デブ執事

saionji41

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第10話 紳士の謝意

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「ん?何か良いものがあったのかい?」
「山葵山さん、ちょっとこっち来て四つん這いになってもらっても良いですか?」
希美はそう言うと、琴音を木の傍に立たせて、その前に山葵山を誘導する。

「ん?なんで四つん這いに?」
そう言いながらも何か良いことがあるかもしれないという思いを擦れきれない山葵山は、琴音の前で四つん這いになる。
そして、きもち首を下にさげ上目遣いになる山葵山。

こいつは、、と思いつつも思い通りに行動してくれる山葵山を可愛いとさえ思ってしまう。
配置についたのを確認すると、琴音は聡美に声をかける。

「聡美ちゃ~ん、準備できたよ~。」
木の下で四つん這いになっている山葵山を確認してすべてを察知した聡美は、淑女であるので靴を脱いで前にある台に足をかける。
うぉ、といううめき声が聞こえた気もするが、聡美は台に乗り枝に手をかけ下から猫に手を伸ばし、舌を鳴らしながら近づいていく。

「玉三郎~、怖くないよ~。こっちおいで~。」
玉三郎と呼ばれたその猫は、若干の警戒心を残しながらも聡美の手の方にゆっくりと近づいてくる。
しかし台となっている山葵山は、顔の右を上に水平にして右目で木の上の様子を窺ってるのか聡美のスカートを窺ってるのか、体制がおぼつかなく定期的にがくんと揺れる。
その度玉三郎は驚いて後ずさりする。

見かねた希美は、琴音に目配せをする。
そして山葵山の左頬に左足を添える。
希美の行動を理解し、琴音は右頬に右足を添える。
互いに目を合わせると、小さく「せーのっ、」とタイミングを合わせて山葵山の顔を足で挟んで固定する。

「ぐえっ!」

すると台がきちんと役割を果たすようになり、聡美と玉三郎の距離が小さくなってくる。
玉三郎は聡美の指先のにおいをかいで、左頬を聡美の手に寄せるともう勝負あり。
聡美は玉三郎の首を優しく撫でると、玉三郎はそのまま頭を手に這わせて聡美のもとへとやってきた。
「やぁ、玉三郎は甘えん坊さんだね。」

聡美は玉三郎を抱きかかえ、台からゆっくりと降りる。
同時に希美と琴音は山葵山を開放する。
「鯨谷さん、どうもありがとう。とても助かったわ。」

希美は聡美に感謝の意を述べるとともに、両手を差し出し成果を要求する。
聡美は若干惜しみながらも、玉三郎を希美へと差し出した。
受け取ると、希美は土埃を払っている山葵山へ玉三郎を差し出す。
「やぁ、よくやってくれたね。」
そう言いながら、不躾な態度で受け取ろうとする。

その態度を見た希美は、ぱっと差し出した手を引っ込める。
驚いた表情をしている山葵山を、希美は鋭い眼で睨みつける。
「せっかく手伝ってあげたのに、なんでそんな態度とれるんですか?」
山葵山は希美の軽蔑するような眼を確認する。
そして琴音と聡美もまったく同じ眼をしているのを確認する。

「申し訳なかった、手伝ってくれてありがとう。」
観念したのか、山葵山は謝罪と感謝の言葉をささげる。
その対応に満足したのか、希美は笑顔で玉三郎をささげる。
山葵山は頭を下げてそれを受け取る。
これではどちらが大人なのかわからない。

「よし君たち、手伝ってくれたお礼をしたいから、今から事務所に来てもらって良いかな?」
女子中学生に手伝ってもらい、説教を受け頭を下げる。
これでは大人の面目が立たないと感じたのか、山葵山は3人に大人の、いや紳士の威厳を見せようとする。山葵山は引っ掻かれながら、希美たちに提案する。

玉三郎は山葵山の手を逃れて、聡美のもとへとやってきた。
これでは山葵山一人で事務所に成果物を持っていけないだろうと、希美はその提案を承諾する。
「お礼って、何かくれるんですか~?」

琴音は聡美が抱えてる玉三郎にちょっかいを出しながら確認する。
山葵山は少し考える。
希美は考えてなかったのか、と思いながら観察していると携帯電話を取り出してどこかに連絡をしている。
スマートフォンではない、折り畳みでもない。アンテナがついてるタイプの携帯電話だ。

「あ、幸子くん、山葵山だけど。依頼されてた猫を捕獲したんだけども、手伝ってくれた人がいてお礼の品を用意してくれないかい?これから向かうからすぐ用意してくれると助かる。うん、君に任せるよ。ありがとう。それじゃ。」
電話を終えた山葵山は、希美たちの方に向かって親指を立てる。
「お礼は今用意してもらってるから、期待しててくれ!」

出会ったばかりだが、この短時間での印象からとても期待できるものではない。
希美は全く期待することなく、微笑みながら山葵山についていく。
「鯨谷さん悪いわね、手伝ってもらった上に一緒についてきてもらっちゃって。」
気にしないでと言いながら、聡美は玉三郎に夢中である。
嫌そうでないことに安心した希美は、隣の琴音に目を移す。

「お礼ってなんだろうね?スイーツかな?コスメかな?」
スキップしながら楽しそうにしている琴音に、期待しすぎない方が良いよと希美は返す。確実にコスメではない。
あの探偵に、女子中学生が喜びそうなお礼を用意できるとは到底思えない。
電話口では女性の名前を口にしていたが、おそらく年配のパートさんみたいな人だろう。
どうせおせんべいとか、あんこの和菓子とかであれば良い方だろう。
期待してがっかりするより、期待しなくて想像以上だった方が良い。
希美はそんな失礼なことを考えながら、自分たちの歩く速度などお構いなしに進む山葵山に少し早歩きでついていく。

そんな各々違う思惑を抱きながら、意外としっかりした外観の探偵事務所に到着した。
ここの二階が事務所なんだ、そう言いながら山葵山は外階段に案内する。
一階、というより作業スペースみたいなところには少し錆びれた軽自動車と何に使うかわからない工具などがある。

ただいま~と言いながら事務所へと案内する山葵山。
おじゃましま~す、と希美たちは中へと入る。
すると想像していた事務所とは違い、生活感が溢れる空間がそこにはあった。
ソファにテレビ、冷蔵庫洗濯機といった家電に加えてランニングマシーンやトレーニングマシーンのようなものまである。

希美たちがあたりを見回していると、奥からお帰りなさ~いと声がする。
奥からやってきた女性と思われる人を見て、希美はまた驚いた。
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