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水曜日
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翌朝、アーニャが持って来る朝食を待つまでもなく、鞄の中身をのぞいてみた。
え? 火曜日?
あ、昨日はすぐに寝てしまって、今日の用意をしていなかった。こんなことは初めてかもしれない。私は自分でも嫌になるぐらい几帳面だったはずなのに。
アーニャが朝食を持って来た。私を見て驚いている。
「どうかしたの?」
「お嬢様、お、おへそが出ております」
寝衣の上着がはだけて、お腹が見えてしまっていたようだ。衣服をどんなときもきちんと着ている私にしては確かに珍しいが、何もそんなに驚くことではない。
「ああ、ちょっとはだけちゃってるわね」
私が寝衣を整えていると、アーニャが朝食をトレイから取り出した。
「お朝食でございます」
「お、今日は違うメニューじゃない。すごい、すごい、アーニャ、でかしたわよ」
「は、はあ」
アーニャが首を傾げながら出て行った。
こんなに水曜日が来たことが嬉しかったのは絶対に生まれて初めてだ。
学園に着くと、ちょうどユリウスとアリサが一緒に登校してくるところだった。いつかは二人一緒の登校風景を見ると思っていたが、聞いた日の翌日とは。
朝からウキウキしていた気分が一気に急降下してしまった。
「おはようございますユリウス様、アリサ」
「や、やあ、おはよう、クレア」
「クレア、おはようっ。ユリウス様ったら、すごいのよ。第一王子のお誕生日会に招待されているんですって」
初耳だ。
「あ、ああ、そうなんだ。もちろんクレアにも話すつもりだった。パートナーを連れての参加なんだ。クレア、一緒に行ってくれるかい?」
「いつですの?」
「七月七日、今度の日曜日だ」
四日後じゃないの。ドレスの仕立てが間に合わないわ。招待状は少なくとも二ヶ月前には来るはず。なぜこんなになるまで教えなかったのかしら。
アリサがにこにこしながら、私たちを見ている。
「ユリウス様、あいにくその日は、父と大事なお客様とオペラ鑑賞に行くことになっておりまして」
これは本当のことなのだが、断ることは出来る。だが、ユリウスと一緒にパーティに行く気がどうしても起きなかった。
「そ、そうなのかい?」
「ええ、もしアリサがよければ、一緒に行って下さらない?」
「え? 私が? それはちょっと……」
おお、さすがにアリサもそれはまずいと思ったようだ。
「そんなこと言わずに、お願いするよ」
ユリウスは思わず私の許可が出たので、好機とばかりに必死だ。
私は気づいた。ユリウスに幻滅したのだと。三回も婚約破棄だの結婚延期だのと、白々しい芝居じみた口調で言われて、これまでの憧れも好意もぶっ飛んでしまったようだ。
「あの、私、別の殿方からそのパーティにお誘いされてまして、お断りしたのです。ですので、パーティには行けません」
困った顔をしていたアリサは、ハッキリと断った方がいいと判断したのだろう。すごい理由を持ち出して来た。さすがにこれではこれ以上誘いようがないだろう。
(あははは、ユリウスったら、振られてるわ)
「では、授業に遅れてしまいますから、私は先に行きますね」
「あ、ちょっと待って、クレア、私も行くわ」
アリサが私に駆け寄ってきた。一人残されたユリウスは呆然として立っていた。
(いい気味よ、小男めっ)
「ねえ、クレア、ユリウス様を放っておいていいの?」
「いいのよ。どうせ私を連れていく気はなかったのよ」
「そんなこと……」
「それより、アリサ、どなたからご招待を受けてお断りしたの?」
「……内緒にしてよ。フィリップ様よ。第一王子様の……」
「え? パーティの主役じゃない!?」
第一王子は去年学園を卒業されてしまったが、聡明でイケメンで優雅で優しく大人の雰囲気たっぷりの……、美辞麗句をいくら並べても足りないほどの超優良物件なのだ。
去年は恋は盲目状態だったので、私はユリウスしか見えていなかったが、今となっては、第一王子が人間なら、ユリウスはアメンボ以下だ。
(この女、どうしてこう腹の立つことをするのかしら。さっさとご招待を受けておけばいいものを!)
私が睨んでいるのがわかってしまったのかもしれない。アリサが珍しく焦っている。
「あ、そういうのじゃないのよ。王室の別荘が東北の私の家の領内にあって、フィリップ様とは昔から交友があるのよ」
「そういうのじゃなくて、どういうのがあるのよ」
「クレア、いつになく怖いわよ。毎年、殿下の誕生会にはお呼ばれしていたのだけど、どうも今回はいつもと違うみたいな感じがして、お断りしたのよ」
「何が変なの?」
「あのね、私の家の領地に金山が発見されたって話、聞いたことある?」
「あるわよ」
「そう、あなたまで知っている噂なのね」
「どういう意味?」
「ほら、あなたはユリウス様一筋じゃない。ユリウス様以外に興味のないあなたまで知っているってこと」
(いちいち腹が立つわね、この女!)
「それで?」
「なんか、今日のクレアは怖いわよ。別人みたい。あ、それでね、その噂を国王陛下がまともに信じてしまわれて、第一王子の婚約者を私にしようとしているのよ。本当に困っちゃうわ……」
「何が困っちゃうのよ。行っちゃいなさいよ、婚約者になっちゃいなさいよ」
「え? 嫌よ。面倒くさい……」
(こいつ、とことん神経逆なでしてくるわあ)
え? 火曜日?
