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騎士との出会い
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「落とし物を探していただけです。無事に見つかったので、これから帰ります。ほら、行きましょう?」
「いや、女子供だけで夜を歩くのは危険だ。家まで送る」
騎士はそう言い、ルーシェたちに歩み寄る。
銀色の艶のある短髪と、鷹のように鋭く吊り目がちな碧眼。
眉間に皺のある厳つい表情だが、彼の顔立ちは整っていた。
ルーシェは騎士の美男子ぶりに驚いて、思わず一瞬視線を奪われた。
これがのちに婚約者となるウィリアムとの出会いである。
「いえ、その、巡回中の騎士様たちの手を煩わせたら申し訳ないです」
「えー、ぼくは騎士様と一緒に帰りたいよ! お姉ちゃんだけが一人で帰ったらいいよ」
キラキラと憧れの目で騎士たちを見上げている男の子は、騎士とのご縁を純粋に喜んでいるようだ。
「そうね。騎士様には子供の付き添いをお願いします。私は一人で大丈夫なので。ではごきげんよう」
逃げるように去ろうとしたが、それは叶わなかった。待てと呼び止められたからだ。
「灯りもないから足元が危険だ。付き添おう」
「いえ、本当に結構ですから!」
「なぜ断るだ? 顔まで隠しているが、何かまずい事情でもあるのか?」
「いえ、その……」
ウィリアムは真面目に尋問して仕事をしているだけだが、ルーシェにとっては不都合極まりなかった。
「もしかして、無許可の売春婦なのか?」
「えっ?」
ルーシェはまさかそんな風に見られたと思ってもいなくて感情的な声を発していた。
売春婦は一目で分かるような扇状的な装いをしている。
ルーシェは可愛らしいドレスを着て心弾んでいたのに、全く違う評価をされて台無しにされた気分になったのだ。
(こんな人に敬意なんて払いたくないわ!)
「あっ! あそこに子猫を咥えた黒猫が歩いているわ! なんて可愛いの!」
「なんだと?」
騎士たちが反射的に振り返る。隙を作るためにルーシェは咄嗟に嘘をついたのだ。相手が別に意識を向けているうちにルーシェは素早く逃げ出していた。
「待つんだ!」
そう呼び止めるウィリアムの声なんて無視に決まっている。
ルーシェはよく利く夜目のおかげで、真っ暗でも騎士たちから無事に逃げ通せた。
危ない目に遭ってしまったが、指輪が見つからない以上、この日以降も探索は続ける必要があった。
(今度は見回りの騎士に見つからないようにしないと!)
ルーシェは心底そう願っていたが、呪いのせいなのか、降って湧いて出るように現れる面倒ごとに出くわしてしまう。
「ガルルル」
「キャア! こっちに来るんじゃないわよ!」
今度は野犬に襲われている女性を夜道で見つけたのだ。危ない状況を見捨てるわけにもいかない。
女性は持っている灯りで犬の接近をなんとか防いでいるが、犬が女性に飛びかかったら、おそらくひとたまりもない。ルーシェもちろん無理だ。
「ねぇ、妖精さんたち。あそこで犬に襲われそうな女の人を助けることはできる?」
『いいわよ!』
『リリたちに任せてー』
『ほいほいほ~い! 安眠粉雪《ねむねむパラパラ》』
妖精たちは素早く犬の上に飛んでいくと、パタパタと背中の羽をいつも以上に羽ばたかせる。すると、キラキラと光る粉のようなものが犬に降りかかる。
犬の身体がふらついたと思ったら、そのままパタリと地面に倒れた。
「犬はどうなったの?」
『寝ただけよ!』
『朝までぐっすりー』
『逃げるなら今のうち~』
犬に襲われていた女性は、倒れた犬から少しずつ遠ざかろうとしたが、慌てたせいか足がもつれて転んでしまう。
倒れた拍子に灯りが地面に転がり消えてしまった。一瞬で暗くなる。
「あぁ、どうしよう!」
女性の悲痛な声が聞こえて、ルーシェはこのまま立ち去れなくなった。
「大丈夫ですか? 灯りがなくて不便ですよね。火を起こすものはありますか?」
「ヒィ! あんた誰なの!?」
近づいて声を掛けたら、すっかり怯えられてしまう。
「通りすがりの者です。あなたが嫌なら、このまま去りますけど」
「いえ待って、驚いただけなのよ」
女性と話していたら、遠くから誰かが近づいてくる気配に気づく。
「見回りの騎士団だ。そこに誰かいるのか? 火が消えたのを目撃したが」
「まぁ、騎士様! ちょうど良いところに。どうか助けて。野犬に襲われていたんだよ」
(騎士団がまた来たの? 早く去らないと!)
