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ある意味天才でしたわ

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 審査員たちは最後の作品の前で苦悩していた。

「この刺繍ですが、モチーフは何なのでしょうか?」

「カエルではないのですか?」

「流れ星かと思いましたが……」

「どなたの作品なのでしょうか。独創的で、何にでも見えます」

「縫製の技術はしっかりしているし、流れるような勢いがあります。ただモチーフが謎です」

「我々の手には余りますな」

 審査員たちが最後の採点を終え、試験官が結果を持ってホールに出て来た。

 「一位の方から順番に読み上げます。マーガレット様、489点、リリアナ様、485点……」

 マーガレットとリリアナはすごいな。

 毎回一番と二番だ。

 あれ? 私の名前が最後まで呼ばれなかった。

「なお、ソフィア様の作品は芸術的すぎて点数がつけられないため、ご自分で点数をつけて頂きたいとのことでした。500点満点ですが、何点にされますか?」

 何なの、それっ。

「500点でお願いします」

 遠慮なんかしないわよ。

 マーガレットが私の方を振り返った。

「ソフィアさん、おめでとう」

 私は微笑んでおく。

 フラワーアレンジメントで100点近く離されているため、マーガレットにはまだ余裕がありそうだ。

 しかし、私にとっては、1000点に値する結果だっだ。

 捨てていた種目だったからだ。

 だが、この瞬間から、他の候補者たちの私への対応が変わった。

 私が挨拶しても無視するし、談笑している人たちの横を私が通ると、ピタリと会話をやめ、そそくさと私から離れていく。

 私をシカトし始めたようだ。

 もともと馴れ合うつもりはなかったし、最初から一人だったため、何のダメージも受けない。

 子供のような対応で笑ってしまった。

 こんな作戦は毛ほども痛くない。

 お前たちは女学生か。

 マーガレットとリリアナは特に変わりはないのだが、そもそもこの二人とは懇親会のとき以外では話したことがない。

 私が全く気にしていない様子が、彼女たちには気に食わないようだ。

 私に聞こえるように陰口を言う作戦に切り替えたようだ。

 500点という自己評価が厚かましいと言った内容が聞こえてきた。

「ねえ、あなた、名前は何ていうの?」

 私は陰口を言っていた女性を正面から見据えた。

「……」

 女性が私を無視して立ち去ろうとしたので、大声で叫んだ。

「私を厚かましいと私に聞こえるように言ったこの破廉恥な女の名前は、何というのでしょうか? 本人が答えたくないのは、私に名前を知られるのが、怖いからなのでしょうか?」

 女が真っ赤になって、振り返って答えた。

「アンリよ」

「アンリね。耳が聞こえないかと思ったわ。あなたの名前、心に刻み込んでおくわ」

 アンリはこの日を最後に、妃候補の会場から姿を消した。

 真夜中に急に山に登りたくなって、崖から転落して、事故死したらしい。

 リッチモンド家は手を出していない。

 私に疑いが行くように誰かが仕向けたのだろうと思う。

 ほうら、殺し合いになって来たわよ。

 リッチモンド家の土俵に入ってきちゃって、後悔しても知らないわよ。
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