恋恣イ

金沢 ラムネ

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四月八日:似た者同士

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「現場百回、とはよく言いますが、何回来てもわかりませんね。今回の事件は」
 三浦はぼやいていた。ここは事件被害者、沖峰浄呉の自宅である。床には白いテープで遺体の場所が形取られていた。
「流れていた血はもちろん致死量、そして沖峰浄呉と忍冬矜の血が混ざっていた。なのにどうして、忍冬矜は無傷なのか。どうして忍冬矜は病院前で倒れていたのか。どうして凶器からは誰の指紋も検出されないのか」

 三月三十一日、沖峰浄呉が殺害された。刺殺である。凶器も発見された。しかし、沖峰浄呉を殺した犯人は見つからない。自殺の線も十分に考えられるが、凶器に本人の指紋が出てこない。死ぬ間際に自殺者が自分で自分の指紋を消すだろうか。そして何より、不思議なのは無傷の忍冬矜である。沖峰の血に混じってはいたが、かなりの出血が確認されている。しかし忍冬矜は無傷で、身体自体は健康そのものだ。目覚めないだけで。

「ヨォ、お久しぶり。仕事は順調か?」

 三浦はここでは聞くはずのない声を聞いて振り返る。
「須永・・・!」
「いやぁ、お邪魔しまーす」
「どうしてこんな場所に。というか、どうやって入ってきた。外の警官はどうしたんだ」
「ああ、豊田くんね。ちょっとお話ししたら入れてくれたよ。話せばわかる、良い青年だ」
「お前、そういうことはいい加減にしてくれよ」
「そういう性分だからさ、許してよ」
 三浦は何かを諦めたかのように息をつく。
「それで、ただ冷やかしにきたわけじゃないんだろ。何の用だ?」
「そうそう、この事件の担当が仁って聞いてさ。どうせ何もわからないだろうし、早々に手ェ引いて、別の現場とか行った方がいいぞって伝えにきたのよ」
「どういう意味だ。・・・お前、何を知ってる?」
「はぁ、そんな怖い顔すんなよ。ちびっちまうよ」
「はぐらかすなよ。どうせ何もわからないってのはどういう意味だ?」
「そのまんまの意味だよ。この事件はもう終わってるんだよ。だから明確な犯人なんて出てこないし、証拠もない。ただの人間ができる範疇じゃないんだよ」
「意味がわからない。殺された人間がいる以上、殺した人間を捕まえない限り、事件は終わらない。お前はこの事件の全容を知っているのか」
「いやいやいや、そういう言われ方しちゃうと知らないって答えておくよ。面倒ごとは嫌いなんで。はは、じゃあ時効ってことで折り合いつけといてよ」
「須永」
 三浦の表情はどんどん険しくなる。
「仁、これ以上この事件に突っ込んでも、お前の時間がどんどん無駄に減っていくぞ」
「それでも、真実が大事だ」
「・・・お前はそういうところが馬鹿だよなぁ。だから昔から変なやつに目ェつけられて、大事に巻き込まれるんだよ」
「須永、前置きはいいからこの事件の知っていることを教えてくれ」
「それは無理だなぁ。知らないことには答えられんなぁ」
 須永はどこか芝居がかった動きで三浦の言葉を拒否した。
「金を払えば話す気になるか?」
「はっ。お前と仕事関係になる気はないよ」
「じゃあ本当にお前は何しにきたんだ。冷やかしか」
「だから忠告しにきたんだよ。無駄骨だから手引いたほうがいいぞってな」
「そんなことを言えば、俺が折れないというのもわかってたんじゃないか?」
「まぁね。だからどうしてもこの事件を追うって聞かないなら・・・」
「聞かないなら?」
 二人の間にピリついた空気が流れるが、すぐに須永がギブアップするように手を上げた。

「ほらよ」
 須永が突然何かを三浦に投げ渡す。
「ん、これは」
 三浦が受け取ったのはUSBメモリだった。
「そんなかに入ってるのは普通の頭じゃ理解できないだろうデータだ。それをちゃんと解った上で、それでもまだ、この事件を追うっていうなら」
「追うなら?」
「好きにしろ。ただ、そうならないことを祈ってるがね」
「そうか、ありがとう」
「言っておくが、そのデータは捏造でも何でもない。紛れもない事実ということは伝えておくぞ」
「・・・わかった」
 一体どんなデータなのか、三浦は訝しげにそのUSBを見る。
「んじゃ帰るわ」
 須永は用事は済んだとばかりに帰ろうとする。
「須永、ありがとう」
 須永は返事はせずに手だけで返事をしてその場を後にした。
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