悪役令嬢の心変わり

ナナスケ

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聖ブルノア魔術学園編

第79話 第十三師団

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「アストルム騎士団を動かす?!何言ってんだお前。そもそも動かせないだろ今のお前じゃ、それにアルヴェーヌだって無理だ。」

「言っただろう?入学を酷く嫌がる不良がウチにはいるんだって。」

 アルベルトはあからさまに嫌な顔をした。

「おい、モンフォーヌじゃないだろうな。」

「ピンボーン!さっすがアルベルト王子殿下。」

 冗談じゃないぞと声を上げるがダリアはそんなことなどお構いなく話を進めていく。

「実力の面では問題ないさ、それに彼が一番本当は護衛に向いているんだ。同じ暗殺、諜報を得意とする部隊の隊長を任せられているんだから。」

 机の上に腰をかけるアルベルトを見てダリアはレイヴンを呼び出すと教室を闇の魔法で部屋を一式変えてしまった。
 テーブルにチェア、執事の姿をしたレイヴンはティーセットでお茶の支度をしていた。

「使い魔にこんなことさせてるのお前くらいだよ。」

 レイヴンは黙ったままふたりに紅茶の入ったカップを差し出した。

「アル、鴉はとても賢いんだ。これくらいのこと朝飯前だよ。さて、紅茶も入ったことだし話の続きをしよう。今アストルム騎士団の全権はノアに委ねている。」

「なるほど?」

「ノアはアストルム騎士団の第十三師団の団長でね。彼らは騎士団長であるキースの命令も近衛騎士団の命令でも一切動かない師団なんだよ。つまり、私の命令しか聞かないってことだ。」

「何故そんな仕組みにしたんだ?お前は団のグランドマスターなんだろ?アストルム騎士団の全てがお前に従うのに…」

 ダリアは紅茶をひと口飲むと不敵に笑みを浮かべてこう言った。

「私はあの騎士団を利用したい時に使えるだけで十分なのさ。」

 あまりの予想外の言葉に生唾を飲み込むアルベルトにダリアは続けた。

「あくまでも今のアストルム騎士団 団長はキースであり、彼に運営・指揮などの全てを任せている。だが私には創立した責任というものがあるだろう?キースが何を考え、何をしようと行動しているのかを把握する必要がある。だから暗殺、諜報を得意とする者たちを集め第十三師団を作った。」

「それならアルヴェーヌに定時報告でもさせればいいだろう?諜報が必要となればお前に申告させて第十三師団とやらを動かせばいい。」

 カップをテーブルに置くと影でナイトのチェス駒を出しそれを見せながら「彼はナイトだ」と言った。

「誰もが彼の地位を見てなのだと思うだろう?そして私はその上に立つなのだと。だけど彼は傲慢な私と違って未だに自分は騎士ナイトなのだと思っているんだよ。まだ未熟な騎士であると、ね。私に対して間違った進言をしてはならない、謝った判断で団を動かしてはならない。ミスをしてはならないと思い詰めているんだ。そんな彼に真正面から報告させたり申告させたりしてみたまえ。彼の頭がパンクしてしまうだろう。」

「だが、それでは信用されていないのだと思い悩んでしまわないだろうか?」

「思い悩むことはいい事だよ、学ぼうとしている証拠だよ。人は誰しも迷い、そして謝った決断をするものだ。だがそこから学べるものは多く、どんな財宝より尊いのだと誰かが言っていたよ。大丈夫、別に悩ませたまま放っておくなんて意地悪をするつもりは無いよ。だからこそ彼の負担を減らすためにもこの師団を作ったとも言っていい。」

「あの男は思った以上に大変だったんだな。」

「彼は苦労人だね。」

 お互いの顔を見合って思わず吹き出して笑い出すふたり。
 笑い終えるとダリアは影で羽根ペンと紙を出してなにやら書き始める。

「さて、ではその自慢の師団を早速動かしてみるとしようかな。」

「ダメだって言われてんのにお前は……」

 溜息をつきながら呆れるアルベルトに人差し指で自分の口元にあてながら「シィーッ」として見せた。

「いくら学園が騒いだところでどうにもならないよ。こちらにもがある。」

ダリアはアルベルトに一通の黒い封筒をヒラヒラと見せる。
アルベルトは全てを察したかのようにフッと息を吐くと口の端を引き上げながら呟く。

「負け戦をする気は無いってか?」

「そゆこと。それじゃあお願いねレイヴン。」

 レイヴンはダリアがしたためた白い封筒に入った手紙を受け取りお辞儀をすると鴉に返信し飛び去って行った。
 ダリアは再び指を鳴らして教室を元通りに直す。

「さてと、それでは夕食に参りましょうか?殿下。」

「そうだな、おまえと話していたら腹が減った。」




 𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹🌌
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