恋恣イ

金沢 ラムネ

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四月八日:似た者同士2

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 飛鳥祭の朝は早い。まず部活の朝練というものがある。そのため朝七時には学校に到着している。そこで汗を軽く流し、身支度を整え、早弁を食べる頃になればようやく、一般の生徒が登校してくる。
 おにぎりを食べながらスマートフォンをいじっていると、一件の通知がきた。
「えっ」
 千歳華火が今日学校を休む、という旨のものだった。心配しないで、と書いてある。
「いや、心配するよ、何してるのよ・・・」
「なにどうしたの?」
 声の主は真水だった。
「あ、いや華火。今日学校休むって連絡きたのよ」
「え、そうなの?風邪?」
「う~ん、どうなんだろう。返信ないからよくわからないの」
 なんとなく少しごまかした。
「ふ~ん。まぁいいわ」
 あまり信じてもらえていないらしい。
「それよりも、さっさと出して」
「え?何を?」
「数学の宿題よ。今日朝一で集めるって言ってあったでしょ?」
 真水は今日日直だった。
「あ」
「なによ、あ、って。忘れたの?」
 真水の呆れた目が痛い。
「忘れてたのよ・・・」
「はい、じゃあさっさと先生の所に行って謝って来なさい。それか朝礼の時間内に終わるなら待ってもいいわよ」
「・・・いや、うん、たぶん終わらないのよ」
 祭はプリントをじっくりと見ながら答えた。
「グッドラック」
 捨て台詞とともに真水は去っていった。祭は朝から頭を抱えながら教室の扉を開ける。もちろん許しを請うために。

 授業中もあまり集中できなかった。ノートだけは取っていたが、まるで中身に集中していなかった。
 最近、華火と居ると退屈しなくて、楽しかったからかな。いないとやっぱり、気にしちゃうのよ。
コンコン
 教室にノックの音が聞こえた。
 授業がいったん止まった。先生たちが廊下で少し話をしていた。授業中にこんなことがあるのは珍しい。何の話をしているのだろうか。流石に廊下の声は聞こえない。
「すまない、授業を再開しよう」
 もっとゆっくり話してくれていても良かったのに・・・。
 再び、退屈な授業が再開された。

 放課後になり、部活に行こうと腰を上げたところで、呼び止められた。
「祭、ちょっと手伝って」
 真水だった。
「ん?何?」
 真水の方を見ると彼女はなにやら重そうな紙束を持っていた。
「はい、これ持って」
 ずいぶんと重量のある紙束は全て何も書かれていない白紙の物だった。
「なにこれ」
「コピー用紙よ」
「うん、で?」
「それを今から職員室に持っていくから」
「なんなのよ・・・?」
「まぁいいから、ちょっとそれ持ってついてきなさい」
 真水はずいぶん楽しそうに歩き始める。真水が楽しそうな時は大概、何か企んでいるときである。こういう時は関わらないのが吉である。
「うち部活あるんですけど~」
 わざとらしく時計の方をみたりなんかする。
「遅れていきなさい。今日はすごいわよ。華火ちゃんへの手土産、欲しいでしょ?」
 真水は意味ありげに笑う。結局、大量のコピー用紙を持ったまま職員室へと付き合うことになった。

「失礼しまーす」
 いつもよりも声のトーンは上げて、ボリュームは下げて挨拶をする。職員室は学生にとっては敵陣も同じである。いつも通りに振舞うことは出来ない。
「ご協力感謝致します。ではおひとりずつお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」
 職員室に見慣れない男が先生たちと話していた。
「真水、それでこのコピー用紙はどこに・・・」
 私が言い終わる前に真水に睨まれた。
 これは黙れってことですかね、理不尽なのよ。
 仕方なく口を閉じた。すると真水に引っ張られ、職員室の隅に連れていかれる。
バッサァ
 私が持っていた用紙が吹き飛んだ。正確に言えば吹き飛ばされた。真水の手によって。
「なっ・・・」
「も~!しょうがないなぁ、一緒に拾ってあげるよ~」
 真水の声に遮られ、しゃがまされた。
「祭、ゆっくり拾って。あともう少し右側に来て」
 小声で言われ、しぶしぶその通りに動く。
 こういう時の真水にキレたらあとあとどんな報復が待っているか、想像したくもない。
 うちはゆっくりと紙を拾いながら、真水を盗み見る。彼女は小さい手鏡を手に忍び込ませていた。察するに、最初に目に入った知らない男が気になっているらしい。

 数分は時間を稼いだだろうか、男と先生が一人、職員室を後にした。
「祭、この紙はここにおいて」
 言われた通りに紙を置き、すぐに職員室を後にした。
「すぐにわかるからついてきなさい」
 連れてこさせられたのは第二校舎だった。
「今からずっと中腰、早く」
 鬼かこいつ。
 心の声は出さずに言うことを聞く。
「窓にも自分の姿が写らないようにして」
「透明人間なのかよ」
「口答えしない」
 昔からこいつは理不尽なのだ。内弁慶とでもいうのか、気を許せば許すほど態度がでかい。そのくせ外面が良く、世渡り上手、多重人格かと本気で考えた時期もあった。
 中腰で空き教室に入る。
「静かに、出来るだけ物も動かさないで」
 かくれんぼでもしているかのような徹底ぶりである。二人はカーテンと机でぱっと見この教室には人がいないように隠れた。

「そろそろ話してほしいのよ」
 返事の代わりにイヤホンの片耳が渡される。
 こいつ、イヤホンつけてたのかよ・・・。先生に見つかったら怒られるぞ。
 ワイヤレスイヤホンの片方を自分の耳に装着させる。人の話し声がノイズとともに聞こえてきた。
 最初の声は分からなかったが、後者の声は聞き覚えがあった。我らが担任、大川あやめだ。
『えっと、大川あやめと言います。よろしくお願いします』
『そんなにかたくならずに、気楽に答えていただければ。あ、私、三浦、と申します。よろしくお願いします』
 一言二言やり取りし、三浦が本題に入った。

『では一つ目ですが、先日この近所で起こった事件はご存じですか?』
『男性が亡くなった事件ですか?』
『はい、そうです。我々は今日その事件について、お話を伺いに参りました』
『でも、そんな。刑事さんにお話しできるようなことは特に何も・・・』
「刑事!?」
 真水にしー、と人差し指をたてられた。
「ごめん。でも刑事ってどういうこと?あとこのイヤホン、何と繋がってるの?」
 小声で矢継ぎ早に質問する。
「あとで説明するから静かに聞いてなさい」
 言われるがままなのは尺だが、好奇心も大きい。祭は口を尖らせながら、静かにイヤホンに意識を傾けた。
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