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四月六日
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今日は新学期初めてのお休みである。学校を欠席したお休みではなく、最初から定められていた休日だ。また、初めて友達が家に泊まりに来る日でもある。そんな日の朝は目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
華火は手早く朝食を済ませ、身支度を整える。そのままでも十分に綺麗な部屋を入念にチェックし、片付け、家を出た。
「すみません、お見舞い用の花束が欲しいのですが」
「お見舞い用・・・。花束ですと生花になっちゃうんですけど、大丈夫ですか?」
店員さんに話を聞いたところ、最近の病院だと生花お断りのところが多いそうだ。花瓶や衛生的な問題で、せっかく買っても処分しないといけないことが多いらしい。そのため華火は店員さんと話し合った結果、プリザードフラワーという加工され枯れない花を購入することに決めた。小さな花束が綺麗に箱に収まり、自立式で見栄えも良かった。華火は優しい店員さんにお礼を伝えた。
そして花屋を背に、向かう先は言わずもがな。
コンコン
「失礼します」
昨日と変わらず、病室にいるのは忍冬矜だけである。昨日と違っているのは、空がまだ高いということだろうか。
「こんにちは、今日はちゃんと、お見舞いの品を持ってきました」
返事が返ってこないとわかりつつ、話しかける。
「立ち寄った花屋さんの店員さんが優しかったんです」
どうしていいかわからず、花を置く場所を考えながらついここまでの道中を話してしまう。しかし、置くだけのブリザーブドフラワーである。すぐに置く場所も決まり、独り言の話題もなくなった。
「・・・私が忍冬さんに会うのはこれで二度目、ですかね。私の友達から、あなたと私は似ていると聞きました。こんなに綺麗な女性に似ている、と言われると外見のことを言われたわけでもないのに、嬉しくなります」
私は独りよがりな言葉を続けた。
「私は何でか、あなたが気になってしょうがないです。何もわからないのに。どうしてですかね」
コンコン
「失礼します」
スーツを着た男性が一人。忍冬矜の知り合いにしては年が離れているようにも感じた。
「こんにちは、君は忍冬さんのお友達ですか?」
男が人好きしそうな柔和な顔で尋ねる。
「まぁ、はい」
なんとなく、部屋を出た方が良いように感じた。
「じゃあ函嶺高校の子かな?お名前伺ってもよろしいでしょうか?」
「すいません、素性のわからない方に名前は言わないようにしています」
考えるより先に言葉が出ていた。あまりにすらすらと口から出たため、華火自身、今の言葉を自分が言ったのかと内心で驚いていた。
そりゃ最近怪しい人多いもんな、と男は困ったような顔した。
「すみません、私は三浦仁と申します。こういう者です」
三浦と名乗った男はジャケットから手帳を出してきた。
「警察?」
「はい、じつは刑事なんです。怪しいものではありません」
華火はまじまじと警察手帳と三浦の顔を見た。どうにも、食えない顔をしている。 正直、面倒ごとには関わりたくはない。自分のことで手いっぱいだ。
「・・・警察なら直接名前、聞かなくても後で調べられそうですね」
「ん?う~ん、たしかに調べられますが、結構手間ですからね。会った時にいろいろ聞ければそちらの方が。こそこそ調べられるって、相手からしたらいい気はしないでしょうし」
探るように相手を観察する。
「千歳華火です」
「千歳華火さん、ありがとうございます。少しは信用していただけたってことですかね?」
「なんで刑事さんが忍冬さんの病室に来るんですか?女子高生の観察とか、そういうプレイが流行ってるんですか?」
三浦は少し困ったように苦笑いする。
私自身も自分の口の悪さに内心戸惑っていた。
「人を変質者みたいな言い方しないでくださいね。彼女が目覚めない原因がわからない、というのはご存じですか?」
実のところはよく知らなかったが、それを顔に出さずに首を縦に振る。こうした方が情報を引き出せる気がした。
「そして最近、この近くで殺人事件がありました。ご存じですか?」
