あの方の妃選定でしたら、本気で勝ちに行きますわ

もぐすけ

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剣に生きろと言われましても

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 私の名はソフィア・リッチモンド。十六歳になったばかりだ。

 リッチモンド侯爵家の一粒種。

 父は剣聖レイブラント・リッチモンド。

 この王国で知らぬものはいない剣の達人を超えた剣の聖人だ。

 母は私を産んですぐに他界してしまったため、父の子は私だけだ。

 父は母が亡くなってから、ますます剣の道に没頭するようになり、今や剣狂と揶揄されているが、実は父に剣でまともに戦えるのは王国では私だけだったりする。

 幼い頃から父直々に、みっちりと鍛えられているからだ。

 でも、私は本当は綺麗なドレスを着て、社交界にデビューして、殿方と楽しく談笑して、ときにはダンスをご一緒したりしたかったのだが、叶わぬ夢だった。

 そんな私の初恋は、剣がらみだった。

 私の通う学園の二つ上の学年に、帝国から交換留学生として、王子が来られた。

 その王子が剣がお得意ということで、学園で一番強い相手と闘ってみたいらしい。

 それで、私が相手をさせられることになった。

 彼の名はリズル・ドン・ステラン、正真正銘帝国の王子だ。

 学長からはわざと負けろと言われたが、そんなことをしたら、父に殺されてしまう。

 模擬試合は、全校生徒が見守る中、校庭の真ん中で行われた。

 私はそこで初めてリズルを見た。

 私よりも頭一つ背が高い。

(髪の毛サラサラで、涼しげな目をした超イケメン!?)

 リズルは静かに微笑んで、見たこともない奇妙な構えをした。

 私は相手にただならぬ気配を感じ、浮いた気持ちを切り替えた。

(変わった構えだけど、相手がどう来ようと、私は冷静に自分の剣を振るだけ)

 始めの合図とともに私は先手必勝とばかりに鋭く踏み込むが、リズルは風のようにゆるりとかわしてしまう。

 そして、剣が見えない奇妙な構えから、リズルは私の剣をかわした流れで、反撃を繰り出してくる。

 突然、剣が伸びるように私に迫って来た。

 私は間一髪かわしたが、かわせたのはほとんど奇跡だった。

 強い。

 父と同じぐらい強い人を私は初めて見た。

 リズルはかわされるとは思っていなかったようで、驚いた顔をした後、嬉しそうに微笑んだ。

 その微笑みがあまりにも素敵で、試合中にも関わらず、私は不覚にも見惚れてしまった。

 隙だらけの私の頭に彼の模擬剣がぽこんと当たった。

「あいたっ」

「あ、ごめん」

 その後、彼は思いっきり吹き出した。

 これが私とリズルの出会いだった。

 たった数分の試合だったが、互いに剣と剣とで大いに語り合った不思議な時間だった。

 しかし、この後、二人の仲は全く進展しなかった。

 リズルには国に許嫁がいるとの噂だったし、試合の様子を聞きつけた父が、私を鍛え直すとか言って、父の軍の遠征に連れて行かれ、しばらく学園に行く暇がなかったからである。

 彼は三カ月間学園に滞在し、女子たちに惜しまれつつ、帝国に帰国したという。

 私がようやく学園に戻ったときには、すでにリズルは帰国したあとだった。

(ひと夏の淡い恋だったのね)

 と泣く泣く諦めた私に、一通の仰々しい手紙が送られて来た。

 珍しく父が家にいて、手紙の件で話がしたいという。

「何でございましょうか、お父様」

「うむ。お前にな、帝国から手紙が来ておる」

 私はドキリとした。

「帝国の皇太子の妃候補に推薦するとある」

「私がですか?」

 王子は知っているが、皇太子には面識はない。

「うむ。しかも、推薦人が皇太子なんじゃ」

 何それ? 普通にプロポーズするんじゃなくて?

「よく分かりませんわ」

「どうやら、帝国では皇太子妃は、国王、王室、皇太子からそれぞれ推薦された妃候補が、幾つかの試験を受け、最高点を取得したものが妃になるらしい」

「ひょっとして、皇太子様って……」

「うむ。模擬試合でお前が負けた相手の兄だ」

 リズルのお兄様?

「兄も相当な使い手だそうだ。剣に生きるお前には、もってこいの伴侶だな」

 いや、剣に生きてないから……。

「それで、お父様?」

「うむ、王国にとってはもってこいの話だ。国王陛下からは直々にお言葉を頂いた。妻の座を取って来いとの仰せだ。学園も全面支援で、結果の如何に関わらず、卒業を確約するとのことだ」

 結婚は親が決めるものだが、まさか外国に行くことになるとは。

 でも、まだ候補に過ぎない。

 変なやつだったら、試験の手を抜けばいい。

「分かりましたわ。リッチモンド家の名にかけて、見事、妻の座を取ってまいります」

「うむ、その意気だ。期待しておるぞ。では、行け」

「いつからでしょうか?」

「今に決まっておろう。勝負は先の先を制すことが肝要だ。早く行けっ」

 剣などに生きたくない私は、今から負けたときの言い訳を考えていた。
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