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8話.騎士のその後
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十字架に花を手向ける。
父上には失望したと思っていたのに、こうして、墓参りをすると心に来るものがある。
「なんだ来てたのか」
私が墓の前で、考え事をしていると後ろから話しかけられた。
聞き覚えのある声に振り向く。
やはり声の主は兄、アランだった。
「おにい?何しに?」
わずかに出た涙を拭い、振り向く。
「なんだ。泣いてたのか」
ニヤニヤしながらアランは言った。
「泣いてない」
「お前も結構可愛らしいところあるんだな」
「うるさい」
相変わらずムカつくことを言う兄だ。
けれど、最近アランは少し変わったような気がする。
何がとは具体的に言いずらいが、今のアランはムカつくことを言うけど、あまり悪意を感じない。
「別に現当主が前当主の墓参りに来るのはそんなに不思議なことでもないだろう」
そう言って、アランも墓の前に花束を添えた。
「そういえばさ、お前俺の事をおにいって呼ぶよな。兄上って呼んでくれないのか」
「何?呼んでほしいの?」
「いや、うち名家で厳格だし、父上のことは父上って呼んでたのに、なんでなのかなって疑問に思っただけだよ」
「別に。おにぃは昔は優しかったでしょ。その時の名残が消えないだけよ」
「昔は、ね」
どこか申し訳なさそうにアランは言った。
しょうがないわね。フォローしてあげるか。
「けど、今日は憎まれ口を叩かないのね。なんか最近のおにぃ、嫌いじゃないかも」
「ふん、お前に負けてなんか憑き物が落ちたんだよ。それに今の俺はヴァイロン家当主っていうもっと重い仕事があるからな。天才で生意気なクソ妹にかまっている暇はもうねーのさ。……あー、だからってわけじゃないけど、なんというか、今まで悪かったな」
アランが信じられないセリフを言った。
まさか兄の口からそんな言葉を聞けるとは。
「えっ、なんか気持ち悪いわ」
「なんでだよ!」
そうして、私達は笑い合った。
なんだか、昔の仲が良かった時に戻ったみたいだ。
そのまま私たちは別れた。
「じゃあな。もう会うこともないだろう。償いになるとは思ってないが、生活費とか必要な金は送るから。好きに生きろよ」
「え?また会うでしょ?私、今日から最強の冒険者目指すから。もちろん騎士として!だから、防衛作戦とかで一緒になった時はよろしくね」
アランはゲンナリしたような顔をして言う。
「ったく、こっちの気も知らないで。もうお前とは会いたくなかったってのに。分かったよ。最強の騎士でも冒険者でもなっちまえ。お前なら何にだってなれるだろ」
「ありがと」
なんだか、少し前までのクソ兄貴が昔の優しいおにいに戻ったようで心が躍った。
欲を言えば私が物心ついた時ぐらいの憎まれ口一つつかない無条件で優しかった兄に戻ってほしいけど。
けど、兄も前を向いているようだ。
そして、私達はそのまま別れた。
次会う時は色々な土産話が聞けそうね。
◇
私はそのまま冒険者ギルドに赴いた。
「「リアさん!こんにちは」」
「おねぇ様!こんにちわ」
ギルドに着くとユウ君達が迎えてくれた。
この前のアルマ村2度目の襲撃事件依頼、彼らが私を見る目が以前にも増して眩しくなった。
まぁでも、尊敬してもらうというのもなかなか気持ちいいものね。
追放されてから自己肯定感が下がって素直に喜べなかった。
その心境の変化に驚くと同時に、感慨深く思う。
こうして前向きになれたのもルナ様のおかげかな。
おそらく彼らの態度が変わった理由は父との決闘だろう。
あの戦いで何か思うところがあったのかしら?