「知ってます。ニュースにもなりましたし、学校でも気を付けるよう話がありました」
「その事件の担当をしているのが、僕らなんです。まだ犯人は捕まってないから夜はなるべく出歩かずにしてくださいね。もちろん早期解決を目指してはいますけどね」
三浦は苦笑いをする。
「・・・その事件と忍冬さんが関係あるってことですよね?」
脈絡もない話が続いた、ということは実は脈絡があるのだ。その筋道に華火が気づいていないだけで。言葉は大事だ、少しニュアンスを変えてしまえばブラフを張ることだって出来る。
「君はどこまで知っていますか?」
「ご想像にお任せします」
まだ引いてはいけない。
「なるほど、よし、取引をしましょう。あなたが何か情報提供をしてくれたら、それに見合うだけの情報をこちらもお教えしますよ」
「情報の価値観は人それぞれだと思うのですが」
「ではこちらがお聞きしたい情報についてお教えします。それに対して千歳華火さんもこちらに聞きたい情報についてお教えください。お互いに答えることが可能であれば、情報交換をしましょう」
「わかりました。それでいいです」
「ありがとうございます。では、こちらがお聞きたいしたいことですが、『忍冬矜さんの私生活について』です」
「ではこちらの質問です。『忍冬矜さんは事件の関係者とされますが、具体的に、どういった関係を疑っているのか』です」
お互いに表情を崩さずに質問を推し量る。
「ふむ、その質問は関係者の中でも極秘でしてね。お教えできないですね、忍冬矜さんは未成年ですし」
「なるほど、ではこちらも情報は開示しません。忍冬さんは大事な友達なので」
「交渉決裂ですね」
三浦は少し嬉しそうに、帰り支度を始めた。
「今日は千歳華火さんにお会いできただけで十分です。忍冬さんのご家族からは千歳華火さんとはここ数年、疎遠になっており連絡が取れない、と伺っていたもので」
どうやら元から知っていてカマをかけられていたらしい。見た目通り食えないタイプだった。
「じゃあ最初から私のことは知っていたんですね」
「それこそご想像にお任せしますよ、あぁこれ、お渡ししておきます。それでは」
三浦と名乗る警察官は病室を後にした。
「これって」
手に握らされていたものは、電話番号が書かれた小さなメモだった。
華火は手早く朝食を済ませ、身支度を整える。そのままでも十分に綺麗な部屋を入念にチェックし、片付け、家を出た。
「すみません、お見舞い用の花束が欲しいのですが」
「お見舞い用・・・。花束ですと生花になっちゃうんですけど、大丈夫ですか?」
店員さんに話を聞いたところ、最近の病院だと生花お断りのところが多いそうだ。花瓶や衛生的な問題で、せっかく買っても処分しないといけないことが多いらしい。そのため華火は店員さんと話し合った結果、プリザードフラワーという加工され枯れない花を購入することに決めた。小さな花束が綺麗に箱に収まり、自立式で見栄えも良かった。華火は優しい店員さんにお礼を伝えた。
そして花屋を背に、向かう先は言わずもがな。
コンコン
「失礼します」
昨日と変わらず、病室にいるのは忍冬矜だけである。昨日と違っているのは、空がまだ高いということだろうか。
「こんにちは、今日はちゃんと、お見舞いの品を持ってきました」
返事が返ってこないとわかりつつ、話しかける。
「立ち寄った花屋さんの店員さんが優しかったんです」
どうしていいかわからず、花を置く場所を考えながらついここまでの道中を話してしまう。しかし、置くだけのブリザーブドフラワーである。すぐに置く場所も決まり、独り言の話題もなくなった。
「・・・私が忍冬さんに会うのはこれで二度目、ですかね。私の友達から、あなたと私は似ていると聞きました。こんなに綺麗な女性に似ている、と言われると外見のことを言われたわけでもないのに、嬉しくなります」
私は独りよがりな言葉を続けた。
「私は何でか、あなたが気になってしょうがないです。何もわからないのに。どうしてですかね」
コンコン
「失礼します」
スーツを着た男性が一人。忍冬矜の知り合いにしては年が離れているようにも感じた。
「こんにちは、君は忍冬さんのお友達ですか?」
男が人好きしそうな柔和な顔で尋ねる。
「まぁ、はい」
