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第Ⅱ章 ミニイベント:月の言霊
11.残された花
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クラブメンバーと顧問の謹慎処分は五日で解けた。
謹慎理由は『侵入禁止区域に許可なく進入した』ことだった。
魔性スズランについては研究室の薬草学部に一輪提供したくらいで、お咎めはなかった。薬草研究室には、生息地の割り出しとともに大変喜ばれた。
ノエルが魔族と接触した件に関しては、基本的に秘された。
ユリウスが今日、状況説明のためジャンヌに呼び出されている。クラブのメンバーも追従しているのだが、ノエルは残された。
(私が一番、呼ばれるはずなのに、なぜ残された……)
状況が、理解できな過ぎて不安になる。
ノエルの足はクラブ室に向かっていた。
(どうせ、誰もいないんだけど)
ずっと部屋に籠っていても陰気な気持ちになる。
何となく、場所を変えたかった。
「ノエル? 出歩いて平気なのか?」
クラブ室にはアイザックがいた。
薬草本学の図鑑から目を上げて、驚いた顔をしている。
「ずっと部屋にいても、落ち込むばかりだから、出てきた。体調は、そんなに悪くないよ。ちょっと怠さが残っているくらい」
「そうか。実は、寮の部屋に行こうとも思ったんだが、不用意に女性の部屋を訪れるのも、憚られてな」
「私に何か、用事だった?」
アイザックが気まずそうに目を逸らした。
そういえば、アイザックは何故、学院に残っているのだろう。
「ユリウス先生とリアムたちが今、王城にいるのは知っているだろ。俺は、ノエルの見張りに残されたんだ。ユリウス先生に頼まれて、な」
苦笑いして頬を掻く。
「見張り? 何故に?」
「動けるようになると何をするかわからないから、見ておいてほしいってさ」
ユリウスが指輪だけでなく、人海戦術を使い始めた。
(今回の件で、信用ガタ落ちなんだろうな)
しゅん、と肩を落とす。
「それに、体調も万全ではないだろ? 治療院の術師が全治二週間と診断したんだ。無理しないほうが良い」
アイザックの表情を見て、自分は相当悪い状態だったのだと理解した。
「私、そんなに酷かったんだね」
「酷かったぞ。特に、発見した時は、言葉を失った」
アイザックが目を逸らして言い淀む。
あの時のことを思い出すと、ノエルも何と謝ればいいのか、わからない。
「アイザック、あの時は、その……本当に、ごめんなさい。私、アイザックに、とても失礼なことを、してしまった」
顔が、みるみる熱くなる。
恥ずかしさと申し訳なさで顔が上げられない。
「あの時も言ったが、ノエルが悪いんじゃない。気にしなくていい。驚きは、したけどな」
「そうだよね。驚いたよね」
マリア以外の女性とキスする羽目になるなんて思わなかっただろう。
「君はいつも冷静で、何事にも先を読んで対処するだろ。あんな風に取り乱した姿を見たのは、初めてだったからな」
余計に顔が上げられなくなった。
取り乱した姿など、誰にも見られたくなかった。
(そんな姿、ユリウスにだって……、いや、最近、ちょっとだけ見られたか……)
焦らされて涙目でもだえている姿なんか、取り乱しているのと同じだ。
ここの所、恥ずかしい自分ばかりで隠れたくなる。
「それに、魔性スズランの蜜を飲ませるために、俺もノエルに同じことをした。だから、ノエルだけが気負う必要はない」
散々駄々をこねて、無理やり飲まされたのを思い出す。
(そうだった。私からしただけじゃないんだ。二回しているんだ)
マリアに申し訳がなくて、ノエルは手で顔を覆った。
「ユリウス先生には、あの時のこと、全部話しておいたよ」
「え……?」
