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四月九日:捩花2
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華火と三浦は近くの椅子に腰かけた。
二人ともそこでようやく一息ついたようだった。
「・・・千歳さん、ここはあなたが記憶をなくす前から利用している病院、ということですか?」
「そうらしいです。私の財布の中にここの診察券が入っていたので」
「では一応、信用できる方、ということですね」
「そう思ってます」
華火の返答に三浦は安心したのか、腰を上げる。
「では私は先ほどの犯人を捜しに行ってきます。時間が経てば経つほど厄介なので」
外に出ようとする三浦を華火は必死に止める。
「ま、待ってください!たぶん捕まえるとかは無理なので!!」
三浦は怪訝な顔をする。
病院の時計の針が二十四時にちょうど差し掛かるところだった。
「三浦さん、今すぐに私と一緒に、学校に戻ってください」
「理由をお話してくださるのなら、考えます」
華火はもう一度時計を見る。
「すいません、説明は後で必ずしますので」
そう言うと華火は三浦をいわゆるお姫様抱っこの体制で抱える。
「ち、千歳さん!!おろして、おろしてください!」
華火は話を聞かずに伊予総合病院を飛び出した。
出た瞬間にそこにはいたのである。
ゆっくりとこちらに近づいてくるそれは人というよりも、化物に近かった。
人よりも大きく、人にはない牙が生え、人とは思えない真っ暗な目が見開いていた。
【ゥウ、ウ、キョ、ウ。キョウゥゥゥゥゥ】
悪霊と呼ぶに相応しい姿だった。
言葉だった。唸り声とも叫び声とも聞こえる言葉だった。思わず華火は足を止めていた。視えない三浦は突然足を止めた華火に怪訝な顔をしている。
「・・・千歳さん?」
三浦の声にハッとした華火はすぐさま走り出す。
動き出した華火を追いかけるようにそれもまた動く。その巨体が一歩動くごとに大きな風が吹きこんだ。
【ゥゥ、ウオオゥウ、オマエ、イイニオイ】
「!?」
華火に向けてソレは指を指す。
【オマエハキライナニオイ、ダ、ダ、ダナ】
ソレは三浦に真っ暗な目を向けた。
【ドッチモクウ】
その瞬間それは華火に向かってジャンプした。一足飛びに飛び込んできた。
華火は寸でのところでその巨体の軌道を躱した。
「っつぅ・・・!」
華火はソレから目を離さない。ぐるん、とそれの顔が華火の顔を捉える。
自分の中から危険信号が鳴る。三浦を抱えている今、避けられないと覚悟する。その瞬間華火の眼は燃えるように紅くなり、無理やりソレに背を向ける。その瞬間華火は背中から吹っ飛んだ。
「ぅぐ、は、ッツウ・・・」
「千歳さん!?」
状況が全くわからない三浦にも今何かが起こっていることくらいは理解出来た。
「千歳さん!何が起こってるんですか!」
華火は三浦の問いかけに答える余裕がなく、軋む体に鞭を打ってソレとの距離を取ろとする。
「下してください!」
喚く三浦を無視して華火は学校に向かって走り出す。
【ゥ、ゥウォォォォ?ヴ、ヴォーーー、ゥゥウオ?マツリノ、ニ、ニオイスル】
ソレは再び華火の方へ向かってジャンプをしてこなかった。先ほどの強烈なジャンプは連続で出来るものではないようだ。
「い、まの内に!!」
華火は息も絶え絶えだが、全力で函嶺高校に向かう。少しずつソレとの距離を開けていく。
「三浦さんには申し訳ないですが、もう少しだけ、お付き合いください」
「それはいいですが、どういうことか説明してください。私には何がなんだか・・・」
「ああ、そうですね、簡単に言うと、悪霊というものに絶賛追われています。あと、祭ちゃんを刺したのもあいつだと思います。どうして祭ちゃんにも反応してるのかはわからないんですけど」
以前は完全に華火を狙ってきていた。だが今は明確に祭を狙うような言葉を発している。
三浦は目を見開く。
「悪霊、ですか。私には全く見えないですが、何かがいることは理解しました。千歳さん、やっぱり私をおろしてください。私がいなければもう少し自由に動けるでしょう」
「それはダメです。三浦さんが喰われてしまう」
