モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない

霞花怜

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第Ⅰ章 ゲーム本編①

36.何故か、ロキに告られました

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 ロキが、ひょっこり起き上がった。

「どうして、ノエルが暗い顔するの。俺が可哀想だと思った?」

(しまった。勘違いさせたっぽい。いや別に、ロキを可哀想だと思わないわけじゃないけども)

 設定が微妙に変わっているかもで悲しいです、とも言えない。

「可哀想だとは、言わないよ。玉砕する勇気はないのかな、とは思うけど」
「うわぁ、やっぱりノエルって辛辣だねぇ。死ぬ前提で突っ込めと?」

 苦し紛れの言葉に、ロキがドン引いている。

(なんか、ごめんだけど、でも。ここは一度玉砕して、すっきりさっぱりレイリーのことは忘れてもらおう!)

 ノエルは咳払いして、表情を整えた。

「だって、まだ当たってもいないんでしょ? 砕けてないから、引き摺るんじゃないの? 一回くらい砕けといたら、次に進めるかもしれないよ。もしかしたら、砕けないかもしれないんだし、当たってみたら良いんじゃない、かな?」

 我ながら酷いことを言っていると思う。

「次に進む、か。俺としても、早く次の段階に進みたいかな。確かに、当たってみないと砕けるか、わからないよね。普段、敏いくせに妙に鈍いとこ、あるから」

 ロキが腕を組んで考え始めた。

(良い傾向だ。そのままやる気になってくれ!)

「レイリーは多分、恋愛に関しては鈍いほうだよ。一途だし、周りはあんまり見えていないんじゃないかな? 人間て、自分のことには鈍くなるものだし、ね?」
「確かにその通りだよね。でも、俺が言ってるのは、こっち」

 ロキの手がノエルの頬に伸びた。
 触れた手が、やけに熱い。

「俺が本当に言いたいこと、全然わかってないでしょ。ノエルもレイリーと同じ。このままじゃ俺は、ユリウス先生にも勝てない」

 ロキの顔が迫ってくる。
 いつの間にか腰に回されていた腕の力が強すぎて、逃げられない。このままでは、唇が触れてしまう。

(え? えぇ⁉ なんで、なんで⁉ 今の会話の流れの何処にそんな要素があった? ロキは今現在もレイリーが好きなんじゃないの⁉)

 ノエルの手が、ロキの顔面を鷲掴みにした。
 抑えるなんて可愛いものじゃない。アイアンクローをかました形である。

「ここで玉砕なんか許すわけないだろ。レイリーの代用なんて、御免だ」

 全く可愛げのない言葉が、するすると自然に出た。
 ロキが目を丸くしてノエルを見詰めているのが、指越しにわかる。

「そんなんだからウィリアムにレイリーを取られるんだよ、ロキ。あっちがダメならこっち、みたいな恋愛が実ると思うの?」

(攻略対象ともあろう者が、何たる態度か! 原作者的に、そんな尻軽チャラ男は認めんぞ!)

 驚いた顔をしていたロキの表情が徐々に変わる。
 心底楽しそうに大笑いし始めた。
 そんなロキを見て、ノエルは困惑した。

「やっぱりノエルは面白い。俺、ノエルのそういうところ、好きなんだ」

 腹を抱えて笑うロキを、思いっきり怪訝な表情で眺める。

「だって、これくらいしないと、俺を意識してくれないでしょ? ノエルはユリウス先生にべったりだからさ。付け入る隙がなさすぎるんだよ」

 ノエルは頭を抱えた。

「ごめん、ロキの言葉が全然理解できない。そもそも私とユリウス先生は恋仲じゃない、と訂正しよう。加えて、ロキは子供の頃からレイリーが好き。という理解であっているだろうか?」
「一部訂正かな。俺の初恋はレイリーだけど、今は大切な友人。実らなかった初恋を乗り越えて、ようやく好きな子ができたのに、その子は俺なんか見向きもせずに先生と仲良し。だから、多少強引にでも、こっちを向かせたくなった」

 ノエルは脱力した。

(初恋は、吹っ切れていたのか。設定通りだ。でも、何でロキの好意がノエルに? どういう状況?)

