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第三章 起業と領地経営

領主の嫡男

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ネズミ男は忙しい男だ。

また翌日現れた。領主は王都に滞在中だったようで、代わりに領主の息子を連れてきた。

外でまだうつ伏せになったままの数十名の兵士たちに驚きながらも、二人が室内に入ってきた。

「リカルド・バイゼンと申します。バイゼン家の嫡男です。ルイーゼ様がこちらにご在宅とお伺いしました」

ルイーゼがアンリを伴って奥から出てきた。アンリを見て、ネズミ男は目を丸くしている。

(まだ少し幼いが、こんな美女をもう一人隠していたのか)

アンリはここ数日、税務帳簿のチェックのため留守にしていて、今日帰ってきたのだ。

ルイーゼがリカルドに答えた。

「ルイーゼです。そちらのネズミ男の無礼千万には参りましたわ。バイゼン殿はこんなネズミを何匹も飼っておられるのかしら。でしたら、父に報告せねばなりませんわ」

「失礼ですが、誠にルイーゼ様との証はございますでしょうか」

「なぜお前に私が証をせねばいけないのです? 頭が弱いみたいね。だからこんな間違いだらけの税務帳簿をアードレー家に報告しているのね」

ルイーゼは帳簿をリカルドの前に放り投げた。

リカルドは帳簿の中を見て、どんどん青ざめて行く。帳簿の中に赤文字の添削がぎっしりと記載されている。帳簿の不正が全て正しく訂正されているのだ。

「それとも、頭が悪いのではなく、ネズミの飼い主はドブネズミだったということかしら?」

この帳簿を簡単に入手できるということは、目の前の女がルイーゼであることは間違いない。しかし、この不正をこのまま報告されたら、バイゼン家は終わりだ。アードレー家にあっという間に潰されてしまう。リカルドは窮地を脱出する方法を懸命に考えた。

「失礼致しました。帳簿については、徴税人の報告を鵜呑みにしてしまっておりましたので、再作成して報告し直します。不正を働いた徴税人は罷免するようにします。ですので、何卒お父様へのご報告はその後にしていただけませんか?」

「そう。でも、明日には私はアードレー家に戻るのよ。それまでに出来るのかしら?」

「はい。とりあえず、訂正頂いた内容で報告書を再作成します。徴税人の罷免は手続きにお時間をいただきたくお願い致します」

「いいわよ。で、そこのネズミ男はいつまで私の視界にいるのかしら」

「おい、早く出て行け」

リカルドがネズミ男に耳打ちする。

「わ、わかりました」

ネズミ男は一目散に逃げ出した。

「では、明後日に、アードレー家にバイゼン家当主殿とリカルド殿で報告書を再提出しにきてね」

「かしこまりました」

「そうそう、表にいる兵士も回収してね」

「もちろんでございます」

とりあえずはルイーゼの言う通りにしないとまずいとリカルドは判断した。後にリカルドはバイゼン家の危機を救った名主として、バイゼン家の家族史に名を残すことになった。
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