モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない

霞花怜

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第Ⅰ章 ゲーム本編①

25.エリートチート ノア=ソフィア=ファーバイル

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「誰かいるのか?」

 突然の声に、二人は揃って洞窟の外を見た。
 三人ほどの人影が、中を覗き込んでいる。

(この声は……、誰か、知っている。でも、この段階では、まだ登場しないはずの人物だ)

 誰であるか、声を聴いて即座に分かった。
 心臓が、バクバクと嫌な音を立てる。

「何かあったのか? 返事をしなさい」

 二度目の声に確信した。

(間違いない。何故、こんなところに……。出番は前半のラストまで、ないはずなのに。もう出てくるなんて)

 指が小刻みに震える。自分でも何故だか、わからない。
 ノエルの様子に気が付いたのか、ウィリアムが前に出た。

「私はウィリアム=オリヴァー=フォーサイスだ。学生ボランティアで病院に来ていた。司祭殿が森に迷い込んだと聞いて探しに来たが、既に亡くなられていた。手を貸してほしい」
「第二皇子のウィリアム殿下でしたか。これは、失礼いたしました」

 三人の男性が、洞窟の中に入ってきた。
 二人の神官らしき男が、リヨンの体を確認する。
 その後ろで、まるで作業のように光景を眺めている男は、大司教ノア=ソフィア=ファーバイルだ。

「皇子の見立て通り、既に死亡しています。『呪い』の残滓を確認しました」

 ノアが両目を手で覆い隠す。

「間に合わなかったか。リヨン、もっと私を頼ってくれていれば、こんなことには」

 悲痛な表情をして見せる。
 その行為がもう胡散臭い、とノエルは思う。

(『呪い』の発生数も『呪い』による死亡数の調整も、指示しているのは総て、この男だ)

 リヨンが裏切った相手は、教会そのものであるノアだ。
 リヨンを殺したのはノアであると考えて間違いない。

「貴方方は、何故ここに? ここは進入禁止区域のはずだが」

 普段、目上であれば敬語を使うウィリアムだが、言葉が荒い。
 教会関係者を警戒しているのだろう。
 ノアが手を胸に当て、軽く会釈する。王族への敬意を示して見せてから、口を開いた。

「我々はリヨンを探して、ここに来ました。リヨンは自身が呪い持ちであることを隠していたのです。異変に気付いた同僚が私に報告をくれましてね。手遅れになる前にと思ったのですが、間に合いませんでした」

 ノアの目から涙が一筋零れた。

「優秀な腹心でした。失いたくはなかった。しかし、『呪い』とあっては、教会でもどうすることもできない。せめて発動を遅らせるよう治療ができればと……」

 涙を流し、言葉に詰まる様は、誰の目から見ても、部下の死を嘆く上官だろう。
 ノアの三文芝居が気持ち悪い、とノエルは思う。

(ノアはリヨン以上に食えないキャラ設定にしているからな。リヨンが可愛く思えてくる)

 実際の出番はもっと後なので、濃い味付けのキャラにした。

(性格が悪いキャラは大好物だけど。現実で、しかも敵側となると会いたくない人間だ。できれば関わり合いになりたくない)

 ノエルはウィリアムの後ろに、そっと隠れた。
 その仕草が逆に目立ったのか、ノアがノエルに目を止めた。

「ウィリアム殿下、後ろのお嬢様は、どなたでしょうか?」
「ボランティアで共に病院に来た、学院の生徒だ」

 ウィリアムは、わざと名を伏せてくれたのだろう。
 生き残った呪い持ちの情報は伏せられているとはいえ、教会が掴んでいないとは考えにくい。
 ノアが、すぃと身軽な動きでウィリアムの後ろに回り込む。
 ノエルに顔を近付けて、にっこりと笑った。

「初めまして、内気なお嬢様。どうかお名前を、教えていただけますか」

(怖い怖い怖い怖い、近い近い近い近い。こいつ、わかっていて聞いていないか)