「ノエルは俺を、ユリウス先生と見間違えたんだろ? 最初に見付けたのが俺じゃなくて先生だったら、良かったんだけどな」
さっきの比ではない程、顔から火が出そうだった。
「いや、その、よく覚えてないけど、どうだろう」
「ずっと名前を読んでいたぞ。俺はユリウス先生と髪の色が近いからな。それで見間違えたんだろう」
アイザックが自分の髪を摘まむ。
光属性は金髪が多いなかで、アイザックは黒髪だ。『呪い』の影響を強く受けての変色だったから、徐々に明るく戻ってきているが、まだ黒っぽい。
「私が、名前を? ユリウス、先生の名前を、呼んでいたの?」
アイザックが頷く。
「あの錯乱状態で、ユリウス先生の名前だけを、ずっと呼んでいた」
「そう、なんだ……」
「ノエルはユリウス先生を、とても頼りにしているんだな」
どきっとして、顔を逸らした。
言われてみれば、そうかもしれない。
「傍にいるのが当たり前だと、思い過ぎているかもしれない」
ユリウスなら何があってもきっと助けに来てくれる。
心のどこかで、そう思っている。
それは、とても怖いことではないかと、少しだけ思う。
(誰かを頼りすぎると、一人で立てなくなる。それは嫌だ)
ノエルを眺めていたアイザックが、ぽんと頭を撫でた。
「頼りにされて嫌がる人は、ノエルの周りにはいない。ユリウス先生なら、猶更だ」
見上げたアイザックの顔は、優しく笑んでいた。
(この人は、こんな顔をする人だったろうか)
もっと儚く消極的なイメージだった。
しかし、目の前のアイザックは、とても頼りになるお兄ちゃん的な雰囲気だ。
(呪いが解けて、本来の気質が戻ってきているんだろうな。そういえば、ゲーム後半のアイザックは、すごく頼りがいのあるキャラになるんだった)
何故か少しだけ照れ臭くなって、ノエルは違う話題を振った。
「私のせいで、アイザックは魔性スズランを使えなくなったよね。何のために森に行ったのか、これじゃ、わからないね」
「それなんだが、俺からノエルに相談があるんだ」
アイザックが、摘み取ってきた魔性スズランを一輪、出した。
「それ、私が持って帰ってきた魔性スズラン?」
保管魔法で保護していた分だ。ポケットに入れていたのが、無事だったようだ。
「ああ、現時点で、使える花は、これしかない」
「え! 他の皆の花は?」
「騒動のゴタゴタで、持って帰ってこられなかったんだ。レイリーとリアムも瘴気に中てられて、大分意識が混濁していたから」
「そう、だったんだ。アイザックは平気だったの?」
「ああ、俺は」
アイザックが胸からペンダントを出した。フレイヤの剣をモチーフにした意匠だ。
「神官になるために洗礼を受けたから、神の加護が強い。だから、平気だった。ノエルのイヤリングと、多分効果は同じだよ」
アイザックがノエルのイヤリングを撫でる。
(そうなのか。もしかして、イヤリングのお陰でこの程度で済んだのかな? この程度って言える状態でもなかったけど)
逆に言えば、神の加護がなければ死んでいたってことだ。
改めて、カルマに対し、どうしようもなく腹が立った。
「リアムが持ち帰った花が一輪あったんだが、ほとんど蜜が残ってなかった。それは薬草学研究室に提供済みだ。ノエルの摘んだ花は、ほぼ完璧な状態で残っているだろ」
保管魔法を解いていないので、摘んだ状態のままだ。蜜もたっぷり残ってる。
「この花を使って、マリアを起こしてもらえないか。本当なら俺がすべきだが、これはノエルが摘んだ花だ。ノエルが術式を付与するのが、一番効果が高い」
アイザックが薬草本学の図鑑のページを指さす。
『本人が選んだ花が最も薬効を高める理由は、魔術師が本能的に自分の魔力との適性を見分け感じ取るため』
と、書かれている。
「確かにそうだけど、わかるけど、私でいいの? アイザックは、それでいいの?」
(私的には全然ダメだけど! アイザックじゃなきゃ、ダメなんだけど!)
アイザックの肩を揺らす。
素直に揺らされながら、アイザックが頷いた。
「ダメ元で試せる花はない。一度しか使えないなら、最大の効果を発揮する方法で試したいだろ。俺はノエルにお願いしたい。やってくれるか?」
ノエルの手を握り、アイザックが頭を下げる。
(こんな風に頼まれたら、断れないよ)
それに、ここでマリアが起きなければ、物語は先に進まない。
この世界自体どうなるか、わからない。
「わかった。最大限、努力してみる」
ノエルは覚悟を決めるしかなかった。
謹慎理由は『侵入禁止区域に許可なく進入した』ことだった。
魔性スズランについては研究室の薬草学部に一輪提供したくらいで、お咎めはなかった。薬草研究室には、生息地の割り出しとともに大変喜ばれた。
ノエルが魔族と接触した件に関しては、基本的に秘された。
ユリウスが今日、状況説明のためジャンヌに呼び出されている。クラブのメンバーも追従しているのだが、ノエルは残された。
(私が一番、呼ばれるはずなのに、なぜ残された……)
状況が、理解できな過ぎて不安になる。
ノエルの足はクラブ室に向かっていた。
(どうせ、誰もいないんだけど)
ずっと部屋に籠っていても陰気な気持ちになる。
何となく、場所を変えたかった。
「ノエル? 出歩いて平気なのか?」
クラブ室にはアイザックがいた。
薬草本学の図鑑から目を上げて、驚いた顔をしている。
「ずっと部屋にいても、落ち込むばかりだから、出てきた。体調は、そんなに悪くないよ。ちょっと怠さが残っているくらい」
「そうか。実は、寮の部屋に行こうとも思ったんだが、不用意に女性の部屋を訪れるのも、憚られてな」
「私に何か、用事だった?」
アイザックが気まずそうに目を逸らした。
そういえば、アイザックは何故、学院に残っているのだろう。
「ユリウス先生とリアムたちが今、王城にいるのは知っているだろ。俺は、ノエルの見張りに残されたんだ。ユリウス先生に頼まれて、な」
苦笑いして頬を掻く。
「見張り? 何故に?」
「動けるようになると何をするかわからないから、見ておいてほしいってさ」
ユリウスが指輪だけでなく、人海戦術を使い始めた。
(今回の件で、信用ガタ落ちなんだろうな)
しゅん、と肩を落とす。
「それに、体調も万全ではないだろ? 治療院の術師が全治二週間と診断したんだ。無理しないほうが良い」
アイザックの表情を見て、自分は相当悪い状態だったのだと理解した。
「私、そんなに酷かったんだね」
「酷かったぞ。特に、発見した時は、言葉を失った」
アイザックが目を逸らして言い淀む。
あの時のことを思い出すと、ノエルも何と謝ればいいのか、わからない。
「アイザック、あの時は、その……本当に、ごめんなさい。私、アイザックに、とても失礼なことを、してしまった」
顔が、みるみる熱くなる。
恥ずかしさと申し訳なさで顔が上げられない。
「あの時も言ったが、ノエルが悪いんじゃない。気にしなくていい。驚きは、したけどな」
「そうだよね。驚いたよね」
マリア以外の女性とキスする羽目になるなんて思わなかっただろう。
「君はいつも冷静で、何事にも先を読んで対処するだろ。あんな風に取り乱した姿を見たのは、初めてだったからな」
余計に顔が上げられなくなった。
取り乱した姿など、誰にも見られたくなかった。
(そんな姿、ユリウスにだって……、いや、最近、ちょっとだけ見られたか……)
焦らされて涙目でもだえている姿なんか、取り乱しているのと同じだ。
ここの所、恥ずかしい自分ばかりで隠れたくなる。
「それに、魔性スズランの蜜を飲ませるために、俺もノエルに同じことをした。だから、ノエルだけが気負う必要はない」
散々駄々をこねて、無理やり飲まされたのを思い出す。
(そうだった。私からしただけじゃないんだ。二回しているんだ)
マリアに申し訳がなくて、ノエルは手で顔を覆った。
「ユリウス先生には、あの時のこと、全部話しておいたよ」
「え……?」
「ノエルは俺を、ユリウス先生と見間違えたんだろ? 最初に見付けたのが俺じゃなくて先生だったら、良かったんだけどな」
さっきの比ではない程、顔から火が出そうだった。