そう思って逃げようとしたが、前回と違い、騎士の数がなぜか多くて、囲まれるように近づかれる。
彼らは手には網が先についた長い棒を持っている。
野犬の捕獲のために駆り出された騎士たちが多くいたせいで、運が悪いことに逃げ損ねてしまった。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
女性に話しかけてきたのは、なんと前回も出会った美形の騎士ウィリアムだ。
「えぇ無事だよ。襲われそうで危なかったけど、不思議なことに野犬が突然倒れたんだよ」
「そちらにいる女性も怪我はないか? うん? あなたは以前にも会ったな」
「あら? お会いしたことがあったかしら?」
ルーシェは思い切りとぼけることにした。
「いや、女子供だけで夜を歩くのは危険だ。家まで送る」
騎士はそう言い、ルーシェたちに歩み寄る。
銀色の艶のある短髪と、鷹のように鋭く吊り目がちな碧眼。
眉間に皺のある厳つい表情だが、彼の顔立ちは整っていた。
ルーシェは騎士の美男子ぶりに驚いて、思わず一瞬視線を奪われた。
これがのちに婚約者となるウィリアムとの出会いである。
「いえ、その、巡回中の騎士様たちの手を煩わせたら申し訳ないです」
「えー、ぼくは騎士様と一緒に帰りたいよ! お姉ちゃんだけが一人で帰ったらいいよ」
キラキラと憧れの目で騎士たちを見上げている男の子は、騎士とのご縁を純粋に喜んでいるようだ。
「そうね。騎士様には子供の付き添いをお願いします。私は一人で大丈夫なので。ではごきげんよう」
逃げるように去ろうとしたが、それは叶わなかった。待てと呼び止められたからだ。
「灯りもないから足元が危険だ。付き添おう」
「いえ、本当に結構ですから!」
「なぜ断るだ? 顔まで隠しているが、何かまずい事情でもあるのか?」
「いえ、その……」
ウィリアムは真面目に尋問して仕事をしているだけだが、ルーシェにとっては不都合極まりなかった。
「もしかして、無許可の売春婦なのか?」
「えっ?」
ルーシェはまさかそんな風に見られたと思ってもいなくて感情的な声を発していた。
売春婦は一目で分かるような扇状的な装いをしている。
ルーシェは可愛らしいドレスを着て心弾んでいたのに、全く違う評価をされて台無しにされた気分になったのだ。
(こんな人に敬意なんて払いたくないわ!)
「あっ! あそこに子猫を咥えた黒猫が歩いているわ! なんて可愛いの!」
「なんだと?」
騎士たちが反射的に振り返る。隙を作るためにルーシェは咄嗟に嘘をついたのだ。相手が別に意識を向けているうちにルーシェは素早く逃げ出していた。
「待つんだ!」
そう呼び止めるウィリアムの声なんて無視に決まっている。
ルーシェはよく利く夜目のおかげで、真っ暗でも騎士たちから無事に逃げ通せた。
危ない目に遭ってしまったが、指輪が見つからない以上、この日以降も探索は続ける必要があった。
(今度は見回りの騎士に見つからないようにしないと!)
ルーシェは心底そう願っていたが、呪いのせいなのか、降って湧いて出るように現れる面倒ごとに出くわしてしまう。
「ガルルル」
「キャア! こっちに来るんじゃないわよ!」
今度は野犬に襲われている女性を夜道で見つけたのだ。危ない状況を見捨てるわけにもいかない。
女性は持っている灯りで犬の接近をなんとか防いでいるが、犬が女性に飛びかかったら、おそらくひとたまりもない。ルーシェもちろん無理だ。
「ねぇ、妖精さんたち。あそこで犬に襲われそうな女の人を助けることはできる?」
『いいわよ!』
『リリたちに任せてー』
『ほいほいほ~い! 安眠粉雪《ねむねむパラパラ》』
妖精たちは素早く犬の上に飛んでいくと、パタパタと背中の羽をいつも以上に羽ばたかせる。すると、キラキラと光る粉のようなものが犬に降りかかる。
犬の身体がふらついたと思ったら、そのままパタリと地面に倒れた。
「犬はどうなったの?」
『寝ただけよ!』
『朝までぐっすりー』
『逃げるなら今のうち~』
犬に襲われていた女性は、倒れた犬から少しずつ遠ざかろうとしたが、慌てたせいか足がもつれて転んでしまう。
倒れた拍子に灯りが地面に転がり消えてしまった。一瞬で暗くなる。
「あぁ、どうしよう!」
女性の悲痛な声が聞こえて、ルーシェはこのまま立ち去れなくなった。
「大丈夫ですか? 灯りがなくて不便ですよね。火を起こすものはありますか?」
「ヒィ! あんた誰なの!?」
近づいて声を掛けたら、すっかり怯えられてしまう。
「通りすがりの者です。あなたが嫌なら、このまま去りますけど」
「いえ待って、驚いただけなのよ」
女性と話していたら、遠くから誰かが近づいてくる気配に気づく。
「見回りの騎士団だ。そこに誰かいるのか? 火が消えたのを目撃したが」
「まぁ、騎士様! ちょうど良いところに。どうか助けて。野犬に襲われていたんだよ」
(騎士団がまた来たの? 早く去らないと!)
そう思って逃げようとしたが、前回と違い、騎士の数がなぜか多くて、囲まれるように近づかれる。
彼らは手には網が先についた長い棒を持っている。
野犬の捕獲のために駆り出された騎士たちが多くいたせいで、運が悪いことに逃げ損ねてしまった。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
女性に話しかけてきたのは、なんと前回も出会った美形の騎士ウィリアムだ。
「えぇ無事だよ。襲われそうで危なかったけど、不思議なことに野犬が突然倒れたんだよ」
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