あ、昨日はすぐに寝てしまって、今日の用意をしていなかった。こんなことは初めてかもしれない。私は自分でも嫌になるぐらい几帳面だったはずなのに。
アーニャが朝食を持って来た。私を見て驚いている。
「どうかしたの?」
「お嬢様、お、おへそが出ております」
寝衣の上着がはだけて、お腹が見えてしまっていたようだ。衣服をどんなときもきちんと着ている私にしては確かに珍しいが、何もそんなに驚くことではない。
「ああ、ちょっとはだけちゃってるわね」
私が寝衣を整えていると、アーニャが朝食をトレイから取り出した。
「お朝食でございます」
「お、今日は違うメニューじゃない。すごい、すごい、アーニャ、でかしたわよ」
「は、はあ」
アーニャが首を傾げながら出て行った。
こんなに水曜日が来たことが嬉しかったのは絶対に生まれて初めてだ。
学園に着くと、ちょうどユリウスとアリサが一緒に登校してくるところだった。いつかは二人一緒の登校風景を見ると思っていたが、聞いた日の翌日とは。
朝からウキウキしていた気分が一気に急降下してしまった。
「おはようございますユリウス様、アリサ」
「や、やあ、おはよう、クレア」
「クレア、おはようっ。ユリウス様ったら、すごいのよ。第一王子のお誕生日会に招待されているんですって」
初耳だ。
「あ、ああ、そうなんだ。もちろんクレアにも話すつもりだった。パートナーを連れての参加なんだ。クレア、一緒に行ってくれるかい?」
「いつですの?」
「七月七日、今度の日曜日だ」
四日後じゃないの。ドレスの仕立てが間に合わないわ。招待状は少なくとも二ヶ月前には来るはず。なぜこんなになるまで教えなかったのかしら。
アリサがにこにこしながら、私たちを見ている。
「ユリウス様、あいにくその日は、父と大事なお客様とオペラ鑑賞に行くことになっておりまして」
これは本当のことなのだが、断ることは出来る。だが、ユリウスと一緒にパーティに行く気がどうしても起きなかった。
「そ、そうなのかい?」
「ええ、もしアリサがよければ、一緒に行って下さらない?」
「え? 私が? それはちょっと……」
おお、さすがにアリサもそれはまずいと思ったようだ。
「そんなこと言わずに、お願いするよ」
ユリウスは思わず私の許可が出たので、好機とばかりに必死だ。
私は気づいた。ユリウスに幻滅したのだと。三回も婚約破棄だの結婚延期だのと、白々しい芝居じみた口調で言われて、これまでの憧れも好意もぶっ飛んでしまったようだ。
「あの、私、別の殿方からそのパーティにお誘いされてまして、お断りしたのです。ですので、パーティには行けません」
困った顔をしていたアリサは、ハッキリと断った方がいいと判断したのだろう。すごい理由を持ち出して来た。さすがにこれではこれ以上誘いようがないだろう。
(あははは、ユリウスったら、振られてるわ)
「では、授業に遅れてしまいますから、私は先に行きますね」
「あ、ちょっと待って、クレア、私も行くわ」
アリサが私に駆け寄ってきた。一人残されたユリウスは呆然として立っていた。
(いい気味よ、小男めっ)
「ねえ、クレア、ユリウス様を放っておいていいの?」
「いいのよ。どうせ私を連れていく気はなかったのよ」
「そんなこと……」
「それより、アリサ、どなたからご招待を受けてお断りしたの?」
「……内緒にしてよ。フィリップ様よ。第一王子様の……」
「え? パーティの主役じゃない!?」
第一王子は去年学園を卒業されてしまったが、聡明でイケメンで優雅で優しく大人の雰囲気たっぷりの……、美辞麗句をいくら並べても足りないほどの超優良物件なのだ。
去年は恋は盲目状態だったので、私はユリウスしか見えていなかったが、今となっては、第一王子が人間なら、ユリウスはアメンボ以下だ。
(この女、どうしてこう腹の立つことをするのかしら。さっさとご招待を受けておけばいいものを!)
私が睨んでいるのがわかってしまったのかもしれない。アリサが珍しく焦っている。
「あ、そういうのじゃないのよ。王室の別荘が東北の私の家の領内にあって、フィリップ様とは昔から交友があるのよ」
「そういうのじゃなくて、どういうのがあるのよ」
「クレア、いつになく怖いわよ。毎年、殿下の誕生会にはお呼ばれしていたのだけど、どうも今回はいつもと違うみたいな感じがして、お断りしたのよ」
「何が変なの?」
「あのね、私の家の領地に金山が発見されたって話、聞いたことある?」
「あるわよ」
「そう、あなたまで知っている噂なのね」
「どういう意味?」
「ほら、あなたはユリウス様一筋じゃない。ユリウス様以外に興味のないあなたまで知っているってこと」
(いちいち腹が立つわね、この女!)
「それで?」
「なんか、今日のクレアは怖いわよ。別人みたい。あ、それでね、その噂を国王陛下がまともに信じてしまわれて、第一王子の婚約者を私にしようとしているのよ。本当に困っちゃうわ……」
「何が困っちゃうのよ。行っちゃいなさいよ、婚約者になっちゃいなさいよ」
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(こいつ、とことん神経逆なでしてくるわあ)
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