 混乱する頭を鎮めるため、眉間を指でぐりぐり押す。

「さっきの話の何処に、そんな流れがあったの? ロキ、言葉足らずって言われない?」
「言われないよ。でも確かに、さっきの会話は言葉が足りなかった、とは思うかな。ノエルが当たって砕けろとか言うから、我慢できなかっただけ」

 ロキの笑顔は、なんだか満足そうだ。

(無害そうな顔して手が早い。そういえばそんなキャラだった。だったけど、その好意がノエルに向くなんて、予定外過ぎる)

 アイザックルートのロキは主人公の心強い協力者だ。マリアに好意を寄せないのは百歩譲って許すとして、この状況は、どうなのだろう。

(親密度は上がっていて欲しいけど、マリアとロキの関係を見る限り、低いってことはないだろう。ロキがモブと恋仲になっても世界観が崩壊することはない……)

 となると、ノエルの気持ちの問題になる。

(ロキに対して恋愛感情? ……いい友人だとは思ってる。いや待て、そうじゃない、モブがメインキャラと恋愛しちゃダメだろ。今は良くてもいずれ世界が崩壊するかもしれない。いやいや、だから、今は良いって、何⁉)

 ユリウスとだってギリギリだと思っているのに、ロキにまで言い寄られたら、どうしたらいいか、わからない。
 考えすぎて思考がバグった。
 俯くノエルの顔を、ロキが興味深そうに覗き込んだ。

「ユリウス先生とは、恋人同士じゃ、ないんだよね」
「違うよ。もしかして、他にも誤解している人、いるのかな」

 げんなりして首を振る。

「どうだろう? 少なくとも俺には、ユリウス先生がノエルを離さないように見える。けど、違うなら、いいや」

 ロキがノエルの手をそっと握る。
 さっきとは違って、触れ方が強引ではないので、ほっとした。

「さっきのは告白ではないよ。ノエルが俺の気持ちに気付いてくれたら、それでいい。告白は、後でちゃんとするから」
「ロキは、さ。私なんかの、何処がいいの? 大して特徴のない顔だし性格だと思うのだけれども」

 モブとはそういう生き物だ。
 メインキャラにもストーリーラインにも影響を与えないから、モブ足り得る。

「相変わらず自己評価が低いね。ノエルは優しいよ。相手を良く見ているし、その人が欲しい言葉をくれる。観察力があるよね。気遣いができて、友人を大事にしてる。勤勉で頑張り屋で、負けず嫌いで頑固で、ちょっと素直じゃない。そういうところも好きだけど。それに……」
「わかった、もういい。わかったから」

 そこまで言われると、さすがに照れる。頬が熱くなるのを感じた。

(私の優しさは世界を破滅させないためのものだ。皆のことだって、よく見ているんじゃなくて、キャラの性格を知っているだけなんだよ)

 原作者として、登場人物を知っている。自分が作った性格設定だ。だからこそ、情も湧く。
 ロキが思っているような優しさじゃないから、申し訳なく思う。

「ノエルは皆に好かれてるって、自分で気付いてる?」

 フルフルと首を振った。

(嫌われないように気を付けてはいたけど、好かれているかまでは、さすがに意識してない)

 顔が赤くなっているだろうと思うと、上げられない。

「あんまり、よく、わかっていないかも」
「だよね。俺は、よくわかってないノエルが好きなんだよ」

 ロキの言葉の意味が、いまいちよくわからない。

「ノエルは、相手に気を遣わせない気遣いができる人だよ。でも自分のことには鈍かったりするよね。だから、こんな風に無理やり近付くしかない」

 ロキがノエルの手を引く。
 上半身が倒れ込んで、ロキの胸に抱かれる形になった。
 離れようとしても、ロキの腕が背中を強く抱いていて動けない。
 何か言わなければと思うが、言葉が出てこない。

「今は俺のこと、意識してくれるだけでいいよ。いずれ、少しずつでも、好きになってくれたらいい。けど、俺がノエルを好きだってことは、忘れないでね」

 この台詞には、覚えがある。ゲームでロキが主人公に言うセリフだ。

(自分で書いたセリフに、ちょっとだけ、ときめいてしまった。不覚だぁ)

 いや、良い台詞が書けているってことなんだろう。
 ここは喜ぶべき場面なのかもしれないが、素直に喜ぶ気にはなれない。
 只々、思考がバグって纏まらず、焦る気持ちしかなかった。
 一つだけ、ロキの腕の中が温かくて、なかなか離れられないのが困るな、と頭の片隅でぼんやり思っていた。
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