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大平原

気づいたら異世界の王様になってて草生える

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「アカネさんはこの平原の貴族で、しかもその権利の7割以上はアカネさんが保持しているんですよね? でしたらアカネさんにはこの平原に領地を持つことが許されているんです。その領地にこの盗賊団から『悪いことから足を洗いたい』って考えてる人だけをスカウトして人数を集めれば国として認められるのも時間の問題ですし、何よりこの人たちを救済することもできますよ! 馬狩りも、一人の貴族として禁止することはできなくても、国として取り仕切ることならできるはずです!」
「そうなんだ、全然知らなかった。むしろシグレさんはよく知ってるね」
「私は以前貴族に仕えていたことがありますからね。むしろアカネさんはなぜ知らないのですか?」
 そんなこと言われても、私は名ばかりの貴族になったばっかりだから……。むしろその辺りの情報は私よりもお馬さんとかの方が詳しいぐらいだと思う。

「でも、そんなにうまくいくかな。たとえ私が王様になったとしても、人々がついてこなかったら意味ないよね。政治とかできる自信ないよ?」
「そうだ、誰がお前なんかについていくものか! そうだろう、みんな⁉︎」
 私の弱気な発言を聞いて、様子を伺っていた盗賊団のリーダーも元気を取り戻したようだけど、周りの反応を見る感じだとあまり反応は良くないみたい。突然現れたような私なんかと対等になっちゃうぐらいなら、多分リーダーには向いてないよ、君。……まあそんな喧嘩を売るようなこと口には出さないんだけど。
「そ、それに! そうだ、どうせこいつもお前らに盗賊まがいのことをさせることになるに決まってる! むしろ俺よりひどくなるに違いない! なにせこいつはだからな。俺たち平民の気持ちなんて分からないんだろうよー」
 ああ~、これは。ヒサメくんの気持ちがわかる気がする。でもこれが、みんなが貴族に対して抱いているイメージなんだろうね。
「失礼な! アカネさんはそんなことをしない! 迷えるものよ! アカネさんを信じるのだ!」
 いやシグレさん、気持ちは嬉しいんだけどそれはなんか違う。私は別に、神様ではないんだよ。
 でもシグレさんが突拍子もないことを言い出してくれたおかげで話の軸が噛み合ったような感じがする。
「ところで盗賊さん。どうして盗賊さんは盗賊になったの? これだけ広い土地があるんだから、農業とか酪農とかは考えなかったの?」
 私は農業に詳しいわけじゃないけれど、これだけ大規模な盗賊団を作るぐらいなら、盗賊として遊牧生活をするよりも街や村を作って定住生活を送った方が安全なんじゃないのかな。
「素人が! 俺たちだって試したさ。 でもダメなんだよ! この辺りの土地は痩せていて、雑草すらほとんど生えないし、俺たちがどれだけ耕して種を撒いても芽が出る気配すら……」
「いや、周りよく見て。めっちゃ草が生い茂ってるけど?」
「それはその、……なぜだ? なにが起こった⁉︎」
 いやそれはこっちが聞きたいが。あ、そうか。草生やしたのは私だったんだっけ。
『お主よ、おそらくお主が魔力を大地に還元するまでこの土地はの状態が長く続いていたのであろう。その結果として土地に魔力が行き渡らず、草すら生えぬ荒野となってておったのであろうな』
『すまねえな。俺の力じゃ大地に魔力を回しきれなかったんだ。だがお前は俺がおままでため込んでた魔力も全て大地に還元してくれたんだな。おかげでこの土地は向こう百年は植物もよく育つだろうよ。改めて感謝するぜ!』

 ……あれ、それってもう解決したんじゃないの?

「ねえ盗賊さん、もしここでみんな平和に農業できるってなったら、盗賊業から足を洗うって約束できる? 真面目にみんなと暮らしていける?」
「あ、ああ……くそ、俺の負けだ。好きにしろ、お前の勝ちだ! 俺はお前に従うことにする!」
「いや、従うとかは別にいいよ。それより、そういうことならこの国のことはお任せしてもいい?」
「は、なにを言って?」
「いやだから、私は旅の途中だから、王様としてここに居つくわけにもいかないんだよね……。この国のことは任せるから、人々と馬々を導いてあげてね!」

 ふう、これで一件落着かな。
 後でテントとかは返してもらうことにして、しかも、私たちについてきちゃった魔馬たちもお任せできるし、まさに一石二鳥だね。

『お主よ、そういうことであれば我はここに残らせてもらおうか。魔馬たちをまとめるためには長だけでは手が足りぬであろうしな』
『パパが残るなら、私も……。ごめんねお姉さん、私もこの魔馬たちを放っておけないの! でもお姉さんはいつかこの土地に戻ってくるんだよね? また会えるんだよね!』
「え、そうなの。二人ともここに残るんだ。だったら私も……」
『お主は、我らのことなど気にせず先を目指すが良い! シグレ殿の馬車を引く馬であれば、お主一人増えたところで問題はなかろう。お主はもっと、お主の同族と親交を深めるべきなのだ。それこそが、お主が記憶を取り戻すために必要なことなのだ!』
『そうだよお姉さん! また記憶を取り戻したら戻ってきてね!』
「お馬さん、仔馬さん……‼︎」
 なんだろう。相手は見るからに馬なのに! なのに別れることによる寂寥感にはなんの違いもない。一緒にいた期間は一週間にも満たないぐらいなのに、それこそ何年間も一緒にいた友達が転校して離れ離れになったときのような……。
「シグレ……さん……!」
「アカネさん、私には馬達の言葉はわかりませんが、ニュアンスはわかります。馬たちと別れることを決心されたのですね! 安心してください、アカネさんは私が連れて行きますよ!」

 シグレ……さん……!

 私は。少なくともこの世界の私は、こんなにも友達に恵まれた。
 お馬さんと仔馬さん親友たちに見送られて、シグレさん素敵な人と旅立つんだから。

「それじゃあお馬さん。この国のことは任せたよ! シグレさん、それじゃあ……」
『お主よ、達者でな!』
『お姉さん、お元気で!』
 お馬さんたちは、馬車に乗り込んで草原に駆け出す私たちを最後まで見送ってくれた。
「アカネさん! やはり目指すは魔導学院ですか?」
 そして気の良い仲間と新たなる旅に出る。
「もちろん! さあ行こう、目指すは魔導学院だよ!」

 異世草:魔導学院編に続く!
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