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三十六
しおりを挟む第二王子婚約者ロザリア、庭に突撃
――魔法戦
その庭に、魔力が叩きつけられた瞬間、
空気が一気に戦場へと変わった。
「出てきなさい!!オリビア・ヴェルトリナス・ハーベルト!!」
怒声と同時に、
紅蓮の火球が三発、連続で放たれる。
地面を抉り、
木々の間を縫うように飛び、
殺意を隠さない直撃軌道。
――普通の魔術師なら、即死だ。
だが。火球は、庭の境界線を越えた瞬間、歪んだ。爆ぜない。燃えない。ただ、力だけが削がれていく。
「な……っ!?」
ロザリア・フォン・グランフェルドは、歯を食いしばる。
「防御結界!?いいえ……これは、相殺!?」
間髪入れず、次。
「なら、これでどう!」
詠唱短縮。
重ねがけ。
風刃 × 光槍 × 圧縮衝撃波。
三属性の連携魔法が、同時に放たれる。
庭の空気が裂け、
土が跳ね、
枝が吹き飛ぶ――
はずだった。
だが。木々が動いた。枝が軌道を変え、
幹が盾になり、根が地面から隆起して、衝撃を吸収する。
まるで、生き物のように。
いや――
生きている。
「ふざけ……!」
ロザリアは、全魔力を解放する。
「王家直系に仕える者として!この程度で止まるとでも!?」
光が、彼女の周囲で爆発する。
結界形成。
強化。
魔力増幅。
本気の殴り合いだった。その中心で。オリビアは、浮遊クッションから立ち上がらない。ただ、指先で、軽く地面を叩いた。
――とん。
その瞬間。地脈が応えた。ロザリアの結界が、内側から軋む。
「……っ!?」
理解したときには遅かった。
彼女の魔法は、外から破られたのではない。足元から、奪われた。地面に流していた魔力が、逆流する。
「なに、これ……!?魔力が……抜ける……!!」
叫びと同時に。
――蔦が、弾けた。
一本、二本ではない。
数十本が、地面から、木から、空間から。
絡む。
叩く。
締める。
「くっ……!!」
ロザリアは必死に反撃する。
火で焼く。
光で切る。
風で吹き飛ばす。
だが、蔦は――
焼けない。切れない。折れない。
理由は単純だった。それは魔法ではない。
土地そのものの延長だからだ。
「ば、化け物……!」
その言葉に、初めてオリビアが口を開く。
「違うわ」
穏やかに。
「あなたが、この場所を、戦場にしただけ」
蔦が、一斉に締まる。
ロザリアの身体が宙に浮き、魔力が完全に封じられる。
そして――
組み上げられる。蔦が、格子を作り、
枠を固め、逃げ道を消す。
――蔦の檻。
中は狭い。息はできる。だが、魔法は使えない。
「……出しなさい……!」
声は、もう震えていた。オリビアは、淡々と告げる。
「解除はしない」
一拍。
「敵意を持って踏み込んだ人間は」
「“戻れない”って、最初から決まってるの」
蔦の檻が、ゆっくりと浮上する。
「王城へ返してあげて」
「第二王子の“元・婚約者”を」
木々が応え、檻ごと、運び出す。
なお。
檻は、解除されない。
王城前に置かれても。
魔術師団が触れても。
王が命じても。
蔦は、沈黙したまま、そこに在り続けた。
後日。
第二王子パトリックは、青ざめて呟いた。
「……本気で戦って、それで、あれか……」
王は、頭を抱えた。
「だから言っただろう……
“あの庭は、戦場にするな”と……」
そして、当の本人。
オリビアは、浮遊クッションで昼寝しながら、ぽつり。
「……魔法戦、久しぶりで疲れたわ」
庭の木々が、ざわりと揺れた。
それは、完全制圧を告げる音だった。
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