「私が、喰われる?」
三浦はよくわからなかった。視えない人間よりも視える人間の方が襲われる可能性が高いのではないか、と。そもそも三浦は自身が襲われる理由もわからなかった。
「たしかに私の方が悪霊からみれば美味しそうに映るそうです。ですが、私は以前、アレを撃退してしまいました」
してしまいました、という言い方に三浦は引っ掛かる。
「撃退してはいけなかったのですか?」
華火は首を横に振る。
「中途半端に撃退したのが良くなかったみたいです」
逆に警戒されてしまっているみたいです、と華火は苦笑いをする。
「完全に悪霊を払うというのはなかなか難しいのと、半端に撃退すると結局こういう風に何度も出てくるので、根本的な解決にはならないんです」
―――そして悪霊は人の怨念を喰うほど強くなるそうです。
「私が前に出会った時よりも、強くなってるんですよ、あの悪霊」
冷や汗を垂らす三浦にも気づかず、華火は走りながら説明を続けた。
「しかも力が増して、関係ない人にも姿が見えるようになったら、怨念だけではなく、人自体を喰うと聞いています。三浦さんがまだ見えないということは、まだ人は喰えないはずですが・・・」
三浦は理解しがたい、と表情を歪ませる。そして、と華火は続ける。
「今回アレをおびき寄せるために私は三つ、餌を用意しました。一つは時間。悪霊は日付が変わる前後に活動し始めることが多いそうです。二つ目は敵対者。生前の行いから自分にとっての敵、嫌いなタイプの人間を襲いやすいそうです。すみませんが、今回三浦さんをそれに巻き込みました。心中だろうと殺人に入りますからね、さぞ刑事が嫌に見えるでしょう!」
「・・・まさか」
心中、と聞いて三浦は目を見開く。
「三つ目は縁を持つ者。私は忍冬さんと縁が深いみたいで、寄ってくる確率が高いそうです」
・・・祭ちゃんがどうして襲われたのかがわからないんですけどね。
華火はぼそっと呟いた。
「千歳さん、その悪霊って・・・」
三浦の言葉を遮るように爆発のような音と砂煙が舞った。目の前の道路が突然ヒビ割れ、凹んでいた。
「はい、これだけずっと追いかけられていれば、三浦さんもすぐに見えるようになると思います。今襲ってきている悪霊は、沖峰浄呉の怨念から、悪霊という形になったものです」
二人ともそこでようやく一息ついたようだった。
「・・・千歳さん、ここはあなたが記憶をなくす前から利用している病院、ということですか?」
「そうらしいです。私の財布の中にここの診察券が入っていたので」
「では一応、信用できる方、ということですね」
「そう思ってます」
華火の返答に三浦は安心したのか、腰を上げる。
「では私は先ほどの犯人を捜しに行ってきます。時間が経てば経つほど厄介なので」
外に出ようとする三浦を華火は必死に止める。
「ま、待ってください!たぶん捕まえるとかは無理なので!!」
三浦は怪訝な顔をする。
病院の時計の針が二十四時にちょうど差し掛かるところだった。
「三浦さん、今すぐに私と一緒に、学校に戻ってください」
「理由をお話してくださるのなら、考えます」
華火はもう一度時計を見る。
「すいません、説明は後で必ずしますので」
そう言うと華火は三浦をいわゆるお姫様抱っこの体制で抱える。
「ち、千歳さん!!おろして、おろしてください!」
華火は話を聞かずに伊予総合病院を飛び出した。
出た瞬間にそこにはいたのである。
ゆっくりとこちらに近づいてくるそれは人というよりも、化物に近かった。
人よりも大きく、人にはない牙が生え、人とは思えない真っ暗な目が見開いていた。
【ゥウ、ウ、キョ、ウ。キョウゥゥゥゥゥ】
悪霊と呼ぶに相応しい姿だった。
言葉だった。唸り声とも叫び声とも聞こえる言葉だった。思わず華火は足を止めていた。視えない三浦は突然足を止めた華火に怪訝な顔をしている。
「・・・千歳さん?」
三浦の声にハッとした華火はすぐさま走り出す。
動き出した華火を追いかけるようにそれもまた動く。その巨体が一歩動くごとに大きな風が吹きこんだ。
【ゥゥ、ウオオゥウ、オマエ、イイニオイ】
「!?」
華火に向けてソレは指を指す。
【オマエハキライナニオイ、ダ、ダ、ダナ】
ソレは三浦に真っ暗な目を向けた。
【ドッチモクウ】
その瞬間それは華火に向かってジャンプした。一足飛びに飛び込んできた。
華火は寸でのところでその巨体の軌道を躱した。
「っつぅ・・・!」
華火はソレから目を離さない。ぐるん、とそれの顔が華火の顔を捉える。
自分の中から危険信号が鳴る。三浦を抱えている今、避けられないと覚悟する。その瞬間華火の眼は燃えるように紅くなり、無理やりソレに背を向ける。その瞬間華火は背中から吹っ飛んだ。
「ぅぐ、は、ッツウ・・・」
「千歳さん!?」
状況が全くわからない三浦にも今何かが起こっていることくらいは理解出来た。
「千歳さん!何が起こってるんですか!」
華火は三浦の問いかけに答える余裕がなく、軋む体に鞭を打ってソレとの距離を取ろとする。
「下してください!」
喚く三浦を無視して華火は学校に向かって走り出す。
【ゥ、ゥウォォォォ?ヴ、ヴォーーー、ゥゥウオ?マツリノ、ニ、ニオイスル】
ソレは再び華火の方へ向かってジャンプをしてこなかった。先ほどの強烈なジャンプは連続で出来るものではないようだ。
「い、まの内に!!」
華火は息も絶え絶えだが、全力で函嶺高校に向かう。少しずつソレとの距離を開けていく。
「三浦さんには申し訳ないですが、もう少しだけ、お付き合いください」
「それはいいですが、どういうことか説明してください。私には何がなんだか・・・」
「ああ、そうですね、簡単に言うと、悪霊というものに絶賛追われています。あと、祭ちゃんを刺したのもあいつだと思います。どうして祭ちゃんにも反応してるのかはわからないんですけど」
以前は完全に華火を狙ってきていた。だが今は明確に祭を狙うような言葉を発している。
三浦は目を見開く。
「悪霊、ですか。私には全く見えないですが、何かがいることは理解しました。千歳さん、やっぱり私をおろしてください。私がいなければもう少し自由に動けるでしょう」
「それはダメです。三浦さんが喰われてしまう」
「私が、喰われる?」
三浦はよくわからなかった。視えない人間よりも視える人間の方が襲われる可能性が高いのではないか、と。そもそも三浦は自身が襲われる理由もわからなかった。
「たしかに私の方が悪霊からみれば美味しそうに映るそうです。ですが、私は以前、アレを撃退してしまいました」
してしまいました、という言い方に三浦は引っ掛かる。
「撃退してはいけなかったのですか?」
華火は首を横に振る。
「中途半端に撃退したのが良くなかったみたいです」
逆に警戒されてしまっているみたいです、と華火は苦笑いをする。
「完全に悪霊を払うというのはなかなか難しいのと、半端に撃退すると結局こういう風に何度も出てくるので、根本的な解決にはならないんです」
―――そして悪霊は人の怨念を喰うほど強くなるそうです。
「私が前に出会った時よりも、強くなってるんですよ、あの悪霊」
冷や汗を垂らす三浦にも気づかず、華火は走りながら説明を続けた。
「しかも力が増して、関係ない人にも姿が見えるようになったら、怨念だけではなく、人自体を喰うと聞いています。三浦さんがまだ見えないということは、まだ人は喰えないはずですが・・・」
三浦は理解しがたい、と表情を歪ませる。そして、と華火は続ける。
「今回アレをおびき寄せるために私は三つ、餌を用意しました。一つは時間。悪霊は日付が変わる前後に活動し始めることが多いそうです。二つ目は敵対者。生前の行いから自分にとっての敵、嫌いなタイプの人間を襲いやすいそうです。すみませんが、今回三浦さんをそれに巻き込みました。心中だろうと殺人に入りますからね、さぞ刑事が嫌に見えるでしょう!」
「・・・まさか」
心中、と聞いて三浦は目を見開く。
「三つ目は縁を持つ者。私は忍冬さんと縁が深いみたいで、寄ってくる確率が高いそうです」
・・・祭ちゃんがどうして襲われたのかがわからないんですけどね。
華火はぼそっと呟いた。
「千歳さん、その悪霊って・・・」
三浦の言葉を遮るように爆発のような音と砂煙が舞った。目の前の道路が突然ヒビ割れ、凹んでいた。
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