恋恣イ

金沢 ラムネ

文字の大きさ
23 / 64

四月六日

しおりを挟む
 今日は新学期初めてのお休みである。学校を欠席したお休みではなく、最初から定められていた休日だ。また、初めて友達が家に泊まりに来る日でもある。そんな日の朝は目覚ましが鳴る前に目が覚めた。

 華火は手早く朝食を済ませ、身支度を整える。そのままでも十分に綺麗な部屋を入念にチェックし、片付け、家を出た。
「すみません、お見舞い用の花束が欲しいのですが」
「お見舞い用・・・。花束ですと生花になっちゃうんですけど、大丈夫ですか?」
 店員さんに話を聞いたところ、最近の病院だと生花お断りのところが多いそうだ。花瓶や衛生的な問題で、せっかく買っても処分しないといけないことが多いらしい。そのため華火は店員さんと話し合った結果、プリザードフラワーという加工され枯れない花を購入することに決めた。小さな花束が綺麗に箱に収まり、自立式で見栄えも良かった。華火は優しい店員さんにお礼を伝えた。
 そして花屋を背に、向かう先は言わずもがな。

 コンコン
「失礼します」
 昨日と変わらず、病室にいるのは忍冬矜だけである。昨日と違っているのは、空がまだ高いということだろうか。
「こんにちは、今日はちゃんと、お見舞いの品を持ってきました」
 返事が返ってこないとわかりつつ、話しかける。
「立ち寄った花屋さんの店員さんが優しかったんです」
 どうしていいかわからず、花を置く場所を考えながらついここまでの道中を話してしまう。しかし、置くだけのブリザーブドフラワーである。すぐに置く場所も決まり、独り言の話題もなくなった。
「・・・私が忍冬さんに会うのはこれで二度目、ですかね。私の友達から、あなたと私は似ていると聞きました。こんなに綺麗な女性に似ている、と言われると外見のことを言われたわけでもないのに、嬉しくなります」
 私は独りよがりな言葉を続けた。
「私は何でか、あなたが気になってしょうがないです。何もわからないのに。どうしてですかね」
 コンコン
「失礼します」
 スーツを着た男性が一人。忍冬矜の知り合いにしては年が離れているようにも感じた。
「こんにちは、君は忍冬さんのお友達ですか?」
 男が人好きしそうな柔和な顔で尋ねる。
「まぁ、はい」
 なんとなく、部屋を出た方が良いように感じた。
「じゃあ函嶺高校の子かな?お名前伺ってもよろしいでしょうか?」
「すいません、素性のわからない方に名前は言わないようにしています」
 考えるより先に言葉が出ていた。あまりにすらすらと口から出たため、華火自身、今の言葉を自分が言ったのかと内心で驚いていた。
 そりゃ最近怪しい人多いもんな、と男は困ったような顔した。
「すみません、私は三浦じんと申します。こういう者です」
 三浦と名乗った男はジャケットから手帳を出してきた。
「警察?」
「はい、じつは刑事なんです。怪しいものではありません」
 華火はまじまじと警察手帳と三浦の顔を見た。どうにも、食えない顔をしている。 正直、面倒ごとには関わりたくはない。自分のことで手いっぱいだ。
「・・・警察なら直接名前、聞かなくても後で調べられそうですね」
「ん?う~ん、たしかに調べられますが、結構手間ですからね。会った時にいろいろ聞ければそちらの方が。こそこそ調べられるって、相手からしたらいい気はしないでしょうし」

 探るように相手を観察する。
「千歳華火です」
「千歳華火さん、ありがとうございます。少しは信用していただけたってことですかね?」
「なんで刑事さんが忍冬さんの病室に来るんですか?女子高生の観察とか、そういうプレイが流行ってるんですか?」
 三浦は少し困ったように苦笑いする。
 私自身も自分の口の悪さに内心戸惑っていた。
「人を変質者みたいな言い方しないでくださいね。彼女が目覚めない原因がわからない、というのはご存じですか?」
 実のところはよく知らなかったが、それを顔に出さずに首を縦に振る。こうした方が情報を引き出せる気がした。
「そして最近、この近くで殺人事件がありました。ご存じですか?」
「知ってます。ニュースにもなりましたし、学校でも気を付けるよう話がありました」
「その事件の担当をしているのが、僕らなんです。まだ犯人は捕まってないから夜はなるべく出歩かずにしてくださいね。もちろん早期解決を目指してはいますけどね」
 三浦は苦笑いをする。
「・・・その事件と忍冬さんが関係あるってことですよね?」
 脈絡もない話が続いた、ということは実は脈絡があるのだ。その筋道に華火が気づいていないだけで。言葉は大事だ、少しニュアンスを変えてしまえばブラフを張ることだって出来る。
「君はどこまで知っていますか?」
「ご想像にお任せします」
 まだ引いてはいけない。
「なるほど、よし、取引をしましょう。あなたが何か情報提供をしてくれたら、それに見合うだけの情報をこちらもお教えしますよ」
「情報の価値観は人それぞれだと思うのですが」
「ではこちらがお聞きしたい情報についてお教えします。それに対して千歳華火さんもこちらに聞きたい情報についてお教えください。お互いに答えることが可能であれば、情報交換をしましょう」
「わかりました。それでいいです」
「ありがとうございます。では、こちらがお聞きたいしたいことですが、『忍冬矜さんの私生活について』です」
「ではこちらの質問です。『忍冬矜さんは事件の関係者とされますが、具体的に、どういった関係を疑っているのか』です」
 お互いに表情を崩さずに質問を推し量る。
「ふむ、その質問は関係者の中でも極秘でしてね。お教えできないですね、忍冬矜さんは未成年ですし」
「なるほど、ではこちらも情報は開示しません。忍冬さんは大事な友達なので」
「交渉決裂ですね」
 三浦は少し嬉しそうに、帰り支度を始めた。
「今日は千歳華火さんにお会いできただけで十分です。忍冬さんのご家族からは千歳華火さんとはここ数年、疎遠になっており連絡が取れない、と伺っていたもので」
 どうやら元から知っていてカマをかけられていたらしい。見た目通り食えないタイプだった。
「じゃあ最初から私のことは知っていたんですね」
「それこそご想像にお任せしますよ、あぁこれ、お渡ししておきます。それでは」
 三浦と名乗る警察官は病室を後にした。
「これって」
 手に握らされていたものは、電話番号が書かれた小さなメモだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?

鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。 先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/8:『そうちょう』の章を追加。2025/12/15の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/7:『どろのあしあと』の章を追加。2025/12/14の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/6:『とんねるあんこう』の章を追加。2025/12/13の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

隣人意識調査の結果について

三嶋トウカ
ホラー
「隣人意識調査を行います。ご協力お願いいたします」 隣人意識調査の結果が出ましたので、担当者はご確認ください。 一部、確認の必要な点がございます。 今後も引き続き、調査をお願いいたします。 伊佐鷺裏市役所 防犯推進課 ※ ・モキュメンタリー調を意識しています。  書体や口調が話によって異なる場合があります。 ・この話は、別サイトでも公開しています。 ※ 【更新について】 既に完結済みのお話を、 ・投稿初日は5話 ・翌日から一週間毎日1話 ・その後は二日に一回1話 の更新予定で進めていきます。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

処理中です...