42 / 53
愛が欲しかった絹代
クロアゲハ
しおりを挟む忘れずに傘を持って出かけた。傘は親切なおばちゃんの家の玄関横に立てかけておいた。
駅まで行く途中の電話ボックスで、会社に電話した。風邪をひいて熱が高いので、2.3日休みますと伝えた。
お客さんにうつしては大変なので、熱が高いと言うと結構休むことはできる。
絹代がその手を使ったことはなかったから、お大事にしてくださいと総務の人に言われただけだった。
上野駅に向かって寝台車にでも乗ってみようかとふとそう思った。
気がつけば、澤本さんと出会ってから、一年近くたっていた。絹代にも後輩ができたがまだ、指導できる立場ではないし、中途半端な立ち位置だ。 受付の女性は、だいたい3年以内で結婚して辞めていく、そんな仕事なのだ。
上野駅に、着いた。 寝台車の個室が空いていた。16時過ぎに出発で朝に札幌に着く、夕食も頼んだ。
時間があるので、動物園でも見に行こうか?映画でも見てもいい。
1人で過ごす休日なんだか素敵な気がした。少しは心が晴れるだろうか?
寝台車に乗る前に、母に電話した。会社には連絡してしばらく休みますと言っておいたこと、旅に出ると言っておいた。
「心が晴れたら絶対に、家に帰って来なさい。ちゃんと毎日連絡するように」母が言った。
私は、「わかった。大丈夫必ず帰るから」と答えた。 また泣きそうになった。
札幌から小樽へ、絹代が会社に行くと言って家を出た時から丸一日以上たっていた。 一人旅ですか?と聞かれた時には、親戚の家へ行くところです。と答えた。
いつか2人で来ようねと言っていた小樽。
それは叶うことはなかったけど、1人で来てしまった。これでもかと思うほどのウニがのったウニ丼を食べた。
今日は、天気がびっくりするほどよかった。真っ青な空に、白い雲が浮かんでいた。
朝、寝台車で白地に青い小花のついたワンピースに着替えた。やっぱりこの服は、こういう日に着たい。東京よりも風が爽やかだ。
海の近くにある大きな水族館に来た。昨日は、上野で動物園と水族館を両方とも見たが、ここのは規模が違うそうだ。私は、水族館が好きだ。やっぱり、陸でも海でも動物や、魚類などは見ていて落ち着く。たまに、自分が見られているんじゃないかというような錯覚を受けることもあるが
結婚して子供ができたら、動物園とか水族館とかに連れて行くのが夢だった。
澤本さんと子供たちと来たかったのにそんな未来は永久に来ない。
また悲しくなってしまった。
水族館の人に聞いたらこの辺にいくつか旅館があるそうだ。さすがに今日はどこかに泊まらないといけない。
崖の上から見る景色は、最高だと聞いたのでとりあえず上に行って最高の景色を楽しみたい。
坂道を上に上がっていく風が心地よい。ワンピースの裾が風にヒラヒラとあおられた。アゲハチョウが、ヒラヒラと絹代の跡をついてきた。 ワンピースの小花の模様を花と勘違いしたんだろうか?
1匹、そしてまた一匹。海が近くに見える崖に登るまでの間に気がつくと10匹以上のチョウが絹代の周りを飛んでいた。中には15センチ以上はあるのではないかと思われるものすごく大きなクロアゲハもいた。
この辺りの崖に花でも咲いているんだろうか?
一瞬カラスかと思うぐらい大きなクロアゲハが、絹代を先導するかのように絹代の前にヒラヒラと出てきた。 クロアゲハの目はビーズのように黒く絹代のことを見透かすかのようだった。一瞬目があったような気がした。後ろを振り向くと絹代の周りだけではなく後ろにも数えきれないチョウの群れがいた。
上を見上げた。信じられないくらいきれいな空だった。涙が出てきた。上を向いていても涙があふれてこぼれ落ちてきた。この先家に帰り、仕事に行ってもなにもいいことがないならこんなにきれいな空と海のある場所でチョウたちに見守られながら、人生を終えるのもいいような気がしてきた。
上を向いても涙があふれてきれいな空がゆがんでしか見えなくなって、ふと目を落とすと目の前に、見たこともないようなきれいな花が咲いている花畑があった。
そこに先ほどの大きなクロアゲハが舞っていた。まるで絹代を誘うかのように
チョウが舞うその花畑で、ジェシカが手を振っていた。 水色のワンピースに、金色の巻毛、ヒラヒラした水色の帽子をかぶって花畑の真ん中にいた。
ジェシカ ジェシカ
花畑の真ん中にいるジェシカの方に絹代はかけよった。
絹代は、気がつくと崖の下の海へと、体を何度も崖にぶつけながらバウンドして落ちていった。不思議と痛みはなかった。
何度も、何度も崖にぶつかり、白いワンピースが、少しずつ赤く染まりながら、絹代は小樽ブルーの海へと飲み込まれていった。
ジェシカ ずっと ともだち
ずっと いっしょにいるよ
70
あなたにおすすめの小説
本当に体験した不思議な話
月夢(らいむ)
ホラー
子どもの頃から、大人になった今まで——。
私のまわりでは、いつも“説明のつかないこと”が起きていた。
ひとりで留守番をしている時に起こる、不思議な出来事。
寂しくて見ていた写真の中の自分が、いつも動いていたこと。
誰もいないはずの部屋から聞こえる、小さな声。
そして、みんなで見たUFO。
子どもの頃から今までのあいだに起こった、不思議な出来事をありのままに綴ります。
信じるか、信じないかは——あなた次第です。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
夜の声
神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。
読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。
小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。
柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。
そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
君の左目
便葉
ライト文芸
それは、きっと、運命の歯車が狂っただけ。
純粋な子供の頃から惹かれ合っていた二人は、残酷な運命の波にのまれて、離れ離れになってしまう。
それもまた運命の悪戯…
二十五歳の春、 平凡な日々を一生懸命過ごしている私の目の前に、彼は現れた。
私の勤める区役所の大きな古時計の前で、彼は私を見つけた…
冷たい舌
菱沼あゆ
キャラ文芸
青龍神社の娘、透子は、生まれ落ちたその瞬間から、『龍神の巫女』と定められた娘。
だが、龍神など信じない母、潤子の陰謀で見合いをする羽目になる。
潤子が、働きもせず、愛車のランボルギーニ カウンタックを乗り回す娘に不安を覚えていたからだ。
その見合いを、透子の幼なじみの龍造寺の双子、和尚と忠尚が妨害しようとするが。
透子には見合いよりも気にかかっていることがあった。
それは、何処までも自分を追いかけてくる、あの紅い月――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
