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37 普通の転生者、逃げ出す
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「…………殿下?」
僕が小さな声でそう言うと、僕を婚約者候補だと出まかせを言った男はムッとした表情を浮かべながらゆっくりと口を開いた。
「王城で務めていて、まさか自国の王子を知らない者がいるとはな。私もまだまだということだ。まぁ、第四王子などそのような存在なのかもしれないな」
「……第四……王子」
そう言えば聞いた。第四王子から結婚の打診がある事。でも父様はもう少し考えてもいいみたいな事を言っていたし、お祖父様は嫌だったら断れるみたいな事を言っていた。僕は始めから王家とか公爵家とかに興味がなかったからもうお断りをしてもらっているつもりだったんだけど、宰相閣下は昼食に誘って来るし、そしてまさかの……
(婚約者候補ってなんだよ~~~~~)
今度の休みに絶対に断りをお願いしてこよう。
「…………失礼をいたしました。でもいきなり腕は掴まないで下さい。今後、万が一同じ事をされたら、同じように叫びます。ではこれ以上ご用件がないようでしたら失礼いたします」
「待て! 用件はある」
「…………なんでしょう」
「これだ」
殿下はそう言って一通の手紙を差し出した。
「……これは?」
「茶会の招待状だ」
「…………私に、ですか?」
「そうだ」
「ありがとうございます。では中を確認いたしまして、お返事いたします。では失礼いたします」
「待て! 返事など決まっているだろう」
「は?」
どうやらこの殿下とは意思の疎通が出来そうにない。
駆けつけてきてくれたフィルを含む警備の人や、王子付きの護衛の人、そして単なる野次馬が増えて来ていい見世物になっているというのに、どうしてこんな態度なの? 王子だから偉いのか。でもそれだけで本当に偉いのかな。
「……手紙は中身をきちんと見てお返事をするものだと思いますが」
「王族からの招待など、返事は決まっている。そういう時はありがとうございます。承りましただけでいいのだ」
ああ、駄目だ。僕はそんなに人の好き嫌いって表には出さないけど、嫌だと思うととことん嫌になるタイプなんだよね。久しぶりにそんな人に会ってしまった。
目の端に僕の気持ちが分かってしまったようなフィルの強張った顔が見える。
うん。ここで僕が切れちゃったら、絶対にフィルが庇うように動いちゃう。それは分かる。だから駄目だ。絶対にダメ。大人だ。大人の態度で躱さなきゃ。大丈夫、出来る。僕なら出来る。
「…………申し訳ございませんが、昼食の時間が終わってしまいましたので仕事に戻ります。失礼いたします」
その瞬間、殿下の顔の表情が抜け落ちて、フィルは呆れたような仕方がないなって顔をした。あれ? 違ったかな? これじゃ駄目?
けれどその瞬間。聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「これはこれは、メルヴィン殿下。ご無沙汰をいたしております」
「…………アルトマイヤー」
「はい。本日はこのような所へいかがされましたかな」
「……茶会の招待を」
「ほぉ、この辺りはまだ入って間もない者達が働く場、そのような所へ直々に茶会の招待ですか?」
「…………」
「とりあえず、人も集まってきておりますので、新人たちはまだ仕事に慣れていない者も多い故、失礼がありましたらご勘弁を。さぁ、早く仕事に戻りなさい。ああ、食事はきちんと取りなさい」
「ありがとうございます。宰相閣下。では失礼いたします」
いつもなら、胸の中で溜め息をついてしまう声だけど、今日はすごく頼りになる声に聞こえてしまったよ。うん。これもここから逃げ出せるっていう幸せの一つにしておこう。
こうして僕は初めて宰相様に感謝をしながら、目の端でフィルを一瞬だけ見て、逃げるようにしてその場を後にした。
僕が小さな声でそう言うと、僕を婚約者候補だと出まかせを言った男はムッとした表情を浮かべながらゆっくりと口を開いた。
「王城で務めていて、まさか自国の王子を知らない者がいるとはな。私もまだまだということだ。まぁ、第四王子などそのような存在なのかもしれないな」
「……第四……王子」
そう言えば聞いた。第四王子から結婚の打診がある事。でも父様はもう少し考えてもいいみたいな事を言っていたし、お祖父様は嫌だったら断れるみたいな事を言っていた。僕は始めから王家とか公爵家とかに興味がなかったからもうお断りをしてもらっているつもりだったんだけど、宰相閣下は昼食に誘って来るし、そしてまさかの……
(婚約者候補ってなんだよ~~~~~)
今度の休みに絶対に断りをお願いしてこよう。
「…………失礼をいたしました。でもいきなり腕は掴まないで下さい。今後、万が一同じ事をされたら、同じように叫びます。ではこれ以上ご用件がないようでしたら失礼いたします」
「待て! 用件はある」
「…………なんでしょう」
「これだ」
殿下はそう言って一通の手紙を差し出した。
「……これは?」
「茶会の招待状だ」
「…………私に、ですか?」
「そうだ」
「ありがとうございます。では中を確認いたしまして、お返事いたします。では失礼いたします」
「待て! 返事など決まっているだろう」
「は?」
どうやらこの殿下とは意思の疎通が出来そうにない。
駆けつけてきてくれたフィルを含む警備の人や、王子付きの護衛の人、そして単なる野次馬が増えて来ていい見世物になっているというのに、どうしてこんな態度なの? 王子だから偉いのか。でもそれだけで本当に偉いのかな。
「……手紙は中身をきちんと見てお返事をするものだと思いますが」
「王族からの招待など、返事は決まっている。そういう時はありがとうございます。承りましただけでいいのだ」
ああ、駄目だ。僕はそんなに人の好き嫌いって表には出さないけど、嫌だと思うととことん嫌になるタイプなんだよね。久しぶりにそんな人に会ってしまった。
目の端に僕の気持ちが分かってしまったようなフィルの強張った顔が見える。
うん。ここで僕が切れちゃったら、絶対にフィルが庇うように動いちゃう。それは分かる。だから駄目だ。絶対にダメ。大人だ。大人の態度で躱さなきゃ。大丈夫、出来る。僕なら出来る。
「…………申し訳ございませんが、昼食の時間が終わってしまいましたので仕事に戻ります。失礼いたします」
その瞬間、殿下の顔の表情が抜け落ちて、フィルは呆れたような仕方がないなって顔をした。あれ? 違ったかな? これじゃ駄目?
けれどその瞬間。聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「これはこれは、メルヴィン殿下。ご無沙汰をいたしております」
「…………アルトマイヤー」
「はい。本日はこのような所へいかがされましたかな」
「……茶会の招待を」
「ほぉ、この辺りはまだ入って間もない者達が働く場、そのような所へ直々に茶会の招待ですか?」
「…………」
「とりあえず、人も集まってきておりますので、新人たちはまだ仕事に慣れていない者も多い故、失礼がありましたらご勘弁を。さぁ、早く仕事に戻りなさい。ああ、食事はきちんと取りなさい」
「ありがとうございます。宰相閣下。では失礼いたします」
いつもなら、胸の中で溜め息をついてしまう声だけど、今日はすごく頼りになる声に聞こえてしまったよ。うん。これもここから逃げ出せるっていう幸せの一つにしておこう。
こうして僕は初めて宰相様に感謝をしながら、目の端でフィルを一瞬だけ見て、逃げるようにしてその場を後にした。
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