けど、父との決闘の結果は私にとって決して喜ばしいものでもなく、そのことを彼らも分かってるから触れてこない。
本当にいい子達だ。
「こんにちは。この前はありがとうね。
ギルドマスターはいる?」
「はい、あとルナ王女がいらっしゃってます」
「ルナ様が!?なにかしら?」
「詳しくは聞いてないんですけど、この前の事件のことで報告があるみたいですよ」
「そう、ありがと。じゃあちょっと行ってくるわね」
笑顔で手を振ると、彼らも手を振り返してくれた。
「はい、また後で」
また後で?あの子達、今日は冒険には行かないのかしら?
少し疑問に思ったが、追求はせずに私は待合室に向かった。
◇
対合室に行き、ルナ様から聞いたのは、今回の事件の報告だった。
「あのあと、ボノクラ伯爵には自宅謹慎と罰金を課しました。けれど他の貴族の妨害もあり、それ以上のペナルティを与えることは不可能でした。本当にごめんなさい」
「いえ、ルナ様が謝られる事では」
「それと、今回のヴァイロン家の襲撃計画。ノア・ルーシャス・ヴァイロンに命令を出した人物ですが、ボノクラ伯爵を語った何者かであり、その人物は不明。現在は迷宮入りが見えてきている。ということにしてあります」
「ということにしてあります?とはどういう」
引っかかる言い方だ。気になってルナ様に聞いてみた。
すると、ルナ様はにやりと笑ってこう言った。
「その不明人物がボノクラ伯爵本人である証拠ぐらい見つけられないわけがないじゃないですか。ただ、どうせ明るみになっても碌な罪にできませんからね。ですので、隠ぺいして、貴族の片棒を担ぎました。私たちが貴族たちの地位を失墜させたあとに、それはそれはおも~い罰
を受けてもらうために、です♪」
権力を利用しないのは損ですよ、とルナ様は悪い顔で微笑む。
やはり、この人はただ優しいだけの王女さまではない。
けど、だからこそ信頼できる。
汚い貴族を相手にしていくにはそれぐらいでないと。
「ということで、報告は以上です。リアちゃん、この後時間ありますか?付き合ってほしい所があるんです」
________
読んでくださり、ありがとうございます。
次回で最終回です。
よかったら最後まで見てもらえると嬉しいです。
もし面白ければ、お気に入り登録お願いします(>_<)
父上には失望したと思っていたのに、こうして、墓参りをすると心に来るものがある。
「なんだ来てたのか」
私が墓の前で、考え事をしていると後ろから話しかけられた。
聞き覚えのある声に振り向く。
やはり声の主は兄、アランだった。
「おにい?何しに?」
わずかに出た涙を拭い、振り向く。
「なんだ。泣いてたのか」
ニヤニヤしながらアランは言った。
「泣いてない」
「お前も結構可愛らしいところあるんだな」
「うるさい」
相変わらずムカつくことを言う兄だ。
けれど、最近アランは少し変わったような気がする。
何がとは具体的に言いずらいが、今のアランはムカつくことを言うけど、あまり悪意を感じない。
「別に現当主が前当主の墓参りに来るのはそんなに不思議なことでもないだろう」
そう言って、アランも墓の前に花束を添えた。
「そういえばさ、お前俺の事をおにいって呼ぶよな。兄上って呼んでくれないのか」
「何?呼んでほしいの?」
「いや、うち名家で厳格だし、父上のことは父上って呼んでたのに、なんでなのかなって疑問に思っただけだよ」
「別に。おにぃは昔は優しかったでしょ。その時の名残が消えないだけよ」
「昔は、ね」
どこか申し訳なさそうにアランは言った。
しょうがないわね。フォローしてあげるか。
「けど、今日は憎まれ口を叩かないのね。なんか最近のおにぃ、嫌いじゃないかも」
「ふん、お前に負けてなんか憑き物が落ちたんだよ。それに今の俺はヴァイロン家当主っていうもっと重い仕事があるからな。天才で生意気なクソ妹にかまっている暇はもうねーのさ。……あー、だからってわけじゃないけど、なんというか、今まで悪かったな」
アランが信じられないセリフを言った。
まさか兄の口からそんな言葉を聞けるとは。
