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淑女教育はお気に召しましてよ

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 リッチモンド家は代々有能な軍人を輩出している家系で、戦功華々しく、国王家の覚えはよい。

 戦功の褒美のたびに領地が増えていき、今や国内最大の領地を持つに至っている。

 ただ、領地が飛び地である上に、軍人ゆえの放漫というか、ほぼ放置の領地経営のため、効率はよくないが、とにかく領地が広大なため、それなりの収入はあり、貴族の中でもかなり裕福であった。

 そんなリッチモンド家は、勝負にはとことんこだわる。

 今回の勝負も当然ながら一族総出で勝ちに行くつもりで、金も人も惜しみなく投入するようだ。

 だが、試験項目は非公開のため、今回の試験どころか、過去の試験もどんなものなのか分かっていない。

 そのため、私の弱点である淑女科目の強化を妃選考が始まるまでの三カ月間で行うらしい。

 私の帝国での住居は、帝都内の豪奢な屋敷に決まった。

 帝国にも親類縁者がおり、そこが手配してくれた。

 私が侍女二十人を引き連れて到着した翌日、総指揮マリー率いる淑女教師団が帝都入りして来た。

 まずはドレスの仕立てのため、帝都でも有名なお店に私は連れられて行く。

 私は心が躍った。

 生まれて初めて女の子らしいことができるのだ。

 ドレスを仕立てて、裁縫や踊りを習い、美容に気遣い、髪やお肌の手入れを毎日行う。

 ただ、ドレスのお店では、私がいいと思った可愛らしいフリフリのドレスは全て却下され、体のラインにフィットした細身のドレスが中心に選ばれて行った。

 どうやら、私はクールな美人らしい。

 店員の目が血走っていて少し怖かったが、ドレス担当のフレアが満足げに頷いていたので、ドレスは大丈夫そうだ。

 最終的にはとりあえず二十着を注文したようで、会計の値段を聞いて驚いた。

 に、二億? とりあえずで……?

 負けたときの言い訳とか考えていた自分は甘かった。

 負けては行けないというプレッシャーがのしかかって来た。

 さ、さあ、次はお楽しみ、待ちに待ったダンスの稽古よ。

「お嬢様、そんな直線的なすり足で移動しないで下さい」

 動くときは最短距離をすり足で、の癖がなかなか抜けない私は、最初から壁にぶち当たった。

「ああ、お嬢様、ステップは軽くです。そんなに踵から踏み込まないで」

 踏み込んで打つ、の癖もなかなか抜けない私には、ダンスは壁だらけだった。

「お嬢様、身体能力があり過ぎて、全身バネのようですが、ダンスはもっと優雅に踊るものです」

 優雅と聞いてピンと来た。

 リズルの剣だ。

 リッチモンド家の豪剣とは正反対の静かに水が流れるような動きだった。

 リズルの動きをイメージして、流れるように踊ってみた。

「お嬢様、素敵です! 初めてとは思えない動きです。その動きを忘れないで、あとはステップを反復練習で覚えて行くだけです」

 忘れるわけがない。

 剣よりも女の子らしいことをしたい私だが、剣で負けたのは悔しかった。

 自分が負けた相手の動きを忘れられるはずがないのだ。

 それと反復練習は、剣の稽古で嫌というほどやっている得意中の得意の練習方法だ。

 私は教師が舌を巻くほどのもの凄いスピードで上達して行った。

 一方、全く上達しないのが、裁縫だった。

「お嬢様、裁縫は捨てましょう。裁縫の時間は他の教科を伸ばすために使いましょう」

 マリーの判断は早かった。

 歴史、文学、算術などの座学もある。

 また、美容のため、睡眠は十分にとるし、ストレスが溜まらないようリラックス出来る時間も適時挟んでいる。

 時間はいくらあっても足りないのだ。

 朝晩の剣の稽古はあるものの、女性らしい生活は、私には夢のようだった。

 三カ月間はあっという間に過ぎてしまった。

「お嬢様、三カ月間よく頑張られました。どこからどう見ても立派な淑女でございます。選定試験中も引き続きフォローしますが、一旦、淑女教育はこれにて終了です」

 私は大変身を遂げていた。

 洗い放しで後ろに束ねるだけだったボサボサの髪は、艶やかに光り輝き、縦ロールになってしまっている。

 そばかすだらけだった肌は、白磁のように滑らかで、触るとしっとりとして柔らかい。

 直線的な動きはなくなり、女性らしい柔らかな動作が身についている。

 教養に溢れ、慎み深い表情も自然と出来るようになり、正真正銘の深窓の令嬢になったのだ。

「行くわよ」

 しかし、攻撃的な気性はそのままだった。

 いざ、皇宮に赴かん。
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