なんとなく、部屋を出た方が良いように感じた。
「じゃあ函嶺高校の子かな?お名前伺ってもよろしいでしょうか?」
「すいません、素性のわからない方に名前は言わないようにしています」
考えるより先に言葉が出ていた。あまりにすらすらと口から出たため、華火自身、今の言葉を自分が言ったのかと内心で驚いていた。
そりゃ最近怪しい人多いもんな、と男は困ったような顔した。
「すみません、私は三浦仁と申します。こういう者です」
三浦と名乗った男はジャケットから手帳を出してきた。
「警察?」
「はい、じつは刑事なんです。怪しいものではありません」
華火はまじまじと警察手帳と三浦の顔を見た。どうにも、食えない顔をしている。 正直、面倒ごとには関わりたくはない。自分のことで手いっぱいだ。
「・・・警察なら直接名前、聞かなくても後で調べられそうですね」
「ん?う~ん、たしかに調べられますが、結構手間ですからね。会った時にいろいろ聞ければそちらの方が。こそこそ調べられるって、相手からしたらいい気はしないでしょうし」
探るように相手を観察する。
「千歳華火です」
「千歳華火さん、ありがとうございます。少しは信用していただけたってことですかね?」
「なんで刑事さんが忍冬さんの病室に来るんですか?女子高生の観察とか、そういうプレイが流行ってるんですか?」
三浦は少し困ったように苦笑いする。
私自身も自分の口の悪さに内心戸惑っていた。
「人を変質者みたいな言い方しないでくださいね。彼女が目覚めない原因がわからない、というのはご存じですか?」
実のところはよく知らなかったが、それを顔に出さずに首を縦に振る。こうした方が情報を引き出せる気がした。
「そして最近、この近くで殺人事件がありました。ご存じですか?」
「知ってます。ニュースにもなりましたし、学校でも気を付けるよう話がありました」
「その事件の担当をしているのが、僕らなんです。まだ犯人は捕まってないから夜はなるべく出歩かずにしてくださいね。もちろん早期解決を目指してはいますけどね」
三浦は苦笑いをする。
「・・・その事件と忍冬さんが関係あるってことですよね?」
脈絡もない話が続いた、ということは実は脈絡があるのだ。その筋道に華火が気づいていないだけで。言葉は大事だ、少しニュアンスを変えてしまえばブラフを張ることだって出来る。
「君はどこまで知っていますか?」
「ご想像にお任せします」
まだ引いてはいけない。
「なるほど、よし、取引をしましょう。あなたが何か情報提供をしてくれたら、それに見合うだけの情報をこちらもお教えしますよ」
「情報の価値観は人それぞれだと思うのですが」
「ではこちらがお聞きしたい情報についてお教えします。それに対して千歳華火さんもこちらに聞きたい情報についてお教えください。お互いに答えることが可能であれば、情報交換をしましょう」
「わかりました。それでいいです」
「ありがとうございます。では、こちらがお聞きたいしたいことですが、『忍冬矜さんの私生活について』です」
「ではこちらの質問です。『忍冬矜さんは事件の関係者とされますが、具体的に、どういった関係を疑っているのか』です」
お互いに表情を崩さずに質問を推し量る。
「ふむ、その質問は関係者の中でも極秘でしてね。お教えできないですね、忍冬矜さんは未成年ですし」
「なるほど、ではこちらも情報は開示しません。忍冬さんは大事な友達なので」
「交渉決裂ですね」
三浦は少し嬉しそうに、帰り支度を始めた。
「今日は千歳華火さんにお会いできただけで十分です。忍冬さんのご家族からは千歳華火さんとはここ数年、疎遠になっており連絡が取れない、と伺っていたもので」
どうやら元から知っていてカマをかけられていたらしい。見た目通り食えないタイプだった。
「じゃあ最初から私のことは知っていたんですね」
「それこそご想像にお任せしますよ、あぁこれ、お渡ししておきます。それでは」
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「これって」
手に握らされていたものは、電話番号が書かれた小さなメモだった。
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