「えっ、なんか気持ち悪いわ」
「なんでだよ!」
そうして、私達は笑い合った。
なんだか、昔の仲が良かった時に戻ったみたいだ。
そのまま私たちは別れた。
「じゃあな。もう会うこともないだろう。償いになるとは思ってないが、生活費とか必要な金は送るから。好きに生きろよ」
「え?また会うでしょ?私、今日から最強の冒険者目指すから。もちろん騎士として!だから、防衛作戦とかで一緒になった時はよろしくね」
アランはゲンナリしたような顔をして言う。
「ったく、こっちの気も知らないで。もうお前とは会いたくなかったってのに。分かったよ。最強の騎士でも冒険者でもなっちまえ。お前なら何にだってなれるだろ」
「ありがと」
なんだか、少し前までのクソ兄貴が昔の優しいおにいに戻ったようで心が躍った。
欲を言えば私が物心ついた時ぐらいの憎まれ口一つつかない無条件で優しかった兄に戻ってほしいけど。
けど、兄も前を向いているようだ。
そして、私達はそのまま別れた。
次会う時は色々な土産話が聞けそうね。
◇
私はそのまま冒険者ギルドに赴いた。
「「リアさん!こんにちは」」
「おねぇ様!こんにちわ」
ギルドに着くとユウ君達が迎えてくれた。
この前のアルマ村2度目の襲撃事件依頼、彼らが私を見る目が以前にも増して眩しくなった。
まぁでも、尊敬してもらうというのもなかなか気持ちいいものね。
追放されてから自己肯定感が下がって素直に喜べなかった。
その心境の変化に驚くと同時に、感慨深く思う。
こうして前向きになれたのもルナ様のおかげかな。
おそらく彼らの態度が変わった理由は父との決闘だろう。
あの戦いで何か思うところがあったのかしら?
けど、父との決闘の結果は私にとって決して喜ばしいものでもなく、そのことを彼らも分かってるから触れてこない。
本当にいい子達だ。
「こんにちは。この前はありがとうね。
ギルドマスターはいる?」
「はい、あとルナ王女がいらっしゃってます」
「ルナ様が!?なにかしら?」
「詳しくは聞いてないんですけど、この前の事件のことで報告があるみたいですよ」
「そう、ありがと。じゃあちょっと行ってくるわね」
笑顔で手を振ると、彼らも手を振り返してくれた。
「はい、また後で」
また後で?あの子達、今日は冒険には行かないのかしら?
少し疑問に思ったが、追求はせずに私は待合室に向かった。
◇
対合室に行き、ルナ様から聞いたのは、今回の事件の報告だった。
「あのあと、ボノクラ伯爵には自宅謹慎と罰金を課しました。けれど他の貴族の妨害もあり、それ以上のペナルティを与えることは不可能でした。本当にごめんなさい」
「いえ、ルナ様が謝られる事では」
「それと、今回のヴァイロン家の襲撃計画。ノア・ルーシャス・ヴァイロンに命令を出した人物ですが、ボノクラ伯爵を語った何者かであり、その人物は不明。現在は迷宮入りが見えてきている。ということにしてあります」
「ということにしてあります?とはどういう」
引っかかる言い方だ。気になってルナ様に聞いてみた。
すると、ルナ様はにやりと笑ってこう言った。
「その不明人物がボノクラ伯爵本人である証拠ぐらい見つけられないわけがないじゃないですか。ただ、どうせ明るみになっても碌な罪にできませんからね。ですので、隠ぺいして、貴族の片棒を担ぎました。私たちが貴族たちの地位を失墜させたあとに、それはそれはおも~い罰
を受けてもらうために、です♪」
権力を利用しないのは損ですよ、とルナ様は悪い顔で微笑む。
やはり、この人はただ優しいだけの王女さまではない。
けど、だからこそ信頼できる。
汚い貴族を相手にしていくにはそれぐらいでないと。
「ということで、報告は以上です。リアちゃん、この後時間ありますか?付き合ってほしい所があるんです」
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次回で最終回です。
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