

 青葉は覚えていない。
 小野寺と青葉の出会いは大学受験を控え、オープンキャンパスに参加するため、この街を訪れた数年前にさかのぼる。

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