恋恣イ

金沢 ラムネ

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四月九日:捩花4

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「ッッ~~~~~~~~!!!あ、あ、ぁぁっあ!」
 今度は華火が言葉にならない悲鳴を叫んでいた。真っ青な顔の華火をどうにか担ぎ、三浦は走る。

「聞こえていますか!?生きてますか!しっかりしなさい!千歳華火!!」
「ぅぅう、は、は、生きてます。すいません、作戦、失敗しちゃいました」
「見ればわかる!俺には何が起きたのか分からなかったが、何があったんだ!」
「思っていたよりも、強くなってる気がします・・・、今空腹で私たちを襲ってるので、人は食べてないと思いますけど、よっぽど大きな怨念を、吸収したんだと思います」
 悪霊に最初に祭が襲われたことが華火の頭をよぎる。
 誰かが祭ちゃんを強く恨んでるってこと・・・?
「くそ。どうしますか、一度病院に戻りますか?」
 三浦は走りながらも華火の出血を止めようとしていた。後ろの様子を見ながら少し止まっては手持ちのハンカチを使い、応急処置を済ませる。
「いえ、それよりも、っう、学校へ向かいましょう」
「・・・その状態で大丈夫ですか?私にはとてもじゃないですが、平気そうには見えませんよ」
「大丈夫、です。三浦さんのおかげで腕はなんとか、なりそうです」
 冷や汗をだらだらと流しながら、華火は強がりを言う。その様子に、三浦の眉間に皺が寄る。
「それに、私が決着を着けないで、誰が決着を着けるんですか」
 華火の眼が本気だと、三浦へ訴える。それを見て、三浦はため息をつく。
「記憶もないのに随分な責任感ですね」
 三浦は皮肉を言った。ここまでこの少女を動かす原動力であるはずの記憶はないはずなのだ。ではなぜ、死にかけながらここまで頑張れるのだろうか。
「・・・確かに記憶はないですけど。お願いされてるんです」
「お願い?」
「千歳華火に。幼馴染みをよろしくって」
 三浦はどういうことかと混乱する。
「私が、目覚めて最初に目に入ったのは、千歳華火が遺した手紙でした」
「・・・忍冬矜を頼む、とでもそこに書かれていたんですか?たとえ書かれていたとしても、アレは沖峰浄呉で、忍冬矜ではないでしょう!」
「そうかもしれないですけど、やっぱり、その時のことを、知っちゃうと、どうしても、放ってはおけなくて・・・」
「お人好しですね、あなたは。早死にしますよ」
「あはは、もう、一回死んでるような、ものなので」
 いてて、笑うと振動でより痛みますね、なんて随分と余裕そうなことを言う。

「学校なら確実にアレをどうにか出来るんですね?」

「・・・三浦さん?」
 三浦はより華火を抱える形をとった。
「連れていきますよ、学校まで。ただし、死ぬことは許しません。人は、二回も死ねません」
 本当であれば、一回死ねばゲームオーバーなのだ。それを、こんな少女が二回も経験してたまるかと、三浦は苛立ちながらも決心した。
「死なせませんよ」
「三浦さん・・・」
「死んだら末代まで祟って、日向を歩けないようにします」
「あはは・・・」
 それに、あなたが死んだら私も死ぬ、という状況になりそうですからね。
「絶対に次で決めてください」
「・・・頑張ります」

 三浦は足が既に棒のようだったが、止めることはなかった。必死に、背中に這い寄る化物から逃げ続けた。幸い、学校に向かって逃げていたこともあり、すぐに校舎が視界へ入る。
「もう、少し・・・!」

 学校が見えた。もう少しで正門に辿り着く。
 その瞬間に、来た。
 あの超ジャンプが爆風のように正門を破壊した。

「っつぅ。これは、あれですか!目の前にいますか?!」
「そうです!」
「どうしますか?!」
「三浦さんはここにいてください。私が一人で行きます」
「校庭まで一人で行けますか?」
「それこそ―――火事場の馬鹿力、ですよ」
 華火の左眼は再び真っ赤になっていた。

「私の血肉は美味しかった?」
 華火は三浦から離れ、一歩前に出る。
【ウウゥッゥ、ギィオギギギ】
 ソレは華火の言葉を理解したのか、獲物が近づいてきたのが嬉しいだけなのか、大きな口を嬉しそうに歪めさせた。
「私を食べたいのよね」
 一歩また近づく。
「千歳さん!」
 三浦の焦る声も聞こえる。
「今度は私と鬼ごっこ」
 華火はもう一歩前に出た。その瞬間ソレの腕が華火を捕えようとした。しかし、華火はまるで、わかっていたかのように飛び、ソレの腕に捕まる形で回避した。
 三浦から見れば華火は宙に浮いているように見えるだろう。
 ソレの上に思い切り乗り、足場に変えてジャンプする。そして、華火は自身の場所を示すかのように柏手を一つ鳴らした。
【ギギギィィギギャギギギギギイイイイイイイイ】
「鬼さんこちら」
 華火は自分に注意を引きつけながら、再び高く高く、ジャンプする。柏手をまた一つ鳴らしながら。

 そして正門を超えた先に着地した。
 沖峰浄呉だったものはぐるりと華火に目を向け、一歩一歩近づいていく。その様子を確認した華火は校庭へ走った。抉られた二の腕を強く押えながら。
 三浦は邪魔になるかもしれないと思いつつ、校庭に出られる別の出口を探すことにした。
「は、はぁ。膝がもう笑ってますよ」
 三浦は裏門に足を向ける。

 華火は校庭に入ると、ソレの様子を見るために立ち止まった。
【ギィィギギャギギギ、ギ、ギ、ウウ、ォォオオウイイイイイイイ】
 沖峰浄呉だったものは、正面から現れ、華火に近づく。
 今度こそ。
 華火の左眼には、現実の映像とは違う光景が見えていた。

「こっちだよ」

彼女の紅い眼は、少しだけ先の未来を写していた。
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