 攻略対象ではないが、敵キャラの親玉なので、顔は良い。
 猫又先生の神絵だから当たり前だが、本当に顔だけは良い。でも性格は、黒とか通り越して鬼畜だ。

(その設定を作ったのは私だぁ。こんなことになるなら、もっといなし易い設定にしとくんだったなぁ)

 この世界に来て初めて、自分が創作したキャラ設定を後悔した。

「ノエル=ワーグナー、です」

 ウィリアムの袖をぎゅっと掴んで、目を逸らす。
 突然、ノアの纏う空気が変わった。

「ああ、貴女がノエルですか。確か、『呪い』を自力で払って生き残った生徒だと。学院から報告を受けていますよ」

 穏やかな話し声とは真逆の、殺意の籠った気配。
 魔法ではない、これは只の殺気だ。
 百戦錬磨の剣豪が決闘相手にぶつける本気の殺意。
 そこに膨大で不気味なノアの魔力が混ざっている。
 魔法でも魔術でもないのに、吐き気がする。

「どうやって『呪い』を克服したのか、是非ご教授いただきたい。司教という立場上、非常に興味深く思います。よろしければ私に機会をくださいませんか」

 話している言葉など、耳に入らない。
 手足の震えが止まらない。
 今にも気を失いそうになるのを必死に耐える。
 何故、ウィリアムは立っていられるのだろう。

「申し訳ないが、彼女は今、遺体を目にして動揺している。話は、またの機会にしてもらえないか」

 ノエルの動揺に気が付いたウィリアムが、ノエルを背に隠した。
 ノアが姿勢を戻し、ウィリアムに向き直る。

「これは不躾に、失礼いたしました。さぞ恐ろしい思いをされたことでしょうね。では、お話はまたの機会に。お会いできるのを楽しみにしておりますよ、ノエル嬢」

 ウィリアムとノアがもう何度か言葉を交わしてから、ノエルは洞窟を出た、と思う。視
 視界がぐらついて、帰り道はよく覚えていなかった。
 気が付いたら、馬車に揺られていた。

「ノエル、ノエル。私の手を握れ」

 ウィリアムの声に従って、手を握る。
 背中をさすってくれているようだ。

「ゆっくり息をして、体の力を抜くように」

 握った手から優しい温かさが流れてくる。ウィリアムの魔法だろう。
 少しずつ体の力が抜けて、やっと普通に呼吸ができるようになった。

「ウィリアム様、ありがとう、ございます」
「落ち着いたようで、良かった。ノア大司教は、そんなに怖かったかい」
「ウィリアム様は、何も感じませんでしたか」
「肌がひりつく感覚はあったよ。だが、君ほど鋭敏に感じはしなかった。あの敵愾が、君に向けられたものだからだろうな」

 ノアの殺気を思い出し、身震いした。
 感覚が、まだ体に残っている。

「私は何故、ノア様にあれほどの敵愾を向けられるのでしょうか」
「……『呪い』を克服した者を、生かしておきたくないのだろう。事実、君のお陰で呪いのメカニズムが判明した。我々が教会に辿り着けたのも、君のお陰だ」

(それは違うよ。物語が進めば、判明した事実だ。私じゃなくても良かった)

 とは思うものの、言う訳にはいかない。

「ノア様は、何故、あの場所にいたのでしょうか」
「リヨン殿の死亡確認と、この封筒の奪還、だろうな」

 ウィリアムは、隠していた封筒を手にしていた。

(ウィリアムは、しっかり理解している。ノアが殺気を放ってくれたおかげで、方便に丸め込まれずに済んだ)

 とはいえ、もう二度と、あんな思いは御免だ。
 安心したら、眠気が襲ってきた。
 ウトウトと舟をこいでいると、ウィリアムに膝枕された。

「疲れただろう。着いたら起こす。今は、眠るといい。あんな殺気は、私でも勘弁願いたいものだからね」

(ありがとうございます、ウィリアム様)

 言葉は声にならないまま、ノエルは眠りに落ちた。
 頭を撫でてくれるウィリアムの手は、とても温かかった。
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