10 / 14
相手の正体
しおりを挟む
それから父はサミエル卿との打ち合わせだけではなく、数日かけて彼の身辺を聞き出して調べてくれたようだ。
それも帰宅後にルーシェに教えてくれた。
「サミエル卿はどうやら堅物な方のようだ。近衛騎士だったとき、年の近い王女殿下に声をかけられ、触れられることもあったようだが、勤務中だからと苦言を呈したと聞いた。殿下はそれが面白くなかったのか、他の女官や令嬢たちをけしかけ、卿にちょっかいを出すよう唆したらしい。その結果、殿下は風紀が乱れたと陛下に叱責され、卿は他の騎士団に異動したようだ」
王宮にいる勤務中の近衛騎士に触れることはもちろん、話しかけるのも禁止されている。
「まぁ、そんなことがあったんですね。話を聞いていてサミエル卿は悪くないと思うのですが、どうして異動になったんですか?」
「さぁ、それは私にも分からない。だが、トラブルになった殿下とサミエル卿の評価が下がったのは確かだ。要は左遷だろう」
「まぁ、お可哀想に」
「また、どうやら彼には想い人がいるようだ。道ならぬ恋だと、騎士団の者が面白ろおかしく話していた」
「まぁ」
想い人がいるが、正妻にするには難しい立場の相手のようだ。だから、ルーシェというお飾りの妻が彼には都合が良かったようだ。
「まぁ、それは予想の範囲の噂だったのだが、もう一つ彼に関する妙な話を聞いた」
「まぁ、なんですか?」
「彼は呪われているらしい」
「まぁ、呪いですか?」
「ああ、詳細は私も分からないが、だいぶ昔に卿の周りでおかしなことがあったらしいと、そういう怪しい噂もあった」
(彼も呪われているかもしれないなんて、もしかして私たちは同類だったかもしれないのね)
変なところで彼に親近感を持った。
同じように呪われているルーシェにとっては、重要な噂話だ。是非、噂の真相を知りたいと強く思った。
「王宮に提出する婚約申請の書類に署名する必要がある。そのときにルーシェにも同行してもらう」
「まぁ、そこで初めてサミエル卿にお会いできるのですね」
「すまない、顔も知らない相手に嫁がせることになって」
父の表情から苦渋を感じたので、ルーシェは慌てて笑みを浮かべた。
「お父様、貴族ではよくあることですわ。気になさらないで」
§
数日後、サミエル家の馬車が廃墟同然のハイゼン家に迎えに来てくれて、やっと相手と対面することとなった。
「初めましてハイゼン子爵令嬢。私があなたに結婚を申し込んだウィリアム・サミエルだ」
お昼過ぎ、ルーシェは相手の屋敷で出迎えてくれた若い男性を見て、緑の目を丸くした。
艶のある短い銀髪。綺麗な切れ長の碧眼。見覚えのある美しい容貌。何度見返してもルーシェをいつも追いかけてくる副団長その人であった。
彼の名前を初めて知った。
陽が出ている中で彼を見て気づいたが、彼の目の下には濃い隈があった。そのせいで、吊り目がちな目つきがさらに鋭い印象になっているようだ。
「あの、初めまして。ルーシェと言います。今日はお忙しい中、お会いくださり、ありがとうございます」
「いや、気にすることはない」
まさか知っている人が来るとは、微塵も思っていなかった。
相手からもまじまじとルーシェは見つめられている。
まさかバレたのだろうか。
髪や瞳はよくある色だから、特定はされないと思ったが、予想外すぎる展開に気持ちが全然落ち着かない。
失礼のないようにドレスを従姉から今日だけ借りて着ていた。しかし、家に大きな鏡がなくて全身を確認していないから、変なところがないか今になって気になってくる。
「では、ハイゼン卿、子爵令嬢、中へどうぞ」
屋敷の中を案内されて、冒頭のように彼と契約するに至ったわけだった。
それも帰宅後にルーシェに教えてくれた。
「サミエル卿はどうやら堅物な方のようだ。近衛騎士だったとき、年の近い王女殿下に声をかけられ、触れられることもあったようだが、勤務中だからと苦言を呈したと聞いた。殿下はそれが面白くなかったのか、他の女官や令嬢たちをけしかけ、卿にちょっかいを出すよう唆したらしい。その結果、殿下は風紀が乱れたと陛下に叱責され、卿は他の騎士団に異動したようだ」
王宮にいる勤務中の近衛騎士に触れることはもちろん、話しかけるのも禁止されている。
「まぁ、そんなことがあったんですね。話を聞いていてサミエル卿は悪くないと思うのですが、どうして異動になったんですか?」
「さぁ、それは私にも分からない。だが、トラブルになった殿下とサミエル卿の評価が下がったのは確かだ。要は左遷だろう」
「まぁ、お可哀想に」
「また、どうやら彼には想い人がいるようだ。道ならぬ恋だと、騎士団の者が面白ろおかしく話していた」
「まぁ」
想い人がいるが、正妻にするには難しい立場の相手のようだ。だから、ルーシェというお飾りの妻が彼には都合が良かったようだ。
「まぁ、それは予想の範囲の噂だったのだが、もう一つ彼に関する妙な話を聞いた」
「まぁ、なんですか?」
「彼は呪われているらしい」
「まぁ、呪いですか?」
「ああ、詳細は私も分からないが、だいぶ昔に卿の周りでおかしなことがあったらしいと、そういう怪しい噂もあった」
(彼も呪われているかもしれないなんて、もしかして私たちは同類だったかもしれないのね)
変なところで彼に親近感を持った。
同じように呪われているルーシェにとっては、重要な噂話だ。是非、噂の真相を知りたいと強く思った。
「王宮に提出する婚約申請の書類に署名する必要がある。そのときにルーシェにも同行してもらう」
「まぁ、そこで初めてサミエル卿にお会いできるのですね」
「すまない、顔も知らない相手に嫁がせることになって」
父の表情から苦渋を感じたので、ルーシェは慌てて笑みを浮かべた。
「お父様、貴族ではよくあることですわ。気になさらないで」
§
数日後、サミエル家の馬車が廃墟同然のハイゼン家に迎えに来てくれて、やっと相手と対面することとなった。
「初めましてハイゼン子爵令嬢。私があなたに結婚を申し込んだウィリアム・サミエルだ」
お昼過ぎ、ルーシェは相手の屋敷で出迎えてくれた若い男性を見て、緑の目を丸くした。
艶のある短い銀髪。綺麗な切れ長の碧眼。見覚えのある美しい容貌。何度見返してもルーシェをいつも追いかけてくる副団長その人であった。
彼の名前を初めて知った。
陽が出ている中で彼を見て気づいたが、彼の目の下には濃い隈があった。そのせいで、吊り目がちな目つきがさらに鋭い印象になっているようだ。
「あの、初めまして。ルーシェと言います。今日はお忙しい中、お会いくださり、ありがとうございます」
「いや、気にすることはない」
まさか知っている人が来るとは、微塵も思っていなかった。
相手からもまじまじとルーシェは見つめられている。
まさかバレたのだろうか。
髪や瞳はよくある色だから、特定はされないと思ったが、予想外すぎる展開に気持ちが全然落ち着かない。
失礼のないようにドレスを従姉から今日だけ借りて着ていた。しかし、家に大きな鏡がなくて全身を確認していないから、変なところがないか今になって気になってくる。
「では、ハイゼン卿、子爵令嬢、中へどうぞ」
屋敷の中を案内されて、冒頭のように彼と契約するに至ったわけだった。
20
あなたにおすすめの小説
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる