恋恣イ

金沢 ラムネ

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四月三日:二

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「全部外したね」
 祭が真顔でつぶやいた。

 時刻は午後七時半、場所は礼拝堂である。礼拝堂は学校の敷地内にはあるが、少し離れた場所にあった。また、ある程度の広さがあり、誰でも利用できるようになっている。
 二人は問題なく昨日と同じように学校へ忍び込み、華火が予想した体育館、玄関を見て回り、今は最後の礼拝堂をを訪れていた。
「・・・ごめんなさい」
 予想を外し落ち込んでいる華火とは対照的に、祭は次をどうするか考えていた。
 祭としてはそう上手くいくとも思っていなかったのもあり、そんなに落ち込まなくても、と苦笑いしてしまう。
「まぁ、六つ目の話なんて現実的に考えたらかなり怪しいものがあるしね。気長に探していくのがいいのよ」
「・・・優しい」
「祭ちゃんはいつでも優しいんです~。推理はうちに任せてワトソン君は補佐に回ってくれたまえ」
「またワトソン君・・・」
 華火も気を取り直した。
「はぁ、仕方ない・・・。昨日と同様に校舎中をしらみつぶしに探し回るしかない、かな」
「それしかないのよね~」
「でも校舎の中全部見て回るとなると、先生たちに見つかる危険が高いよ」
「そうなのよ~、やっぱ少しでも予想を立てたほうがいいのかな」
「参考になるかはわからないけど、これ」
 私はポーチからノートを取り出した。
「こないだ私が作った、簡単な見取り図なんだけど」
「見取り図!?そんなん作ってたの!?すごいの!!」
「うん、声のボリューム落としてね」
「はい、すいません」
 見取り図を床に置き、二人で囲う。
「この学校は第一校舎も第二校舎も窓が多くて、日が多く入ってくるのが特徴なの。教室の窓側が西向き、廊下側が東向き。月も太陽と同じで移動するから、時間帯によっては見れない場所もあると思うけど。これだけ窓があれば、見えなくなる場所はそんなにないと思う」
「・・・建築家とか、目指してるの?」
「・・・自分の通う学校だから、調べてたらいろいろと」
「華火ってそういうところがちょっと変わってるのよね」
「そう、かな?」
 祭は華火の作った見取り図を凝視していた。見取り図には教室の机とイス、窓、カーテン、ロッカーなどの個数、一部屋のおおよその広さなどが書かれていた。
 ふと何かに気付いたように華火がスマホでなにかを調べ始めた。
「どうしたの?」
「うん、今日って月、見えるのかなって」
「え?天気ってこと?一応雲もなく、星がよく見える感じだったと思うけど」
「天気も大事だけど、肝心の月がなかったらどうしようもない」
「月がない?」
「新月ってこと」
「あ」
 祭はうっかりしてた、という顔をし、私はスマホの情報を確認した。
「うん、新月ではないみたい。ただ、かなり細い三日月みたい。数日後には新月になっちゃう」
「よかった、とりあえず今日は大丈夫なのよね」
 華火は頷く。
「でも今日見つからなかったら、この調査結構厳しいよ?」
 新月じゃないにしろ、消えかけているのだ。単純に探しにくい。
「いいのいいの。それにそろそろ桜も限界って前に言ったでしょ?」
「・・・まあ」
「だから今日中に解明出来なかったら、それまでってことなのよ」
「諦めがいいね」
「ん?諦めがいいわけじゃないのよ。今年だめなら来年なのよ!だから来年もこれに付き合わされたくなければ、全ての謎を解くしかないのよ、ワトソン君?」
 祭は不敵に笑う。
 今年だめなら来年、という当たり前な言葉に、華火はどうしてかちょっと寂しく、とても嬉しくなった。どうしてそう思ったのか、自分の気持ちも良く分からなかったが、祭のことがなんだかより好きになった。
「しょうがないな。このまま一年も謎がわからないままだともやもやする。さっさと終わらせるしかない。そうでしょ、ホームズ?」
 華火はわざとらしくイタズラが成功した顔をすると、祭はびっくりしたような顔をした。
「ほら、しらみつぶしに探すんでしょう?早くいかないと終わらないよ?」
 華火が立ち上がり、一人で歩き始める。
「あ、待ってよ、華火!」

 二人は一階から探していた。
「まずは月のない場所を探さないとなのよなぁ~、どこだ~い?」
「呼びかけて出てきてくれるわけないでしょう」
 月が見えない位置を探す、ということから、窓際だったり開けた場所を避けて、探していたが、そんな簡単ではなかった。窓が多いため【月のない場所】と考えるとなかなか条件には当てはまらないのだ。
「素朴な疑問。祭ちゃん」
「うんうんどうした?」
「祭ちゃんなら月のない場所ってどういうのが思い浮かぶ?」
「そうだなぁ、うちだったら月が見えない場所とか月明かりが届かない場所、とかなのかな」
「そうだよね。私もそう思って探してたけど・・・」
「けど?」
「月のない場所って、ほんとに月がない場所なのかな?」
「その心は?」
 祭は落語家よろしくオチを待っている。華火はそんな祭を無視して話始めた。
「一つの考え方として、【月のない場所】ってその字面を追うものじゃなくて、例えばその文章自体が暗号で、答えはまた別にある、っていう考えもあったりしない?」
「なるほど、華火的にはなにか思い浮かんだの?」
「いや、それはまだ何も思い浮かばない」
 ケロっとした顔で華火が言うと、祭が盛大にズッコケる動きをした。リアクションが昭和である。平成生まれなのに。
「いいリアクションだね」
「そりゃどーも。でもその考え方はありかもしれない。ちょっとどこかで腰を落ち着かせて考えてみよっか」
 第二校舎は先生たちの出入りも少ないため、二人は昨日と同じく、第二校舎に向かった。

「よし、ちょっと考えてみますか!」
 二人は第二校舎の、とある教室にいた。
「【月のない場所】、まずは場所から離れて、月に関係するものをどんどん挙げていってみるのが良いと思うのよ。うさぎ」
 祭に合わせて華火は続ける。
「銀世界」
「引力」
「クレーター」
「タロットカード」
「土星」
「え、土星って月関係あるの?」
「同じ宇宙にある星だからセーフよ」
「わかったの~、インパクト」
「インパクトこそ関係ないと思う。・・・土萠ほたる」
「とうとうアニメのキャラクターなのよ!ルナ」
「同作品の猫ともとれるし、月の女神ともとれる・・・。渚カヲル」
「それは月に関係あるの・・・?ルナティック」
「渚カヲルほど月が似合う造形はそうそういない。これは全人類が思っている情報です。月は人を狂わす。空洞説」
「クードーセツってなんなの?聞いたことない。ツクヨミ」
「空洞説。月空洞説。月の中は実は空洞なんじゃないかっていうオカルト的な話だよ。み、み」

「・・・三日月。というか、月に関係がある縛り付きのしりとりになってるじゃあないか。あきれた」

 知らない声だった。
 大人びた話し方に合わない、かわいらしい声だった。
 声に負けない可愛らしい顔立ちだった。
 そして私立函嶺高校の制服を着ていた。

「というか、それじゃあ一生、この謎は解けんよ、小娘ども」
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