「いや、その、よく覚えてないけど、どうだろう」
「ずっと名前を読んでいたぞ。俺はユリウス先生と髪の色が近いからな。それで見間違えたんだろう」
アイザックが自分の髪を摘まむ。
光属性は金髪が多いなかで、アイザックは黒髪だ。『呪い』の影響を強く受けての変色だったから、徐々に明るく戻ってきているが、まだ黒っぽい。
「私が、名前を? ユリウス、先生の名前を、呼んでいたの?」
アイザックが頷く。
「あの錯乱状態で、ユリウス先生の名前だけを、ずっと呼んでいた」
「そう、なんだ……」
「ノエルはユリウス先生を、とても頼りにしているんだな」
どきっとして、顔を逸らした。
言われてみれば、そうかもしれない。
「傍にいるのが当たり前だと、思い過ぎているかもしれない」
ユリウスなら何があってもきっと助けに来てくれる。
心のどこかで、そう思っている。
それは、とても怖いことではないかと、少しだけ思う。
(誰かを頼りすぎると、一人で立てなくなる。それは嫌だ)
ノエルを眺めていたアイザックが、ぽんと頭を撫でた。
「頼りにされて嫌がる人は、ノエルの周りにはいない。ユリウス先生なら、猶更だ」
見上げたアイザックの顔は、優しく笑んでいた。
(この人は、こんな顔をする人だったろうか)
もっと儚く消極的なイメージだった。
しかし、目の前のアイザックは、とても頼りになるお兄ちゃん的な雰囲気だ。
(呪いが解けて、本来の気質が戻ってきているんだろうな。そういえば、ゲーム後半のアイザックは、すごく頼りがいのあるキャラになるんだった)
何故か少しだけ照れ臭くなって、ノエルは違う話題を振った。
「私のせいで、アイザックは魔性スズランを使えなくなったよね。何のために森に行ったのか、これじゃ、わからないね」
「それなんだが、俺からノエルに相談があるんだ」
アイザックが、摘み取ってきた魔性スズランを一輪、出した。
「それ、私が持って帰ってきた魔性スズラン?」
保管魔法で保護していた分だ。ポケットに入れていたのが、無事だったようだ。
「ああ、現時点で、使える花は、これしかない」
「え! 他の皆の花は?」
「騒動のゴタゴタで、持って帰ってこられなかったんだ。レイリーとリアムも瘴気に中てられて、大分意識が混濁していたから」
「そう、だったんだ。アイザックは平気だったの?」
「ああ、俺は」
アイザックが胸からペンダントを出した。フレイヤの剣をモチーフにした意匠だ。
「神官になるために洗礼を受けたから、神の加護が強い。だから、平気だった。ノエルのイヤリングと、多分効果は同じだよ」
アイザックがノエルのイヤリングを撫でる。
(そうなのか。もしかして、イヤリングのお陰でこの程度で済んだのかな? この程度って言える状態でもなかったけど)
逆に言えば、神の加護がなければ死んでいたってことだ。
改めて、カルマに対し、どうしようもなく腹が立った。
「リアムが持ち帰った花が一輪あったんだが、ほとんど蜜が残ってなかった。それは薬草学研究室に提供済みだ。ノエルの摘んだ花は、ほぼ完璧な状態で残っているだろ」
保管魔法を解いていないので、摘んだ状態のままだ。蜜もたっぷり残ってる。
「この花を使って、マリアを起こしてもらえないか。本当なら俺がすべきだが、これはノエルが摘んだ花だ。ノエルが術式を付与するのが、一番効果が高い」
アイザックが薬草本学の図鑑のページを指さす。
『本人が選んだ花が最も薬効を高める理由は、魔術師が本能的に自分の魔力との適性を見分け感じ取るため』
と、書かれている。
「確かにそうだけど、わかるけど、私でいいの? アイザックは、それでいいの?」
(私的には全然ダメだけど! アイザックじゃなきゃ、ダメなんだけど!)
アイザックの肩を揺らす。
素直に揺らされながら、アイザックが頷いた。
「ダメ元で試せる花はない。一度しか使えないなら、最大の効果を発揮する方法で試したいだろ。俺はノエルにお願いしたい。やってくれるか?」
ノエルの手を握り、アイザックが頭を下げる。
(こんな風に頼まれたら、断れないよ)
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